脇道寄り道回り道
とあるワンコの特権[帝王院]
むかしむかーしあるところにー、カルマと弱っちい奴らが居ましたあ。
あ、こんにちー。皆のカリスマ神崎隼人君だよお。
蠍座AB型の180cmー、ただいま花も恥じらう中学三年生なのー。宜しくねえ!
「ねえねえ、きょーはボス来る日ー?」
「ああ、っと。其処退け隼人、邪魔だ」
酷いよねえ。
隼人君とあんま変わんないくらいおっきい癖にさー、カルマ副総長のユウさんはこんなことゆっちゃう鬼畜なんだよー。
あのねえ、いっつも女の子コロコロ変えててねえ、ケーバンもコロコロ変えててねえ、今日なんか知らないメアドからメール来たから無視してたらねえ、いきなり事務所にバイクで乗り込んできやがったんだー。
あ、隼人君ってば花も恥じらうイケメンだからあ、実はモデルやってんのー。ちょー熟れ売れのトップカリスマモデルー。
右手のプラチナリングはー、こないだCMやったげたブランドの奴でー、先週替えた携帯はイメージキャラクターやってる会社の奴ー。
テレビ付けたら隼人君。
街角に隼人君。
アルタ前にも隼人君。
女の子達がきゃあきゃあゆっちゃうんだよねえ。仕方ないかー、だって隼人君ってば格好よいしい。
「今日は3区のレガリアから受けた果たし状をサクっと無視して、パーティーだって(=・ω・)/」
「焼き肉ならサニーレタスが必要だぜ」
脚立に乗って飾り付けなんかやっちゃってるチビ猿がー、どうでもよいけど高野健吾ー。
でっかい癖にベジタリアンだったりすんのが藤倉、なんだっけ?藤倉ヒロヤ。うん、そんな名前だった気がするー。
どっちも隼人君には適わないけどー、そこそこイケメンかもー。弱っちいけどねえ。
「ハヤト邪魔!寝るなら出てけ!(Тωヽ)」
「全くだぜ」
はあ。
判ってないよ、皆。隼人君の価値を判ってない。隼人君は存在するだけでプラチナ以上の価値が、
「退きなさいハヤト、殺されたいのか」
…蹴られた。
もうよいもん。隼人君はテラスでネンネしますにょ。あとから泣いて頼んだって手伝ってあげないんだからー。
「あー、あっつい」
「総長まだかー、待ちくたびれたー」
「料理班覗いてみっか?何か喰えるかも」
「ダメだって、副長つまみ食いしたら殴るからさぁ」
「力仕事班は店内に入るだけで邪魔だって言うんだもんなー、暑苦しいとか主にカナメさんが」
「疾風が聞いて呆れますよ、湿気の集まりが!…ってアレ、泣いちゃうかと思ったよ俺ぁ」
テラスで固まって座り込んでる三人に隼人君は泣いちゃうかと思ったよ。何処も此処も邪魔だらけなんだからー、くすん。
「…退きやがれボケが、引き摺り回されてぇのか。ああ゛?」
「「「きゃー」」」
ああ、もう面倒臭い。
何でこの俺が進行役なんざやんなきゃなんねーの。ぶっちゃけ苛つくんですけど。
ったく、ボス以外どーでもよいっつーんだよカス共が。一気に吹き飛ばすぞカス共が。
「あ゛ー、うぜ。世界中吹き飛べばよいのに…」
「「「ひぃいいい」」」
「消えろ目障り吹き飛ばすぞカス共が」
「「「すいませんでしたぁ!」」」
聞いてんのかボケ、ぎゃあぎゃあ騒ぎやがってカス共が。何が焼き肉パーティーだ巫山戯けやがって、カニ持って来いカニ。
あーあ。
もうじきボスの誕生日だよ。
そしたら二十歳だってさ。うちの総長サマは。20っつったら俺より五つも年上じゃねーか。大人じゃん。
卒業したらもう来なくなんのかね。大学にしろ就活にしろ、若気の至りなんて言葉で片付けて、カルマのカの字も思い出さなくなんのかね。
次期総長は嵯峨崎かよ。
つまんない。だったら今年一杯でチーム抜けすっかな。学校にも未練ねーし、いっそ辞めて仕事だけやっとこうか。授業なんざ受けなくても問題ないし。俺、天才だから。
総長が総長になったのが高校入学の時、だって。当時から居た奴らが話してた。でも謎だらけなんだ。実は成人とか言う話。どっちにしたって大人には違いない。
幹部で一番最後に入った俺だけその時を知らない。だから、殴った事も殴られた事もない。あの全てを格下だと思ってる相手には、俺の存在なんか映ってねーんだろ。
どうせ餓鬼だし。
いつか復讐してやるつもりだったけど。
「勝ち逃げか」
きっと。
いつまでもいつまでも復讐なんて果たせないだろうから、よかったのかも知れない。
きっと。
いつまでもいつまでも窓の下で一人寝するしか安らげないまま、ずっと独りぼっち。
「上等だ」
友達なんか要らないし。
仲間なんか要らないし。
うまい飯も要らないし。
つか生きるのも死ぬのもどうでもよいし。
性欲だけ満たされれば幸せ気分に浸れるし。少しだけでも。
「とっとと消えろ、」
空から目の前から、月。
満月も三日月も決して勝てない皇帝も、全部。
全部。
「ハヤ」
だから、嫌い。
たったそれだけで幸せ気分に浸れるし。呼ばれただけで泣きたくなっちゃうし。
「来るのおっそい」
「つまみ食いしたら追い出された。慰めてくれ、ハヤタ」
「じゃ、膝枕ー」
「良し来い!」
普通さあ。
慰めてくれって言った奴が膝枕する?逆じゃない?隼人君の長過ぎる足に寝転ぶもんじゃないの?
逆じゃない?
「福袋に入ってた蛍光耳掻きで耳掃除してやろう。マグロ並みに耳糞を一本釣りだ」
「溜まってないし」
「ちっ、つまらん」
「あー、舌打ちしたー。いーけないんだ、いーけないんだー。ユウさんにゆってやろー」
「泣くぞ」
このお洒落ボスめ。
今日はネットメッシュの透け透けタンクトップにリストバンドとダメージジーンズかよ。格好よいぜちくしょー。
然もサイドバックにダークゴールドのサングラスって、完璧カタギじゃないよねえ。高校生でも大学生でもニートでもないよねえ、似合わな過ぎる。何者ですかー。
「来週から夏休みだろう?」
「あー、うん。お仕事もー、ちょっとだけー」
「俺も短期バイト終わったら暇になるからなァ、ケンゴンの別荘に行くぞ」
かわゆいボスは謎だらけ。
何のバイトしてるかも教えてくれないし、いつ来るかも当日にならなきゃ殆ど判らないし、年も住所も教えてくれない。
きっと、ユウさんだけが知ってるんだ。ずっるい。
「ケンゴのってバルセロナ?それともフィレンツェ?」
「軽井沢」
「近場かあ」
頭を撫でる手が優しいの。暑いのに、パラソルの下はちょっとだけ涼しくて。総長の為に扇風機と冷風扇持って来た奴らが、快適なテラスにしてくれたみたい。泣かせるねえ。
「学校は楽しいか?」
「まあ、そこそこ」
行ってないけどね、殆ど。
きっと知ってんだろーね、カナメちゃん意地悪だから。チクってそうだもん。
「苛められてないか?」
「とーぜん。隼人君に勝てる奴なんか居ないし!」
「そうだな」
「うん」
何かさあ、バカみたい。
今だけ優しくしてさあ、突き放すつもりなんて。この人どんだけ性格悪いのって感じ。
だからさあ、書き置き一枚で居なくなった人に、やっぱり、って納得しただけなんて。バカみたいだよねえ。
「探し出すぞ。何か事情がある筈だ」
「了解」
「当然っしょ(ノд<。)゜。」
「草の根分けるぜ」
なのにさー、見放しもしない奴らが本当滑稽で、もう、笑っちゃったよ。ほっんと、大爆笑。
「どうかしましたかハヤト?」
「って、」
「うわ?!Σ( ̄□ ̄;) ちょ、お前、」
別に探すつもりなんかないし。
独りぼっちは慣れてるし。
好きな人はいつも居なくなるし。
つか、あんな奴、好きじゃないし。
こっちも中学卒業した大人だから。
あんなオッサン、どうでもよいし。
他人だし。
もう忘れたし。
もう、どうでもよいし。
「あは」
ほっんと、大爆笑だよねえ。
「何泣いてんだよ、こっちまで悲しくなんだろ(´Д`)」
「…ぐす。泣いてないし馬鹿じゃない猿の癖に」
絶対いじめてやる。
見つけても知らんぷりして落ち込ませて、絶対いじめてやる。
「おい隼人、ドーナツ食え」
「ユウさんが優しいの、ちょーきもい。大人のつもり?一歳しか変わんないのに、ばっかじゃない」
「やんのかコラァ」
好きな子いじめんのはさー。
「つか甘すぎるし。糖尿になるし。ユウさんロン毛だし」
「だったら喰うな」
「うっさいし」
子供だけの特権だもんねえ。
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