脇道寄り道回り道
再録ハロウィン[帝王院]
ハロウィン企画再録
「あー、くっそ、ねっむいなー」
彼はその日の午後、長閑な並木道を歩いていた。
放課後特有の緩やかな時間、沈み掛けた西日は空を緋色に染めていて、
「Trick or treat.(トリックオアトリート)」
「─────んあ?」
その朝と夜の境に、それは現われたのだ。
「悪戯されたくないなら、丸くて甘いお菓子を頂戴…」
「な、」
「さァ、─────丸くて甘いお菓子を…」
陽光を反射させるシルバーブロンド、それはまるで黄金に似た蜂蜜色で、
「な、なん、何てカッコ…してんの、ボスー」
「お菓子を、…くれないんだな、ハヤ」
無表情に一度だけ、妖しい笑みを浮かべたシルエットが掻き消える様に動いたのを、
「I give you a trick of halloween that the twilight-gorst.(黄昏時の悪魔から、ハロウィンのプレゼントをあげよう)」
「わ、」
ただ、視ていた。
(それはまるで、陶酔する様に)
「ユウさんっ」
「どうした、要。今ちょい忙し、」
「は、隼人がヤられました!」
「んだとぉ?!」
ほっぺに生クリームを付けた佑壱が振り返り、可愛らしいオバケがプリントされたエプロンを剥ぐ様に脱ぐ。
息を切らした要にそれを押し付け、大きな箱に何やら詰め込み真っ赤なリボンでラッピング。
テーブルの上に転がっていたその他諸々も大きな風呂敷包みに詰め込んだら、臨戦態勢だ。
「くそ、予定より早ぇ!…が、仕方ねぇなっ、───行くぞ、要!」
「ラジャー!」
二人のワンコは走り出す。
さぁ、ハロウィンの始まりだ。
ネタ切れ防止の苦肉の策(爆)別名、
ハロウィン企画
カルマVS皇帝、仁義無き神無月
神様が居ない月の終わりにやって来る、それは狼達の闘いの合図なのだ編。
主演:カルマの愉快なワンコ達
監督:スティーブン生ゴミバーグ
AD:藤都幟岐
この番組は、豊かなセレブを育てる『帝王院学園』と、萌式会社オタクロブチメガーネの提供でお送りします。
「ユーヤ、ラーメン食いに行こうぜー(´Д`)」
「外にかよ?」
下校時間を過ぎ、昼寝していた二人は眠たげな欠伸を発てる。
半分寝ている裕也に寄り掛かり、中身が入っていないショルダーバッグを頭に引っ掛けた健吾は頷き、
「だって、食堂飽きた└|∵|┐」
「十年同じもん食ってりゃな」
「最近、昔みたいに外出する事もねーしさぁ、総長ってばタイヨウ君ばっか構うし…(Тωヽ)」
「あー、たまには体動かさねーと、鈍って仕方ねぇぜ」
「何か最近太ってねぇか、ユーヤ(@_@)」
「そら、お前だぜ」
いつものノリで雑談しながら、寮ではなく裏門を目指していた二人は奇妙な気配に足を止めた。
ざわり、と人気の無い並木が静寂を突き破り、肌寒い風が吹き抜ける。
「…何だ?」
「気の所為、か?(´-`)」
誰も見当たらない空間を見渡した二人は、然し直後弾かれた様に空を見上げたのだ。
「トリックオアトリート」
何処からか舞い降りてきたシルエットが、緩やかに首を傾げる。右手を差し出し、左手でその銀色の髪を掻き上げ、
「瑞々しくて甘く軟らかい、…お菓子を頂戴」
「総長じゃん(・∀・)」
「待てケンゴ、」
「悪戯されたくないなら、瑞々しくて甘く軟らかいお菓子を頂戴」
「何?(・・;)」
「っ、忘れてたぜ、今日は、」
珍しく笑みを滲ませた唇に駆け寄り掛けた健吾が足を止め、表情を一変、恐怖に似た色合いを滲ませた裕也が叫んだ。
「お菓子をくれない意地悪な奴には、」
「ちょ、」
「逃げろっ、ケンゴ───、」
「I give you a trick of halloween that the twilight-gorst.(黄昏時の悪魔から、ハロウィンのプレゼントをあげよう)」
悲鳴に酷似した声は、静寂の中で掻き消えた。
「副総長、ユーヤさんとケンゴさんが!」
急き切った北緯の台詞に二人は舌打ちする。西日は最早僅かな光を山の端に、その殆どが沈んでいた。
「ユウさん、今年は余りに早いですね」
「ああ、最近おやつ断ちしてたからな、総長…」
「カルマならば状況を理解していますが、生徒達はマズイでしょう。万一お菓子を持っていたとしても、」
「ああ、あの謎掛けに応えられなかった奴は…、」
佑壱の台詞が、昇り行く月の光に溶けた。
「おや、相変わらず芸術的なお顔ではありませんか、山田太陽君」
「アンタの口は嫌味しか言えないのか」
「白百合閣下、今晩はぁ」
「はい、ご機嫌よう円周率君。全く、そこの誰かさんとは違い挨拶が出来て宜しいですねぇ」
「円周率?」
「桜、遠回しに丸い言われてんだよ…、怒っていい所だからー」
珍しく親衛隊も風紀委員も連れていない二葉を前に、帝王院の生徒らしく頬を染める桜を疲れた表情の太陽が見つめている。
そして、
「トリックオアトリート、固くて甘い流星の雫を頂戴」
そのシルバーのシルエットが、輝き始めた月の光に照らされたのだ。
「おやおや、これはまた珍しい姿ですねぇ、カイザー」
「わぁ、今夜の俊君は不良さんなんだねぇ」
「桜、金平糖ある?」
俊の違和感に目を細める二葉を余所に、両手を組んで興奮する桜へ太陽が手を伸ばす。
「やはり、外見に似合わず貴方は愉快な人だ」
「余計なお世話」
「ふぁ?金平糖ですかぁ?」
薄く笑う二葉がそれに倣って桜へ手を伸ばし、不思議そうな桜が首を傾げた。
「謎掛けに応えてあげなければ、カイザーの闇に呑み込まれる。ハロウィンのお約束ですよ」
「固くて甘い流星の雫、つまり星の形をした砂糖菓子。金平糖のコト」
「あぁ〜、成程〜」
「さァ、お菓子を頂戴くれなきゃ悪戯するぞ?」
近付いてくる俊へ三人が揃って手を伸ばし、その掌には星が3つ、
「ハッピーハロウィン」
「お星様に宜しくねぇ」
「どうでも良いのですが、バンパイアの変装は余りにらし過ぎて笑いが出ます。愉快」
金平糖をパクり、と頬張った吸血鬼、にしては少々目付きが悪い男は微かに微笑み、
「I give you a trick of halloween that the half moonlight-gorst.(ハーフムーンの悪魔から、ハロウィンのプレゼントをあげよう)」
声も無く倒れた三人を寝かせて、目を伏せる。
「固くて甘い流星の雫、ピノのレアアイス…。また、食べれなかった」
「ユウさんっ、あそこを!」
要の台詞に先陣を切っていた赤毛が振り返った。見慣れた三人が横たわり、事態の悪化を物語っている。
「山田、安部河、叶までヤられちまうとは…」
「マズイですよ、急がなければ、」
その時、断末魔の悲鳴が轟いた。
「トリックオアトリート、凛々しい甘えん坊のお菓子を頂戴」
「シュンシュン?」
要達が太陽らを見付ける直前、副会長の前にそれは現れた。
漆黒のマントに深紅のブラウス、シルバーブロンドを掻き上げ艶然と微笑む俊に日向の頬が赤く染まる。
「ど、どうしたの、その格好…」
「日向」
「何、もしかして、ちょっと待って、心の準備が…良し、出来た!」
仕事を部下に押し付けて逃げてきたとは思えない男らしい表情で俊を見つめれば、
「固くて刺激的な女神の涙を頂戴?」
「…はい?」
「お菓子をくれなきゃ、」
「あー?二人共、そんな所で何しとんねん?」
丁度仕事を終えて職員寮へ戻る途中だった村崎が俊の後ろ姿に声を掛け、
「早く帰らんとお化けが出んで?今夜はハロウィンやさかいな、」
「キャアアアアア!!!お化けなんてないさァアアア!!!」
「ぐふ!」
日向の目前で俊の肩に手を当てた村崎は、星になった。
「シュンシュン…」
「お化け嫌いお化け嫌いお化け嫌いィイイイ!!!」
「ちょ、落ち、落ち着い、ゲフ」
「「総長っ」」
俊を宥めようとした俺様は哀れにも背負い投げられ撃沈し、俊の悲鳴を聞き付けた佑壱と要が漸く辿り着いた様だ。
「ひっく、…イチ」
「どうしたんスか、今の声…あ?高坂?」
駆け寄ってきた佑壱が日向を踏み付け、
「まさか光王子に何かされたんですか?!」
「ふぇ?」
「マジっスか総長!畜生、死ね淫乱が!変態が!消え去れ!」
驚愕を顕に詰め寄る要へ首を傾げる俊になど見向きもせず、踏み付けた日向を蹴り転がす佑壱は鬼畜だ。
お化け恐怖症も薄れてきた吸血鬼コスのオタクと言えば手を差し出し、
「トリックオアトリート、固くて刺激的な女神の涙を、」
「はい、ピンキーのハート形です」
「凛々しい甘えん坊のお菓子を、」
「ああ、コアラのマーチの眉コアラなら用意してるっスよ総長」
二人からお菓子を貰った吸血鬼はきょとりと首を傾げた。
「瑞々しくて甘く軟らかいお菓子、」
「水羊羹ですか?抹茶と小豆がありますけど、」
「………丸くて甘いお菓子を、」
「ケーキなら焼いてきました、パンプキンケーキっス。1ホール独り占めOKっスよ」
次々にお題をクリアするワンコ二匹に、総長は少し苛ついたらしい。お菓子は嬉しいが悪戯しなければならない理由があるからだ。
「トリックオアトリート、」
「はいはい、お菓子ならまだ沢山ありますよ総長」
「毎年毎年下準備してんスからね、どんな菓子でもバッチコイっスよ」
「俺に萌えをちょーだい!」
しゅばっと飛び上がった吸血鬼が二人の美形に襲い掛かり、声にならないワンコの悲鳴が二つ響いたとか何とか。
さて、その後。
「俊」
「もぐもぐ、あ、カイちゃん」
「何をしている?」
お菓子を片手に、日が落ちた露天風呂でフラッシュを光らせまくる変質者、ではなく吸血鬼に、通報を受けた中央委員会会長が首を傾げた。
本来ならば風紀委員会が出動すべき事態だが、当の二葉と連絡が取れないのだから仕方ない。
「お菓子食べてるにょ。カイちゃんも食べます?」
「もきゅもきゅもきゅ、然し、何故こんな所で…寝ているんだ?」
なのに、浴槽には当の二葉や日向、更には太陽や桜、カルマ一同まで眠ったまま入浴中とは如何なものか。
何処か違和感があるコアラのマーチを貪りながら、流石の陛下も首を傾げた。
「ふむ、そうか眉が生えたのか、最近のコアラは」
「サイトのキリバンで、イケメンだらけの入浴シーンってリクエストが来たにょ。ハァハァ、だから今、取材中ですっ!」
「そうか」
「ふ、ハロウィン大作戦にょ!お菓子も貰えてハァハァ、取材も出来るっ、今日は幸せな1日です!」
「お主も悪よのぅ」
棒読みな神威の台詞に眼鏡を光らせたオタクは、然しマントを奪われた事に気付いていない。
「カイちゃん、パンプキンケーキ半分こしましょー」
撮影に一段落付いた時、ケーキ片手に見上げたオタクは眼鏡に亀裂を走らせる。
「ぷはーんにょーん」
プラチナブロンドをオールバックにした、とんでもない美形吸血鬼が立っているではないか。
「きゃ、きゃーっ!デジカメデジカメデジカメは何処じゃアアア!!!!!」
「俊」
「新しいメモリーカードは何処じゃアアアアア!!!」
「Trick or treat.」
酷く流暢な甘い囁きが落ちる。
デジカメを構えたオタクの眼鏡が一気に曇り、
「菓子よりも甘い口付けを」
「はふん」
近付いてくる薄い唇から反射的に逃げてしまった俊に、
「差し出さなければ、…その身を貰おうか」
「きゃーっ!」
遠ざかるお菓子を振り返る余裕は勿論、明日ベッドから起き上がれるかどうかの心配をする余裕もない。
「確かにハロウィンとは素晴らしい夜だ」
「お化けが出るにょ!は、早く帰ってねんねしなきゃお化けが出るにょ!」
「良かろう、直ちに部屋へ行こうか。睦み合う二人に襲い掛かる怪物など居るまい」
「ふぇ、もうしませんもうしません、許して下しゃい…」
「何を案じている?するのは俺だ、お前はただ眠っているだけで構わん」
何はともあれ、
「今夜は三日月か。ふむ、面映ゆい」
「ふぇぇぇん、うぇぇぇぇぇん」
因果応報が身に染みる、神の慈悲無き月夜。
この番組は、神帝オールウェイズマイペースの提供でおしマイケル。
教訓。
萌え探索も程々にしないと、神様が吸血鬼になって襲い掛かる様です。
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