脇道寄り道回り道
本日もJR…じゃねぇ、BL御乗車誠に有難うございます[帝王院]
さて、目に見える世界が全てではありません。





例えば我々が神様と呼んでいる存在が、実はただの公務員だったらどうでしょう?

例えばこの世界とはまた別の世界で、沢山のオペレーター達が人間の生涯と言う線路を見守っていて、例えば運命と言う名の列車を管制していたのだとしたら。



例えば、例えば、例えば。





「はー、今日も暇っしょ(´`)」
「駅員らしく、たまには切符切りてーぜ」
「仕方ないでしょう?うちの駅は108駅中乗車率降車率共に最下位なんですから」
「あれー?でもさー、あっちから珍しく車輪の音がするよお?あとケーキの匂いー」
「ん?どれどれ、やっと客が来たん?(*´∇`) おやつまでに一仕事すっか(´∀`)」
「あのお日様マーク、見た事あるぜ」
「また大公陛下でしょうかね、嫌味言うしか能のない」
「んー?なんかさあ、焦げ臭くない?」





「「「「え?」」」」





大公国の真ん中、ミカドIN。
無数のレールが縦横無尽に走り、沢山のジャンクションで踏切が絶えず警報を鳴らしているビーエール(略称BL)の中央線。

インターチェンジを通過した最新鋭モエレールが映し出された巨大モニタの下に、無数のオペレーター達が居た。


「21番ホームでゲーム中の左本線副駅長、お電話が入っております。至急中央経理部局長ニービィの元へお越し下さい」
「繰り返し業務連絡です、ニービィ局長より伝達。左本線ピロアキ副駅長、愛しています許して下さいごめんなさい、と珍しく下手に出たお電話が入っております。痴話喧嘩を勤務中にまで持ち越さないで下さい」

中々に忙しい様だ。

「七番ホームでお煙草咥えた大公が被爆、停駅予定の各線は一時停留願います」
「上り快速801号、到着予定時間を5分オーバーしています。減速して下さい、スピード違反は昼御飯抜きです」

複雑な路線図を横目に、沢山の駅員達が24時間体制で列車の行き来を見守っている。
各駅には総勢108人の駅長、最高官僚である二人の駅長はBLに於いて大公陛下よりも偉かったりするとか何とか。

「陛下、本日も順調にモエレールは稼働しております」
「大儀だ」
「陛下、本日のニービィ閣下VSピロアキ左本線副駅長の痴話喧嘩は閣下の圧し勝ちと相成りました。因みにフタイヨートトの倍率は副駅長の勝ちが8倍、引き分け14倍、閣下の勝ち1.102倍となっています」

此処にその内の一人が居た。
善く言えば冷静沈着、悪く言えば無表情無愛想、滅多に表情を変えない色男だ。

「ふむ、やはりセカンドには弱いかピロアーキめ。大穴は離婚調停だったな」
「243倍でした。残念です」

オペレーターの言葉に頷いた男は弾かれた様に顔を上げ、凄まじい威圧感と爆走音が近付いて来るのを見た。


「駅長陛下ァ!大変でございますわよーっ」
「どうした、左本線駅長チュンチュン猊下」
「これを見て下さいにょ!」

オペレーター達の冷静且つ適格な仕事振りを見ていた最高管制官、BLで一番偉い中央線の駅長リューキュは、その類い稀なる美貌を何故か歪めた。

「赤と黄のグラデーションとはまた、面映ゆい」
「はいっ、新作のピナイチ便箋ですっ!因みに12枚入り百円税込」
「大公への土産に3セット頂こう」
「毎度あり!」

左本線最高責任者である黒縁眼鏡の駅長が、ハァハァ肩で息をしながら差し出してきた煌びやかな便箋に目がシバシバしたのだろう。
ピン札をピッと取り出しながら眉間を押さえたリューキュを余所に、お釣りが足りないらしい貧乏同人作家兼左本線駅長は「お釣りは今後の活動費に当てさせて頂きます」と眼鏡を光らせた。

ケチな駅長だ。


「で、何が一大事だチュンチュン猊下」
「はっ、そうです大変ですのよー!」

阿漕な商売に眼鏡が眩んでいたオタクがボサボサ頭を振り、書類と間違えて持ってきた便箋ごと拳を握る。

「前々から廃線の噂があったあの駅の駅長がっ、遂に乗客数の少なさ苦に線路へ火を付けてしまったんですにょ!」
「何?」

一心不乱に仕事していたオペレーター達も、二人の会話に気付き手を止めた。

黒字一色のBLで、唯一万年赤字だった「あの駅」が廃線されるのだろうか。前々からあの駅長は何かやらかすと噂していた皆は顔を見合わせる。


「ユイーチがそこまで追い詰められていたとは…」
「ユイーチ駅長はリューキュ陛下の従弟さんでしたねィ。お悔やみ申し上げます、うっうっ」
「チュンチュン猊下、気遣いは無用だ。いずれ然るべき処置をする必要があった路線、斯くなる上はBL路線図より撤廃するのみ」
「うっうっ、でもあの路線がなくなったら人間達はとても困ると思います…!リューキュ駅長っ、どうか、どうか廃線にはしないで下さいにょ!」

ビトッと張り付いてくる黒縁眼鏡に、美貌へ苦渋を滲ませたリューキュは頭を振り、きっぱり告げたのだ。

「如何にそなたの頼みであろうと、今回ばかりは寛容し難い」
「陛下!僕はっ、初めて陛下を見損ないましたにょ!実家に帰りますっ、探さないで下さいっ!」

再び爆走していく背中を寂しげに眺めたリューキュはパチりと指を鳴らし、高級明太子を手配する。
左本線駅長を懐柔するには萌か食料が必要だ。



「誠に残念だがユイーチは懲戒免職処分とし、本日限りで、









  前立腺を、BL路線より撤廃する」









たーまやー。
燃え盛る線路を、灰になった駅の跡地から眺めていた彼は腕を組んだまま、粉塵を撒き散らし走ってくる真っ黒い物体、いや、恐らくこの国の王様である大公を見た。


「テメェエエエ!!!」

いきなり爆発した駅は勿論、カンカン鳴り響く警報は壊れた踏切のものだけではない。
ふぅ、と溜め息一つ、燃え盛る線路を三キロ駆け抜けてきたのだろう人物にビシッと指を差した。

「ホームは禁煙だコラァ、俺式セコムが作動しちまっただろうがハゲ大公」
「やっぱりテメェが七番ホームに爆弾仕掛けやがったのか馬鹿犬…!」
「違ぇ、俺の縄張り全線に仕掛けてあんだよ。ったく、ドイツもコイツもマナーがなってねぇなマナーが」

確かに、BL敷地内は指定されたスペース以外禁煙である。例えこの国の王様である大公でも、守らなければならない決まりだ。

「然し…良い燃えっぷりだ。燃えよモエレール!萌えー」
「だからって火薬仕掛ける奴があるか!この馬鹿が!」
「こんくらいやらな煙草のポイ捨てが減んねーだろーが。総長の眼鏡が曇ってんだよ、テメーみてぇな不作法野郎の所為で」

王様の癖に電車なんか乗ってんじゃねぇよ、と爆発に巻き込まれた割りには無傷な男は長い赤毛を三つ編みにしながら、左本線取締役である憧れの人を思い出した。
この801年、ずっとBL左本線で若い駅長を産み出してきた眼鏡駅長は、休みの日になるとゴミ袋片手にもう片手にデジカメを携えて、線路を掃除している。

実際はゴミ拾いと言う名の萌え探しだが、そんな事は誰も知らないのだから仕方ない。
ポイ捨て煙草を拾いながら曇った眼鏡は、この煙草を捨てたのが俺様攻めだと良いのにな、と妄想しているだけだ。

ああ無情。


「だが、一駅長としてホームや線路だけを燃やす訳にゃいかん。客の失態は俺の責任だコラァ」
「…阿呆だ、お前は本物の馬鹿だ」
「線路を燃やした償いは、うちの駅を燃やして償う。それが駅長の責任って奴だろ、やべ、泣きそう」

燃え盛る駅のホームを感慨深く眺めていた男は目元を擦る。


「まぁ良い、この際ホモのケツ駅なんか燃えちまえ」

その目付きの悪さとオカン性格の所為で客が減り年中赤字を叩き出している赤毛駅長は、何故か毎日毎日やってくる電車オタクな王様に手作りケーキを差し出した。

「折角焼いたのにうちの駅員共、病院に運ばれちまいやがったからな。ドイツもコイツも気合いが足りないぜ」

爆発の火力でいつもより綺麗に焼き上がっていたからだ。

「まぁ食え、今日は店仕舞いならぬ駅仕舞いだ」
「テメェなんか懲戒解雇だボケ!」
「マジか」
「駅爆破しといて何をほざくか!リューキュの馬鹿が何と言おうが大公命令、テメェは懲戒免職だ!」
「職権濫用じゃねぇのか、ピニャ大公。ハゲてシね」
「…ぶっ殺す!」

こうなったら総長の嫁になるしかない、と呟き掛けたマイペースな赤毛に、金髪大公の左ストレートが飛んだらしい。

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