脇道寄り道回り道
キリ69074(俊と神威のラブラブ/帝王院)
※ロクデナシを踏んだハニーからのリク、俊と神威のラブラブ[帝王院]の未来捏造話に他カプを混じらせてます。キャラのイメージを壊したくない方はブラウザバック←







その日はとにかく奇妙な一日だった。



朝一番で山田太陽の携帯が奏でた流行のヒップホップは、親友からのメールを教えるもので。親友からのプレゼント、早い話がワンコ不良が手作りした可愛らしいツナマヨサンドを頬張りながら、寝癖の付いた髪を撫で付け携帯を手に取る。


「…はい?」

内容は簡潔に、今日は授業に出られないと言ったものだった。然し親友にして同人作家のオタクは酷く暗号めいた文章を送ってきていたのだ。



  きょーはお喉が痛い痛いになっちゃったので学校お休みします。
  アンパンマンマーチを八回も歌いました。ねむねむさんがやってきたのに、カイちゃんがお歌しないと怒るので、アンパンマンマーチを八回も歌いました。

  僕が死んだらお墓にメロンパンニャたんのぬいぐるみとにゃんこのテレフォンカードをお供えして下さいにょ。



  さようなら。






何だ、これは。

「何だこれ」

とりあえずメールではなく電話で聞こうとメモリを呼び出し発信するが、アニソンのメロディーコールが繰り返されるばかりだ。
首を傾げながらも始業時間が近い事に僅かだけ焦りながら部屋を出た。






一方、中央委員会執務室。
こちらでも世にも奇妙な光景が繰り広げられている。



「明日は台風かも知れませんね」

ロイヤルミルクティーを啜る男は優雅に眼鏡を押し上げ、雅な溜め息を零した。
眉間に凄まじい皺を刻みながら、然し彼にしては珍しく無言のまま書類を片付けている高坂日向の姿に親衛隊一同が声無き悲鳴を上げている。麗しい笑みを浮かべ眼鏡を曇らせる叶二葉の瞳には涙が滲んでいた。

「ぷ。…く、くく、」
「閣下、お口に合いませんでしたか?」

口元を押さえた彼にミルクティーを煎れたらしいチワワが心配げに近寄る。

「いえ、私の愛しい人の方が酷いので大丈夫ですよ。油断すると塩入りティーを飲まされてしまいますからね、ええ」
「え?」
「まぁ、あんまり可愛いので文句一つ言わず飲んでしまいます。ああ、愛とは不思議にして愉快!」

優雅にカップを空にした男は、無駄に大きい唐草模様の風呂敷に包まれた弁当箱を広げ、ブレザーの内ポケットからマイ箸を取り出す。

「陛下、羨ましいでしょう愛妻弁当ですよ。この焦げた卵焼きが堪らない」
「ほう、腹を壊すなよ。業務に差し障る」
「消化不良など私の敵ではありません。愛は全てに勝利するのですからねぇ、ふふふ」

唐揚げと思わしき物体をガリガリ咀嚼する貴族顔に親衛隊から黄色い悲鳴が沸き起こる。
あっさり完食した二葉は優雅に口元を拭い、優雅に携帯を開いた。

「陛下、高坂君のお陰で明日の焼き芋祭りはお預けですね。折角、食欲の秋だと言うのに遠野君が体調を崩してしまうなんて…愉快」

いつでも何処でも無表情冷静沈着な男はまるで他人事の様に、芳ばしい薫りを漂わせるカップを持ち上げた様だ。一方、無我夢中と言うか一心不乱と言うか茫然自失と言うか、とにかく別人の様に右手を動かしまくる副会長は、凄まじい勢いで書類の山を築いている。

「ふ。…足腰立たないなんて、流石に同情します遠野君」
「…」
「お陰で珍しく高坂君が仕事して下さいますし、今度何かお礼でも…」

ガタリと立ち上がった金髪が、無言で放送用マイクを握るのを見送った。気にする気配の無い生徒会長はこの際どうでも良いが、余りに行動が判り易すぎて笑いを耐えられそうにない。

「ひ、光王子?」

心配げな親衛隊一同はこの際無視だ。賢い執行部役員は一切気にしていない。慣れたのだ。



リーンゴーン。
大聖堂の鐘が鳴る。



「中央委員会よりお知らせです。…今日一日校内で不純同性交遊を発見された生徒及び教員は、………問答無用でこの俺様が殺す。

  命が惜しい奴は今日一日実家にでも帰ってろ!」

叩き付ける音を最後に、帝王院全域が恐怖で染まった。
爆笑する風紀長の声は幸い、執務室に響き渡っただけらしい。







「何だ、今のは?」

生クリームをたっぷり注いだボールを小脇に、泡立て器を握った男はラブラドールレトリバーのキャラクターが入ったエプロン姿で天敵の声らしき校内放送にジト目を向ける。
全くもって男には興味が無い彼に、不純同性交遊は無縁だ。

「自分で自分を殺してやがれ、馬鹿猫が」

鼻で笑って、彼は己に全く似合っていないカラフルな食紅を詰め込んだポットから緑の粉を匙に掬い、純白のボールへ落とした。

「今日はアスパラベーグルのランチだからな、ディップのクリームもグリーンのが良いだろ」


鼻歌う彼を見た被害者は、



「まじキモいー。何でかわいいエプロンをかわいく着こなせないのかなー、あのクソイヌー」

おやつ目当てに不法侵入中の彼だけだ。

「聞こえてんだよ阿呆が、出てけ」
「やだー、出来たてのベーグル奪ってボスの部屋に行く計画があるんだからー」
「Very nice joke.(面白い冗談だな)
  脳天カチ割られてぇのか、テメェ」
「やれるもんならヤりやがれー」

ゆらりと立ち上がるモデル犬の目がきらりと輝いた。
一見ギャル男なボスワンコが泡立て器で臨戦態勢。








「ケーキ」

ぱちりと目を醒ました彼はそう呟き、天井を暫し睨み付けた。
いや、ただぼーっと見つめているだけだが、何処からどう見ても睨み付けている様にしか見えない。
枕元には読み散らかした同人誌に文庫、単行本。それら殆どがキラキラした少年達の恋愛物語であり、健全な青少年の愛読書であるべきである週刊漫画でさえ腐健全な開かれ方をしたまま散らかされていた。


不健全だ。
ああ、腐健全だ。


「ぁ、んぱんまん、」

腰が痛すぎて立ち上がる事も出来ない高校生、なんて。
子供の大好きな正義の味方は、助けに来てくれなかった。

「かぃ…けほっ、げほげほ…っ」

開き掛けた唇は音を放つ前に擦れた咳で喉を焼き付ける。独りぼっちの無駄に広い部屋は淋しくて、淋しくて、泣きたくなった。



「俊」

聞き慣れた声音と共に抱き締められた体は、そのまま浮き上がる。
目前にはいつまでも慣れない、綺麗な顔。

「かぃちゃ、ひゅっ」
「急かずとも良い。息を吸え」
「かぃ、がっこぅ、けほっ」
「執務は済ませてある。…喉を痛めたな」

長い指が喉を撫で、俊の眉がきゅっと寄った。然し彼だけがその表情の意味を理解していたらしい。目元だけで笑み、抱き上げた体をソファまで運ぶとネクタイを緩める。

「のど、ぁめ」
「鎮痛剤が良かろう。待っていろ」
「トローチ、ゃだ」
「嫌か」
「マンゴー、ぁじにょ、にょどぁめ」

咳き込みながら擦れた言葉を紡ぐ俊が、瞳一杯に涙を浮かべている。

「ふぇ。…マンゴー、ぁじ、じゃなきゃ、ゃだ。ふぇ」
「判った、少し待っていろ。手配させる」
「ぃま、じゃなきゃ、ゃだ」

無意識に眉が寄っていたらしい。
滲んでいた雫がぽろぽろ零れ落ち、



「ふぇ。レモネード、のみたぃ。ぉのど、ぃたぃ、にょ」
「…」
「うぇ、だっこ、ぐす、だっこしなきゃ、ゃだ…ァ」

元来口数が多い方ではない彼は、無言で硬直し微動だにしない。
ソファの上でぐずぐず鼻を啜る俊はごしごしと寝起きの目元を擦り、


「ァンパンマン、ゃ、ゆったのに。かぃ、おこ、怒る…うぇ、がっこぅ、サボっちゃめー、ふぇぇぇん」

要領を得ない幼い言葉遣いに喉を鳴らした男は、プラチナブロンドを掻き上げてネクタイを引き抜いた。


「俊」
「ふぇ、嫌いにょ、かぃちゃん、もぅ、嫌いにょ!けほっ、こほこほっ、ひっく」

我が儘らしい我が儘を聞いた事が無い。愛しい人はいつも与えられるもので満足してしまい、何一つ己から欲しがった事が無かった。
だから、これは本当に怒らしてしまったらしい。ああ、それなのに、男と言う生き物は。



「…俊」
「ふぇ、嫌い、うぇ、ふぇぇぇん」
「それ以上、煽るな」
「ふぇ?」
「理性の枷など容易く破綻する」
「ひっく」
「俺がお前に怒りを覚える事など無い。そう認識させるに値する要因があるのだとすれば、」


ぱさり、と。
頭の下に柔らかいソファの感触、真上に天井、微かな重み、痛む喉にきらきら、と。





「俺の下で喘ぐ愛らしい生き物を、どう囲い込もうか。…謀略に更けてしまうからだろうな」



月の光に似た、白銀。



「どの途泣かせるならば、昨夜以上に啼くが良い。」



壮絶な微笑を浮かべた男が近付いてくるのを目撃した彼は、








鼻血と共に吐血した。












「…はぁ?つまり風邪じゃなくて、その、」
「喘ぎ過ぎですね、ただの」

お代わりプリーズと言うメールを受信した太陽は自分用の弁当箱を片手に屋上へ訪れた。
ティアーズキャノン、サクラダファミリア瓜二つな校舎で最も大きい建物からは360度帝王院の敷地全てが見渡せる。


「明日も登校は無理でしょうねぇ」
「え、何で?」
「今頃、新曲でも歌ってらっしゃるんじゃないですか天皇猊下は。先程凄まじい微笑を浮かべた陛下が寮へ戻って行かれましたからね」

悟った太陽は頬を染め、自作の弁当箱と引き替えに与えられた高級イタリアンに舌鼓を打った。
後で俊に会いにいこう。幾ら俊でも、生徒会長相手に抵抗出来ないだろう。

何せ俊は美形に弱い。


「何か、心配になってきたー…」

心臓を押さえる太陽を眺め、恐らくキンピラだと思わしき物体をポリポリ噛み砕いた彼は優雅に微笑んだ。


「貴方も、アンパンマンマーチ歌ってみますか?」
「きゃー」










次の日、見事にベッドから離れられなくなった太陽の携帯にメールが届いた。




  今日はYAH YAH YAHを歌い過ぎて喉も体も痛いので学校お休みします。多分、僕は死にません。

  何度も嫌だと言ったのにあの駄犬はやめてくれませんでした。だから俺はお仕置きします。もう甘やかしません。だって何度もヤーヤーヤー言ったのにやめてくれなかったのです。




  …白日の元に平伏するがイイ、ボケェ。





その日、一日中執事姿の神帝陛下が見られたと言う。


「Σ( ̄□ ̄;)」
「何だ、あれ」


「…ご主人様、お飲み物のお代わりは如何ですか?」
「発泡酒は喉を刺激する。ポカリを持ってこい、アクエリ持ってきたら離婚だ離婚」
「畏まりました」
「おにぎりは焼き明太子とエビマヨ各20個ずつ、唐揚げ山盛りと鶏皮の焼き鳥30本だ」
「畏まりました。サラダは如何致しましょう?」
「愚か者がっ、イチが居ない時に野菜など喰わん!」



笑顔でやってきた執事姿の赤髪に説教され正座する極道顔と、先輩執事に無言で威嚇されビビるワンコが見られたとか何とか。


「なんでユウさんまでコスプレしてんのー。ジェラシー?つかキモすぎるー」

ほざく男も執事姿で耳を掻いた。

「隼人くんのが似合うしー。流石デルモな隼人くんですねー♪」
「あははははは」
「うわあ、いきなり現われないでよーメガネのひとー」
「見て下さい神崎君、貴方のご主人様が銀髪執事にお持ち帰りされてますよ」


「待ちやがれ帝王院!総長を返しやがれぇえええ!!!」
「はふん、むぎゅ!カイちゃん、うぇ、揺れるとお口からおにぎりが………ホームシック。ゲフ」
「俊、午後には通知書が届く」
「あっ、あっ、あーっ!!!受かってるかしら受かってるかしら冬コミ!!!!!
  …落ちてたら僕は死にます。」
「書籍は直接搬入だが、小物は本日中に届く。急がねば逃すぞ」
「きゃーきゃーきゃー、うっかりフロントのおじさんが段ボール開けちゃったらどうしよう!」
「此度の表紙は7色印刷だ。見事な出来映えだろうな」

しゅばっと神威の腕から飛び降りたオタクが、腰の痛みも喉の痛みも忘れて全力疾走。


「萌は現場で起きてるんじゃないっ、妄想の中で起きてるんだァアアア!!!」

追い掛けられるのは、執事姿の相方だけだったらしい。




追記。
  『王子様は執事がお好き』
  サークル:Junkpot Drive

  表紙:シュンシュン
  口絵:カイカイ


オタク界に新風を巻き起こしたと言う二人は、寮まで数分の距離に嵐を巻き起こしたと聞く。




何だそれ。もり様へ捧げます、リクエスト全く無視してすいませんorz
ラブラブって何ですか?(爆)


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