脇道寄り道回り道
拍手お礼[黎明/帝王院]
「あ?」

彼が目覚めた時、そこには見知らぬ風景が広がっていた。
くわ、と欠伸一つ、神から恵まれた身体能力でヨッと一声立ち上がり、コロン、と転げ落ちた綿毛を慌てて拾う。

「いたい〜、いたいにょ〜。ぴよん、おくち、いたい〜」
「ごめん、ごめんなァ!ピヨンが俺の股間に乗ってくれてるなんて知らなかったからっ、痛かったよな!」
「いたい、いたい、とんでけ〜。あっちいけ〜」

ふわふわな前足でタラコ唇をもふもふしているとんでもなく愛らしい生き物に、最近切ったばかりの黒髪を掻き乱しながら彼は悶えた。


フィリス永世中立国、第一王子アルザーク=ヴィーゼンバーグ。
肩書きに似合わない黒髪黒目の彼は遊びと駄菓子をこよなく愛する18歳、現在は愛に生きる親馬鹿父ちゃんだ。



「…あ?あそこに立ってんの、うちの可愛いカイちゃんじゃねーか?」
「かい、くろちがう、ぎんいろ?へいん、ぎんいろ?」
「カイィイイイ!!!俺の可愛いカイちゃーーーん!!!」

デカイ声で叫びながら走り出した彼は、然し近付くにつれ増え始めた人間の数に怯み、目を瞠った超絶美形が愛する黒髪紫眼のオカンではなく銀髪金眼である事に気付いて立ち止まった。
頭の上に乗っていた綿毛が転げ落ちる。


「違ェ、お前うちのカイじゃねェな」
「…俊?」
「また貴様かフェイン!此処で会ったが百年目っ、うちのカイにセクハラばっかしやがって!死ね、理不尽キーック!」

理不尽な腹癒せから飛び上がった殿下は、王子とは思えない悪役顔で銀髪の美形に蹴り掛かった。



「カイちゃん、危ないにょ!」


そこへ正義の味方。
いや、オタク現る。

得意の足技を封じられたアルザークの顔色が変わり、突然現れた眼鏡っ子を抱き締める銀髪美形にクワッと目を見開いた。


「テ、テメェ、フェイン…!この俺に毎日毎日しつこく言い寄って来た癖にっ、浮気か!黒髪なら誰でもイイのかテメェ、この野郎!」
「ふぇ?カイちゃん、浮気したにょ?」
「冤罪だ。記憶に無い」
「ブッ殺す…!」

人間殺戮マシーンと化したアルザークの右手が輝き始め、萌と変態の巣窟でしかない帝王院に魔法が振り掛かろうとしたその時、




「総長っ!」
「兄さん!」

赤と金が飛び込んできた。

「………赤い、エルボラス?」

王子には嵯峨崎佑壱が獣に見えたらしい。

「イチ、危ないにょ。僕は今、カイちゃんの愛人と痴話喧嘩の途中ですっ。邪魔しないにょ!」
「俊、だから誤解だ」
「総長、何で総長が二人居るんですか?!」

気付けばカルマ一同と黎明騎士団に囲まれている現状、

「邪魔すんなピナタ!そこの腐れフェインを殴って蹴ってエルニーニャ湖に投げ捨ててくれるわァアアアアア!!!」
「兄さんっ、ラグナザードと戦争するなら俺も仲間に入れて下さい!」
「団長、火に油注ぎまくってます」



「俊?」


荒ぶる二人の俊が、今こそ仁義無き戦いに参戦しようとした所で、



「…あら、カイちゃん?」
「ふぇ、カイちゃんが二人?」
「そ、そんな馬鹿な…」
「ぎゃー、神帝が増えたーΣ( ̄□ ̄;)」

黒髪紫目の、帝王院神威そっくりな騎士が現れる。


「「…」」

二人の超絶美形に周囲から黄色い悲鳴が沸き起こり、二人の超絶美形は一気に臨戦モードだ。

「そなた、…何者だ」
「口の聞き方に注意しろ、少年。我が名はカイ=シェイド、貴様が抱いているそれは俺の嫁だ」
「やだ、カイってばそんな堂々と!」
「ふぇ?黒いカイちゃんは小さい僕のお婿さん?」
「愚かな、この少年が俺のものだ。そなたの嫁などに興味は無い」
「…決闘か、少年」
「愚かな事よ。神に刃向かうならば、この手で制裁を」

驚きの余り銀髪の神威に抱き付く二人の俊は、剣に手を掛けた騎士カイに涙目だ。

「カイっ、コイツ何かフェインみたいな奴だぞ!逃げろ、何かヤバイぞっ」
「カイちゃん、喧嘩はめーにょ。喧嘩したら痛い痛いするなり、めーにょ」

空間が歪み、黒騎士の姿が消えるのと同時に長い銀髪が舞った。

腰を抜かす帝王院側と黎明騎士団一同、二人の俊は一気に興奮状態だ。


「きゃ、きゃーっ!カイちゃんカイちゃんカイちゃんっ、騎士様が居なくなっちゃったにょ!そんでいきなり神帝がっ!」
「ぎゃーっ、出たなルーク=フェインっ!カイちゃんカイちゃんカイちゃんっ、帰ってこーいっ!」

「我が名はルーク=フェイン=ラグナザード、10代ラグナザード皇帝だ。…汝が私に刃向かうならば、容赦しない」
「ならば名乗ろう、我が名はルーク=フェイン=ノアグレアム。47代中央委員会生徒会長として、学園に降り掛かる火の粉は消すのみ」




一触即発、



「俺様が仕事してるっつーのに何やってんだ、お前ら」
「陛下〜、俺様が昼寝してる傍で騒がないでくんない〜?」


で、二人の金髪美形が現れた。
二人の俊の目と眼鏡が輝く。



「コゲイブ!どうにかしろ!」
「は?あ?シュンシュン?…何か小さくなった?」
「焦げイケメンさんっ、ちわにちわ!ピナタの双子のお兄さんですかっ?」
「ん?何だ、シュンじゃねぇか。その眼鏡は何だよ、似合わんぞ」

王子に張り付かれた光王子が赤く染まり、オタクに張り付かれた英雄が眼鏡を奪う。



あら、アルザークが増えた。



「あ?俺がもう一人?」
「あにょ、怖いお顔をあんまり近付けないで欲しいにょ」
「俺様はアルザーク=ヴィーゼンバーグ様18歳、テメェ何様だァ?」
「ふぇ?えっと、あにょ、遠野俊15歳ですっ、オタクの有様です!」
「オタク?それは王子より偉いのかァ?ま、王子っつっても、エルボラス倒したり黒煎茶飲んだり、うんめー棒貪ったりするくらいだけどな」
「えっと、あにょ、萌を探したり萌をデジカメしたり、明太子お握りを噛ったり忙しいんですっ!」
「何と!じゃア、テメェもトレジャーハンターか?」
「萌に駆ける狩人ですっ!お兄さんもサセキに入りますか?!」
「遺跡は大好きだ!わくわくするじゃねェかっ、未知のダンジョン!」



何だか意気投合、二人の黒髪はくるりと振り返り、


「フェイン、冒険に行くぞ。荷物係として付いてきやがれ、役に立たなかったら殴るからな」
「カイちゃん、新しいハチマキ作るにょ。お手伝いして欲し〜にょ」
「然し俊、」
「俊、この男にまで萌を見出だしたのかお前は」
「うちのカイちゃんも実は萌えハンターなんです」
「うちのカイはただのお母さんだからなァ、家で大人しく俺の帰りを待ってるだろーな」
「「俊」」
「煩ェ、フェイン。今すぐ魔法で転移した俺の嫁を返せ、殺すぞボケェ」
「カイちゃん、お昼ご飯は嵯峨崎先輩のお弁当にしましょ。そーしましょ」

胸ぐらを掴まれて睨まれる皇帝の隣で、ピトッと張り付かれる会長。羨ましげに神威を凝視したフェイン陛下はとりあえず殴られていた様だ。




「おや、何やら賑やかですねぇ」
「兄さん…っ!何故フェインなんかと遊びに…!」
「おや?」
「ああっ、我が太陽…おや?」
「どうも初めましてな気がしませんね。私は叶二葉、趣味は昼間の天体観測です」
「ふむ、昼間の天体観測とはまた風流な。俺はベルハーツ=ヴィーゼンバーグ、趣味は兄さんです」
「ふむ、愛に生きる狩人と言った所ですか?」
「やはり滲み出るオーラでバレてしまう様ですね。因みに今年の目標はルーク=フェインを捌く事です。三枚に」
「新鮮なお魚はお刺身が一番ですよ、おや、山田太陽君一匹捕獲」
「きゃー」




太陽の悲鳴を聞いたのは、佑壱の弁当を貪っていた綿毛だけらしい。



「ぴよん、も〜おなか、いっぱい〜。へ〜ぼんトト、いらない〜」
「あ、平凡が黒ピナタに連れてかれた」
「ピナタは俺様にょ。あれは鬼畜の二葉先生なりん」



「萌えとは何だ」
「俺様攻めだ。」

「24年生きてきたが、未だ知らん事柄が存在した様だな」
「18年生きてきたが、未だ俺様攻めを極めるには至っていない」
「国を一つ与えてやろう。私に俺様攻めの極意を教授せよ」
「断る。既に地球全てが我が手中だ。俺が欲しいのは俊の愛」
「我が膨大な魔力を以てしても、それは不可能だな。─────少年」



その日、二人のルークが俺様攻めを勉強している間、山田太陽が捌かれたとか、オタクと王子が帝王院を荒らしまくって関西弁ホストに怒られていたとか言う、しょーもない噂が広まった。





「ンァ?!」
「起きたか。もう昼だ」
「…カイちゃん、何か変な夢見たょ」
「ぴよん、も〜おなか、いっぱい〜。ゲフ」
「銀髪カイとフェインが黒縁眼鏡で迫って来るんだ。


  …泣くかと思いましたわよーっ!」




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帝王院と黎明混じりまくり。

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