脇道寄り道回り道
ワンコのパパラッチ、子猫のマーチ[帝王院]
その日、某ナイトカフェはお通夜ムードだった。





「…」
「…」
「…」
「いや、誰か何か喋れよ」
「「「黙れユーヤ」」」
「…」

ボックス席で寛いでいた彼は咥えていたシガレットチョコをグラスの中に突っ込み、今にも発狂しそうな仲間を見やる。

「…まさかこんな事になるなんて、総長に何と言えば良いんですか」
「…畜生、アイツらゼッテー潰してやんよ(TεT )」
「………つかさー、いっそ核とか仕掛けりゃいーじゃん。この町ごと潰したが早いってー」
「会話が危険だぜ。中学生の会話じゃねぇな」

相棒の冷めた眼差しが注がれ、彼は天を仰いだ。


「ケンゴに初めて睨まれたぜ」
「…くそ、どうするカナメ?隼人の言う事もワンリアルあると思うんだ俺(@_@)」
「一理ある、ですか。まぁ確かにあの腐れ餓鬼共をこのままのさばらせる訳には行きません…」
「今度の満月にいっそ核戦争始めよー。俺はボスととりあえずハワイに逃げるからー、後は何とか頑張ってー。葬式は纏めて開いたげるからさー合同葬儀って奴ー?」
「そこまで思い詰めなくても良いと思うぜ」
「「「黙れ雑草頭が」」」
「酷過ぎるぜ」

要、健吾、隼人。
カルマ四天王の内三人から冷めた目で睨め付けられた藤倉裕也はぼそりと呟き、彼女のプリクラで貼り包まれた携帯を開く。


「こんな奴ら無視だぜ」
「苛めは嫌いだ」

彼女へ定期メールを送ろうと微妙にふにゃけた面を晒していた彼は一瞬固まった。
全く気配無く現れた隣の聞き慣れた声に振り返り、落とし掛けた携帯を慌ててキャッチする。


「総長?!」
「今日は三日月ですよ?!」
「にゃ、にゃんで何でっ?!Σ( ̄□ ̄;) はっ、今日って総長の誕生日だったっけ?!」
「ボスー、だっこー、だっこさせてー、同じお布団でとりあえず一晩過ごさせてー」

ナイトカフェに寿司詰めのカルマ総員が立ち上がり、四天王のはしゃぎっぷりを横目に敬礼する。


「一同っ、ファーザーへ敬礼!」
「号令!」
「「「「今日も一日鶏肉が美味い!」」」」

びしっと声を揃えたカルマメンバー、略して陽気なカルメンに支配者はサングラスを押し上げながら鷹揚に頷いた。

「元気なコトはイイコトだ。ユーヤ、黒メールは嫌われるぞ」
「え、あ、うっス!絵文字、頑張って使うっス」
「絵文字は飽きる。デコメがお薦めだ。恋がしたい奴は東大へ行け、デコメ論文を書けと月刊デコデコ専属デコマスターの記事にも書いてあった」
「ボスー、最近ユウさんが副業始めたらしいよー。藤都出版って言う三流雑誌の連載だってー」

さっきまでの険悪な雰囲気は何だったのかと言うくらい浮かれまくっている仲間達を冷めた目で眺め、藤倉裕也はとりあえずデコメサイトを片っ端からサーフィンする事にした。


「総長、そう言えばユウさんがさっき凄い勢いで出ていきましたが…」
「あー、カナメ狡い狡いっ、俺も総長にぎゅーしたいっつーの!=^・ω・^=」
「ボスー、耳掃除やってー。何か特大マグロが耳の中で暴れてるみたいー。一本釣りしてー、そんで新しいお布団買いに行こー」
「揃って変態だぜ」

呟いた裕也は要から魔の微笑を受け、今度こそ完全に沈黙した様だ。
俊の背中に張り付く要、俊の腹に張り付く健吾、俊の膝に顔を埋める隼人。まともな幹部が居ない現在、



「す、スゲェなぁやっぱ。総長にあんな近寄れるなんてさぁ」
「カナメさんに抱き付かれたら俺は死ぬかも知れない…。流石です総長っ、一生付いていきます!」
「つかハヤトさんが怖くて近寄れねぇ…」
「いやいやケンゴさんなんて笑いながら殴り掛かってくるからな…」
「ユーヤさんがさっきから異様に静かなのが気になるよな」

ぼそぼそ話し込む不良共に、裕也はただ心の中で呟いた。
オレは大体いつも静かだ、と。


「つか、副長どうしたんだ?」
「副長の威圧感に比べりゃ、こんなもん屁だよな」
「あっはっはっ、マジマジ、」



「愚か者がァアアア!!!!!」


凄まじい怒号と共に、カルマが誇る四天王三人がカウンターの上まで吹き飛んだ。
カフェのオーナーである佑壱が雇った二十歳そこそこのバーテンが素早くグラスや装飾品を避けて、飛んできた三人から身を躱す。


振り向けばグラサンバ20号を握り潰した男の姿。
仁王立ちする様はただ一言、古代皇帝カエサルの様だとしか形容出来ない。



「何故止めなかったんだこの駄犬共ォっ、俺はお前達をそんな愚か者に躾た覚えは無い!」

怒りに満ちた黒い瞳、大気を震わせる怒号と共に、全てを跪かせる絶対なるオーラ。


「な、何があったんだ?!」
「マジ半端ねぇ、やっぱ総長が一番やべぇ…!」
「ち、ちびるか思った…」
「ひ、ひぃ、ひぃぃい、コェエ…!」

ぼそぼそ呟き合う彼らはその殆どが腰を抜かし、裕也はデコメサーフィンを一時中断し三人が散らかしたカウンターを片付け始めた。

「俺は征くぞ」
「そっ、総長…!」
「だ、駄目だよ総長っ、危ないっしょ!(~Д~)」
「ボスー、隼人君が怒らない内に言う事聞いてねー?」
「止めてくれるな!イチが危ない時に大人しく明太子おにぎりが食えるかァアアア!!!!!」

ていっと倒れていた観葉植物を投げた俊が、しゅばっとソファーを飛び越え走り去っていった。

投げた観葉植物は見事元の場所に収まり、バサバサと葉を揺らして停止する。



「そ、総長…」
「何か良く判んねぇけど…」
「あの人が『征く』っつってんだ」
「俺らも付いていくぞ!」
「「「「「っしゃあっ!!!」」」」」

バタバタと走り去っていったカルメンを眺めていた三人が妖しい笑みを滲ませ、呆れ顔の裕也を振り返った。


「行くぜユーヤ、ABSOLUTELYと全面戦争だ(∀)」
「ユウさん一人に良い格好はさせませんよ」
「大体さー、ユウさんがあの形相で出ていった時点でABSOLUTELY絡みに決まってんじゃんねー。
  どーせ、またお兄ちゃんに何か言われたんだー」
「ユウさんには悪いけど、あの殿様野郎とは一回ヤリ合ってみたかったんだよなー(´Д`*)」
「俺は二番目の猫被り女男が許せません。…あの餓鬼この前総長の頬にキスしやがったからな」
「あー…、この二人に挟まれたオレは可哀想だぜ」
「ねえねえ、一人でも多くのABSOLUTELY倒した奴がラーメン奢るってのはどー?」
「良いですね。ABSOLUTELYの出汁で醤油ラーメンでも作りますか」
「じゃあ俺、味噌ラーメン奢ってやるよ!(´Д`*)」
「隼人君がとんこつラーメン奢ってあげるー。食後のデザートはデリシャスボスに決まりー!」

だだだっと愉快げに走り去っていった三人を見送り、



「あの三人に挟まれたオレは可哀想だよな」
「御愁傷様です。…あれ、オーナー?」

皆が走り去っていった入り口ではなく従業員用の勝手口がある裏から、のそっと入ってきた長身にバーテンが目を見張った。
慌てて振り返った裕也の視界に、赤い髪が映る。


「ふ、副長?何してんスか?」
「あ?裕也だけか。他の奴らはどうしたんだ」
「その袋、何スか」

静かな店内を見回す佑壱の手に携えられたビニール袋の山を指差せば、


「ああ、この間の雪合戦の写真が出来上がったからな。買い出しついでに受け取ってきたぜ」
「買い出しって、…滅茶苦茶不機嫌で出掛けてったじゃないっスか、さっき」
「ああ、総長が来るってメールがあったからな。コーラ切れてたし、写真見せてやりてぇし出迎えてやりてぇし、間に合うか判らんから焦ってたんだ」
「………」
「どうやら間に合ったらしいな」



その日、とあるナイトカフェでは朝まで鼻歌いながら写真をアルバムに貼るワンコの姿が見られたとか何とか。








「迷子になった。…めそり」



その日、とある町の片隅で朝まで膝を抱える男の姿と、



「総長っ(~Д~)」
「総長何処ですか?!」
「ボスー、何処に隠れてんのー?」
「全く、いきなり殴り込んできたかと思えば今度は人探しの手伝いですか。お腹が減りました、フレンチトースト20枚寄越しなさい」
「シュンシュン〜っ、どうしたの返事してシュンシュン〜っ!
  テメェらっ、町中蝨潰しに探して見付けたら俺様に報告しやがれ!」
「「「了解、サブマジェスティ!」」」
「万一誘拐だったらうちの組員率いて首謀者全員日本海に浮かべてやる…!

  シュンシュン〜っ、シュンシュンの日向は此処だよ〜っ!シュンシュン〜!!!」




町中を走り回る集団の先頭に金髪のチビっ子が見られ、オジサン達の癒しになったとか何とか。



その事件をその町では、子猫のマーチとして語り継いでいるとか何とか。






「にゃー」
「にゃー」
「にゃー」
「そーちょー、迎えに来ました」
「ふぇ、イチーーーっ!…空腹だ」
「一晩中野良猫と遊んでりゃ腹も減るでしょーよ。もう朝っスよ、帰りましょ」
「判った」
「にゃー」
「にゃー」
「にゃー」
「そーちょー、



  野良猫は元の場所に戻してきなさい。つかペットは俺だけで我慢しなさい」




「ぐす。」

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