脇道寄り道回り道
単にいちゃつくだけの謹賀新年
いつもの発作だ・と。
果たして何人が呆れた、或いは諦めたのか。



「そうだ、俺は勇者になろう。」

徹夜5日目ともなると目は血走り頬は痩け、血色は青を通り越し灰色。これぞゲーム廃人だとばかりに全身でそれを証明している山田太陽の台詞に、定例の上院総会は凍り付いた。

「…畏れながらアクエリアス、勇者ではなくマスターとして申し上げますが、状況を判ってますか?」

勇敢にも発言した人間に見ていた他の人々から無言の喝采が注がれる。だが然し、日本が生んだ闇と名高いこの男には、そんな問い掛けなど無意味に等しかったのだ。

「状況…?あはは、状況は深刻ですねー。何度倒してもラスボスが減らない。ちょいとマップを外れれば想定外の雑魚モンスターに襲われて即死、雑魚がラスボスより強いとか有り得ないでしょ?ね、発売3日で一周目クリアしたのに、クリアデータ読み込んだ瞬間、始まりの町からラスボスが出現するってどゆコト?」

理事は誰もが沈黙している。
厳かな上院総会会場は、今や円卓の左中央に腰掛ける太陽の声だけが支配した。ちょこんと座っている金髪の元理事長と言えば、隣でガリガリ原稿用紙に書き込んでいる息子を見やり、首を傾げるのみ。

「カイルーク、そなたは先程から何をしておるのだ」
「ベタフラに至る前段階、集中線のペン入れにございます」
「そうか。然しそなたは理事長たる身、上院総会での指南はそなたが為すべきだ。その修羅場とやらはいつ終わる?」
「神のみぞ知る所でしょう」

無表情である二人の会話に耳を澄ませていた役員らは、そっと涙を拭った。壮絶な反抗期を経て、仲睦まじい会話を交わしている。これは奇跡だ。
金髪と銀髪の無表情二人は、同時にずずっとジュースを啜った。

「いかん、まだ炭酸が抜けていないらしい。年寄りに強炭酸は辛いものがあるぞナイト、カルピスはないのか?」
「ふぇ?みーちゃん、お年寄りにカルピスはめーょ?ついつい美味しくて飲みすぎちゃうと、うっかり糖尿になっちゃうにょ。甘めのおしっこが出ちゃうにょ」
「俊、その懸念は不要だ。コーラZEROをカルピスで割れば良いだけのこと」

コーラで割るのではないのかと言うツッコミは、山田太陽ですら口にしなかった。寝不足故の手抜きだろうか。
天然共はカルピスを原液で飲むのが基本の様だ。ごっごっと躊躇わずグラス半分以上みっちりカルピスの原液を注いだ銀髪は、コロロンと巨大な氷を放り込み、シェイカーを取り出した。然し表面張力で踏ん張っているグラスを掴んだ金髪により、シェイカーされる前に喉へと消えていったのである。ごきゅごきゅと。

「…ふむ、誠まろやかである。大変美味。大儀だカイルーク」
「みーちゃん、ポテチお食べになる?のり塩味があるなりん」
「いかん、年寄りは減塩に努めねばならんとゲートボールフレンドのヨネさんが教えてくれたのだ。なので私はボンカンアメを貰おう。年の数だけ」

糖尿が近い。
隣でシェイカーに牛乳とコンソメポテチを放り込んだ銀髪は、バーテン姿で無駄にかっこよくシェイカーをシャカシャカし、無駄にイケメン顔でカップへ注ぎ、無駄に良い声で「…極めた」と囁いた。無論、この無駄すぎるバーテンは帝王院神威その人である。

「セカンド、アイスコンソメポタージュが出来たぞ。礼は良い、俺からの奢りだ」
「畏れながら陛下、私はホットのロイヤルミルクティーをお願いしたのですがねぇ。ごくごく。おや?のど越し爽やか」
「面映ゆい」
「年の数だけ…えっと、ひー腐ーみー。…みーちゃん、数えるの面倒臭いから100個お食べなさいまし!タイヨーちゃん、抹茶味の飴ちゃんお食べになる?」
「俊、このLv300越えてるスライム倒してくれたら脱いでやってもいい」
「俺の細胞が炎を纏ったァアアア!任せておけぇえええ!!!燃えて萌える今の俺に腐可能などないわァアアア、作戦☆俺に任せろ!」

しゅばっと2Pコントローラーを握ったオタクの通常攻撃がたまたまクリティカルで、皆の拍手がわいた。
笑顔の山田太陽は片方の靴下を恥ずかしげに脱ぎ、ピタリと動きを止めた俊にベシッと靴下を投げつけたが、真顔のオタクがベシッと叩き返した為、うっかり吹き飛ばされた靴下が二葉のカップへインする。

「おや、まさかのお代わり。頂きましょう」

変態は躊躇わず太陽の靴下をパクった。

「…タイヨー、男が一度脱ぐと言ったら、恥ずかしがらず…いや恥ずかしがらないと意味はないとしても…まずはアレから脱ぐものだ。そう、つまりはパンツを」
「ふ、俺は脱ぐとは言ったけどパンツとは言ってない」
「屁理屈を…!」
「そんな俺が好きな癖に!」
「世知辛い世の中に俺は物申すぞ!好きだ!」
「顔は好みだけどそれ以外が色々ないからごめん」
「真顔で言わないで欲しいにょ。僕ちんも念のため言っときますけど思春期の難しいお年頃なのょ?」
「えへへ、ごめんねー」
「可愛いから許しますん」

いちゃいちゃと互いの人差し指でツンツンETゴッコをしているオタクと平凡に、叶二葉と理事長が写メフラッシュを浴びせた。まるで記者会見の様なフラッシュだ。長時間同じ光を見ないで下さい。

「おい、会議が一秒も進まず規程時間を満了しつつあるぞ、良いのか高坂」
「…良い訳あるか!」

一人、黙々と議事録をパソコンで纏めていく高坂日向の隣で、議事録の原本を日本語に訳してやる嵯峨崎佑壱はボールペンを置いた。

「馬鹿らしくてやってらんね。おい高坂、新しいスリッパ買いに行くのついてこい。サンリオランド」
「はぁ?!」
「仕事なんか放っときゃ誰かやるだろ。放っとけ」

因みに、仕事は誰もやってくれはしなかった。
ふわふわもこもこアニマルスリッパを颯爽と履きこなした佑壱は、血走った目でキーボードを叩き続ける日向へのお詫びの夜食に特大のオムライスを焼き上げ、サボった遠野・帝王院両会長以下、ゲーム廃人と変態魔王にも特大の拳骨を落としたのである。



これは後に、オカン激怒の乱として永く語り継がれたり継がれなかったりする、アレがアレしてアレな事件であったそうな。



「あんま無理すんな高坂、手書きで良いなら俺が代筆してやっから」
「…助かる、頼む。出来るだけ丁寧に書いてくれ」
「印刷したみてぇに書けって?」
「そこまでは、………って、はぁ?!こ、これが、手書き、だと?!」
「あ?んだよ、俺の字はそんな下手じゃねぇ筈だぞ。何だその顔は」

それから暫く真面目に働く嵯峨崎佑壱の姿が見られたが、どっちにしろデータ化しないといけないので、どんなに字が綺麗でも余り意味はなかった様だ。
高坂日向は初詣の度に佑壱の難儀な帯電体質を直してくれと願い続けたが、流石にそればかりは神様も叶えられなかったらしい。


「今年こそハニーがゲームに飽きますように。お賽銭は5円でしたよねぇ、うふふ」

因みに叶二葉の願いも全く叶わなかった。


「ぷはーんにょーん。今年こそ年末ジャンボが当たりますよーに!当たったら豪華な同人誌を印刷して、あれもこれも、ネタが足りないにょ!ハァハァ」
「俊、元旦に年末ジャンボとは、なんと面映ゆい」

因みに年末ジャンボは発売時期にすっかり忘れていた為、買ってないので当たりませんでした。世知辛い世の中である。



「二葉が新しいゲーム買ってくれますよーに。あ、お賽銭は要らないかー。自分で叶えられるしねー…あはは、あははははは!!!」

某平凡だけは、いつもの発作で今年も元気そうだった。



あけましておめでとうございます。
まだ2016年12月です。すまん。

←*#→
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!