帝王院高等学校
幼い頃に夢見たエトセトラ☆
「ジョージ=バーナード=ショー曰く、人生は自分を見つける事ではない、自分を創る事だ」

とてもとても、悲しい眼差しを覚えている。
彼は最後に鏡を見なさいと呟いた。何かを思い出し、悔いているかの様な、切ない表情だった。

「…いつからか、願ってしまったんだろうか。愛しい孫に何とも悍しい業を着せ、己はのうのうと忘れて疑う事もなかった。それは何と恐ろしい罪だろう」
「俺は知っている。それが正しかろうが誤りだろうが、信じれば等しく真実になるんだ。ドクター=スース曰く、過去を悲しむ必要はない。笑えばイイ、全ては今起きている事だから」
「世に完璧なものなど存在せん。否、在ってはならんのだ」
「どうして」
「お前は少し、賢すぎた。…鏡を見ろ、俊。そこに何が映っている?」

何も。
何も映りなどしない。

「他人の罪を一身に背負い、お前は何と慈悲深く、…愚かな男だ」

物語のキャストは常に他人、自分は幕の外からそれを見ているだけだ。

「世の混沌がお前を産み出した。元に戻すには一度壊さねばなるまい。それこそが儂の儂への裁きだ。…月へ祈り、己が描いた業の名を知れ」
「俺は祈らない。仏にも、神にも、全てに」

悲しい、とても悲しい眼差しだった。

「記憶して生きる事が辛いなら、忘れてしまえばイイ。…龍一郎、お前は俺の我儘を聞いてくれただけだ。責任を感じるな。なァ、お前は何も悪くない。俺はとても、幸せだよ」
「…夜人」
「閏年が産んだ奇跡の子。そなたらは我が社を照らす、星となれ」
「………陛下」
「さぁ、お休みなさい私の宝物達。大丈夫よ、私もお父様も決して貴方達を裏切ったりしない。家族だもの…」
「……………母上、」
「こんな格式ばかりの古臭い家は、これからの日本には必要はないんだ。僕はお前達が誰かの役に立つ、そんな人間になって欲しい」
「父、上」


お前は何も悪くない。
人は誰も悪くない。
全てはただの、純然たる事実が紡いだ軌跡。

ただの物語。



「Close your、」



なァ、そうだろう?

















「ユーヤと初めて顔を合わせたのは、ある経済界のパーティーでした。幾つかの企業のセレクションも兼ねていて、数百…もしかしたらそれ以上集まっていたかも知れません」

山田太陽を真っ直ぐ見つめたまま、錦織要はそんな言葉から紡ぎ始めた。正座させられていた隼人と健吾はそれを合図に足を崩し、健吾は痺れた足を抱え倒れ込み、隼人は唇を尖らせて、椅子に座っている太陽の膝に後頭部を乗せる。
無防備に反らされた喉仏がもりっと突き出て、川南北緯のフラッシュが炸裂した。ピースを忘れないモデルに『古っ』と突っ込んだのは我らが左席副会長だ。

「あ、ごめ、ごめんパヤティー…!ちょ、俺の股間が潰れる…!」
「あは、潰してんですけどお?どーせ使い道ないでしょー」
「オメーら仲良いよな(´ε`*) タイヨウ君、ハヤトを調子に乗らしたら痛い目見るべ?」
「たった今見てる…あたた!ちくしょ、覚悟しろー」

平凡の急所を後頭部で擂り潰そうと企んだ隼人は満面の笑みで、涙目の太陽は青ざめつつデコを光らせ、大きく後ろへ反らしたが、伝家の宝刀である頭突きが迸る前に、スーパーモデルは素早く退避。
股間を押さえ睨みを効かせる山田太陽と、間一髪だった神崎隼人の戦いはこれからだ。
健吾の顔が物語る、しょっぱい戦いである。

「義兄である美月に保護されて、暫く経った頃です。俺達の父親である祭楼月は表向き、アジアを代表する銀行頭取として招かれました。勿論、美月を手放しで可愛がるあの男は、跡取りである美月を伴わせました」
「じゃ、錦織は義兄さんの美月先輩に連れてかれたんだね?」
「そうです。美月の母親は俺の存在を許しましたが、楼月を心の底から嫌っていた。今では別居同然で、内縁状態に近い配偶者と、ヨーロッパで暮らしているそうです」
「愛人ってやつかい」
「二人の結婚はそもそも無理強いされたものだった様です。楼月は野心家で手段を選ばない最低な男ですから、彼女が血を吐く様な想いで耐えていた事は…想像が易い」
「何気に神崎の顔が恐い。どーどー」
「だってさー、女の子に手を出す男なんて最低過ぎるよねえ。カナメちゃん、お父さん似なんじゃない?」

隼人の皮肉に眉を寄せた要を見やり、太陽は額を掻く。隼人がそこまで宣った理由はともかく、要が女性に対しても贔屓をしない性格は何となく把握している。

「俺も祭楼月の顔は見た事はあるけどよ、カナメは親父に似てねぇっしょ?熊みてぇな体格で、顔は鬼瓦みてぇだもんなw」
「ふーん?でも祭美月は何となくカナメちゃんに似てんじゃん」
「そっか?カナメは切れ長な目だけど、あっちはぱっちり二重だべ?鼻筋はカナメのが通ってるしよ(*´Д`*)」
「マジマジ見てんねえ、猿。意外とホモの素質あんじゃない?キモい」
「俺ぁ、この俺を女代わりに見てるオメーみてぇな糞ホモが大嫌いだっつーの!ホモ滅べ!(´Д`)」

教室内の半数が凍りついた。
うんうん頷いている佑壱は親指を立てているが、心臓を押さえている山田太陽は木の実型の瞳を細め、顔色が悪い。

「サブボス、顔色凄いけどお?」
「そっとしといてくんない?ちょいと、持病の癪がねー…」
「はい?」
「錦織!話を続けて!」

隼人の追及を躱すべく、太陽は椅子から立ち上がった。余りの勢いに皆が目を丸めているが、余裕のない太陽は気づいていない。

「高野がホモ嫌いなのは心にメモっとくね。そうだね、おっぱいは俺も嫌いじゃないよ。嫌いじゃないけど、お尻派だから。心のメモに書いといて」
「タイヨウ君て…そうなん?(・艸・)」
「固すぎず柔らかすぎない神崎のお尻はいいと思う」
「は?待って、いつサブボスは隼人君のお尻に触ったのかなあ?うっひょ!」

ぶっちゃけた太陽に隼人が眉を寄せれば、同じく眉を寄せた要が隼人の尻を鷲掴む。飛び上がった隼人は素早く振り返り、自分の尻を掴む要に冷や汗を流した。
先程の皮肉の所為で怒らせたのかもしれないと、今更焦ったのだ。

「カ、カナメちゃん?」
「確かに悪くはない様な…」
「カナメ、マジ?ハヤト、ちょい触らして(//∀//)」

隼人が良いと言う前に健吾の手が伸び、要とは比べ物にならない厭らしい手つきで撫で回すと、わざとらしく頬を染めた。

「ハヤト、…脇腹より尻のがヤベーっしょ!」
「どう言う意味だてんめー、ぶち犯す」
「どれどれ?」

そこに、それまで黙っていた俊が割り込んだ。今にも健吾へ殴り掛かりそうな隼人の尻を両手で揉み、硬直した隼人を放置して、今度は健吾の尻を揉む。

「隼人89点、健吾85点」

同じく動きを止めた健吾の尻から手を離した俊は、目を輝かせ、腕を組んだまま尻を向けてくる太陽を認め、恐る恐る太陽の尻へ手を伸ばした。

「…固いと言うより肉付きが悪い。21点」
「誰が21点やね〜ん」
「「ルネッサーンス」」

無意識で太陽とハイタッチを交わした俊は心持ち目を輝かせ、満足げに佑壱の元まで近寄り、手を蠢かせる。瞬いた嵯峨崎佑壱は渋々立ち上がり、俊に尻を向け、顔を引き締めた。男らしく仁王立ちだ。

「イチ0点」
「れ、0点っ?!この無駄が一切ない鋼の尻が?!」
「無駄がなさすぎる。何事も程々に。因みに俺の尻は無駄だらけすぎて、逆にマイナス5億点」
「「「逆に?!」」」
「0点…だと…?数学でもそんな点数取った事ねぇのに…」
「ユウさん、傷は浅いっしょ!(´;ω;`) 俺が揉みまくって大きくしてやろっか?w」

崩れ落ちた佑壱を健吾が宥めてやりつつ、俊の尻を笑顔で揉んだ山田太陽は親指を立てた。

「俊、お前さんは俺の中で72点さ!ナイス低反発!」
「タイヨー!そんな、そんな予想外の高得点を俺に?!」
「友情加点さ!」
「タイヨー!!!」
「所で俊、錦織が困ってる」
「あ、お邪魔しました。どーぞ続けて下さいまし!」
「いいねー、段々戻ってきてるよー、うちの俊ちゃんがー」

左席委員会が誇りたくても誇れないツートップは肩を並べ、互いの胸を揉み合ったのだ。奴らにエロさの欠片もない。膨らみなど皆無な互いの胸を、ただただ触っているだけだ。
この光景を3年Sクラスが胸を張って誇る某眼鏡が見ていたら、発狂した事だろう。山田太陽の平たいおっぱいは、叶二葉が眼鏡の底から誇るまな板だからだ。

「俊の乳首発見、えいっ」
「ひょいん」
「ここかい?ここがええのんかい?え?ほれほれ」
「あふっ、あはん、ぷはん。やだ、テクニシャン…!」
「…カナメちゃん、あれは見たら駄目だよお。複雑な気持ちになるからねえ」
「…ああ、そうだな。俺はたった今複雑な気持ちだ。それより、何処まで話したんだったか」
「脱線し過ぎて忘れちゃった?まだパーティーに行った所だよお、ユーヤもケンゴも出てきてないからあ」
「ふん、85点の尻だと?どんだけのもんか試してやる。来い、健吾」
「あだだだ!!!(´;ω;`)」

宥められて復活した佑壱は、真顔で健吾の尻を鷲掴み、勝ち誇った表情だ。凄まじい握力で尻を粉砕されそうだった健吾は涙目で、素早く隼人の背後に隠れた。この中で一番大きいからだ。

「俺より先にユーヤが出てくる筈っしょ。俺がカナメを初めて見たのは、ユーヤと一緒に居た時だもんな(/∀`*)」
「ふーん?産まれた時から幼馴染みだの何だのほざいてた癖にねえ、全然嘘っぱちじゃんねえ」
「おいおい、んな小さい事で突っ込むなっつーの(//∀//) 他人にわざわざ一から十まで説明してやる謂れはねーだろ?φ(・ω・)」
「ケンゴが言った通り、美月の供として久し振りに屋敷の外へ出た俺は、真っ先にユーヤと知り合いました。楼月に連れられてパーティーに参加する美月が、招かれていた楽団からピアノを一台借りてくれたんです。そこに、ユーヤが居た」
「アイツ、あれでも着信音クラシックだったりするかんな(´・ω・`) 金持ちの坊っちゃんの趣味は判んねー!(´▽`)」
「ったく、お前がそれを言うんですか、ケンゴ」
「うひゃw」

ぐりぐりと健吾の頭を撫でた要は呆れた表情ながら、唇の端を吊り上げた。きょとんと動きを止めた隼人に、にまにました表情の太陽が顔を寄せる。

「…今の錦織の笑い方、何か男らしかったねー?」
「…はあ?何ゆってんの?」
「いーや、別に?」

によによしている微妙な顔の平凡にモデルは沈黙したが、未だにオタクの乳首を弄りまくっている為、目を逸らした。カルマの忠実なワンコには刺激が強い。

「パーティーに滞在したのはたった2日です。一週間程度行われていた様ですが、楼月はとある目的があった。目的は、アメリカのある大企業の重役と接触する事。…此処まで話せば何人かは理解したと思います。判らない人は聞かない方が良い」
「野上君、錦織ってツンツンしてるから判り難いけど、あれって一応皆の心配してるんだよー」
「え、そうなの?」
「そうそう、知らない方がいいってのは、知ったら危険だって事なんだ。錦織なりに心配してるのさ」

訳知り顔の太陽が級長へ話し掛け、要は目を丸めた。俄に頬を染めた要はわざわざ近寄った隼人の頭を殴り、何故殴られたのか判らない隼人は破顔する。
悟った健吾はニヤニヤしている太陽の脇腹を肘で突いたが、どことなく半笑いだ。

「で、そのステルシリーは誰だ?」
「っ、ユウさん?!何を考えてるんですか?!」
「今更隠した所で何になんだ、馬鹿が。お前が心配しようがどうしようが、この教室にいる全員が総長の名の元に連なる生徒だ。帝君が総長なら、即ちカルマにも関係してくる」
「イチ先輩、もっと簡潔に言えません?俊のクラスメートはカルマが守る!って事でしょ?オッケー、俺も男だ。いざとなったら頭突きが唸っちゃうよ!」
「タイヨー!ヒューヒュー、イケメン!」
「いやー、それほどでもあるかなー」

人見知りが解けてきたらしい遠野俊は、右だけ腫れた乳首に構わず、ぴとっと平凡に張り付く。俊の肩を抱き、精一杯の男前スマイルを浮かべ「俺に任せろ」と囁いた太陽に、クラスメートからも黄色い悲鳴が上がる。
但しカルマからは溜息の嵐だ。

「三代目、言ってる事は格好良いけど…。ハヤトさん、三代目って喧嘩強いの?」
「あんのチビが強いわけないじゃん、アホー。でも頭突きはそこそこ痛い」
「タイヨウ君は弱くて良いんだって、何かカッケーから(・∀・)」
「洋蘭に堂々と皮肉を言える分、シロよりはマシでしょうね。下手したらハヤトより強いんじゃないですか?」
「ちょっとお!カナメちゃんはいい加減隼人君に優しくしなさいよねえ!過剰なツンツンは怒るわよお?」
「はっ、お前が怒った程度でどうなるものでもないだろうに」

全員が喘ぎそうになるほどエロい笑みで隼人を一瞥した要は、悔しそうな隼人を満面の笑みで見やった。勝ち誇った表情だ。誰が見ても隼人の方が分が悪い。

「星河の君、ファイト…!」
「頑張って下さい、負けないで下さい!僕、どちらかと言うと黄青派なので…!」
「えっ、そうなってくると緑青は王道じゃなくなるよ?緑青は緑橙に継ぐ正統派だろっ?」
「待ってくれ、青黄じゃなかったのか?錦織氏はどう見ても左側では…?」

ホモ菌に冒された一年Sクラスは震撼している。
何の話か素早く気づいたものの、隼人と要は見てみぬ振りをした。健吾に至っては真顔で、

「おい、俺で妄想すんなら攻めにしろっしょ。俺×総長が王道な(*´▽`) 副長とシロップはない。尻が固そうな受けは無理!最低Cカップ」
「Cカップ?!」
「えっ?!」
「胸じゃねー、ケツの厚みぞぇ?目を閉じて揉んだら胸もケツも変わんねぇ事に気づいたっしょ☆(´艸`)」

高野健吾、新たな扉を蹴り開いた瞬間だった。
益々呆れた隼人と要はそっと目を逸らし、拳を激しく鳴らしている半切れの嵯峨崎佑壱が健吾の背後に回った事はスルーだ。

「テメーなんざが総長と何だと?寝言は死んで抜かせ健吾、ぶっ飛ばす」
「あだっ、いだだだ、ごめ…!ユウさん、ギブ!ギブ…!(´;ω;`)」

佑壱から尻を激しく揉まれた高野健吾の葬儀は、しめやかに執り行われている。咳払い一つ、尻を犯されたと泣きついてきた健吾の頭を撫でてやりながら、錦織要は息を吐いた。

「ユーヤは当時、お母様を亡くしたばかりでした。今は居ませんが、ユーヤの従兄でもある大河朱雀の母親が亡くなったのも同時期です。朱雀の母親が亡くなって、すぐにユーヤの母親が亡くなった。どちらも、子供の目の前で」
「あほ朱雀の母親って、朱雀を庇って死んだんじゃなかったっけ?ニュース検索したら結構大きな記事残ってたけどさあ」
「そうみたいですね。それもあり大河社長には厳重な警護がついていました。大河社長の代理として、大河四家の当主が各地に飛んだ。楼月が訪れたサンフランシスコも、本来は大河社長の遣いとしてです」
「大河君の家ってそんな大きいんだ?知らなかったなー」

そこまで要の話を聞いた太陽が口を開き、隼人が眉を跳ねる。

「血がブルーなサブボスってば、中等部時代の友達のこと何も知らないんだねえ」
「友達って、別にそんなんじゃないよ?神崎こそ大河君としょっちゅう喧嘩してたじゃん、どっちも見境ないからさー」
「ちょっとお、どう言う意味い?あんな下半身精子野郎と一緒にされたくないんですけどお、マジムカつくー」
「大河って誰とでも話してる覚えがあるけど…一回だけ、初等部の時だっけ?部屋に勝手に入られたって、林原に殴り掛かってたのを覚えてるよ」

懐かしげな太陽が口にした名前で、皆が沈黙した。がりがりと頭を掻いた隼人は要を見たが、視線に気づいた要は緩く頭を振る。

「大河は誰とでも話せたし、基本的に一人で自由だった。金髪に蒼目で、とにかく派手だったからさー。モテたしファンも居たし、親衛隊みたいなのあった。林原は逆に誰にでも偉そうな事を言えちゃう奴で、だけど悪気がないんだ。自分より前の席の奴らは全員ライバルで普段は話し掛けもしない。多分、初等部の時に大河から泣かされてトラウマになったからだと思う。やられる前にやれーみたいな」
「タイヨーを刺そうとした生徒だろう?」
「そ。まぁ…悪い子じゃなかったんだよ。降格してからすぐ、Aクラスの奴らから苛められたり、Fクラスの奴らに色々されたみたいで、精神的に追い詰められてたんだって後から聞いた。当時は変質者か不良にしか見えなかったお面の人に助けられて、結果的に俺は無傷だった訳で」
「お面?」
「…叶二葉。」

教室中がどよめいた。
隼人も要もマジかと言わんばかりに目を見開き、全員の視線が太陽へ集まる。

「カルマとかABSOLUTELYとか、俺ほんと最近まで興味なかったんだ。だから青銅のお面の意味を知らなくて…今になれば馬鹿みたいだよねー。助けてくれたのは不良で、風紀は後から来ただけで。だから風紀は何してたんだってさ、恨んだわけ。…その風紀委員長が助けてくれたのにね。だから二葉先輩が、何故か俺なんかに毎日話し掛けてくるのが嫌で嫌で堪らなくて、毎回喧嘩腰になっちゃってた。ほんと、馬鹿だろ?」
「さァ…俺はどう答えたらイイ?」
「あはは、そこは頷いとけば?…あ、でも去年、街でカルマを見掛けた事があるよ。その時、絡まれてた俺を助けてくれたんだ。覚えてるかい、俊」
「覚えてる」
「あはは!嘘だー、絶対覚えてないって!」
「4月1日だ。花見に行くって俺が言い出した」

要も覚えているのか顔を上げ、佑壱は首を傾げた。春先など毎日が花見みたいなものだ。

「イチの誕生日プレゼントで悩んでた時、酔っ払いが絡まれてるのを見た。何処のチームだったか…」
「トライバルですよ総長。まぁ、あの時は俺達が揃っていたので、壊滅させましたが」
「裕也が暴れすぎて重箱の中身が悲惨だったな。隼人は途中でコンビニで休憩してるのを見た。煙草を吸おうとしたな?俺が投げた缶が煙草に当たって、怒ったお前は通り掛かったヤンキーに殴り掛かった。彼らは何もしてない。犯人は俺だ」
「あは。うっそ、ボスあの時見てたのお…?やだー、知らないままがよかったー。うえーん」
「要と裕也は喧嘩の時だけ息が合う。だから誰も疑わない。健吾がいつも笑ってるから、誰も疑えない。…違うか?」

健吾と要が目を合わせ、困った様に首を傾げた。
バレていないと思ってきたが、バレバレだったと言う事だ。

「それだよ、それ。大体さー、皆、高野が藤倉に引っ付いてるって言うけど、俺には逆に見えるんだよねー。パヤティーも言ってたから『あれっ?』って思ったよー」
「…」
「見なさいハヤト、言ったでしょう?お前なんかよりずっと、山田君の方が俺達を見ていたんですよ」
「うひゃ。俺マジたまに、タイヨウ君がコエーんだわ(ヾノ・ω・`)」
「だから、最初に友達だったのは錦織と藤倉なんだろうけど、高野もそうだと思う。錦織とも神崎とも喧嘩するし、イチ先輩からはしょっちゅう怒鳴られてるし。藤倉と高野はそれとはまた違って、親友って言うか、あっ、相棒?って奴だと思うよ。それじゃいけないのかい?」
「…今日は良く喋んね、タイヨウ君(°ω°`)」
「しけた顔してるから。何があったか知らないけど、拗れる前にちゃんとしといた方がいいと思うよ。どんな絆だって、切れる時は切れるんだ。プツンって、いとも簡単に」

情感が込められた太陽の言葉に、全員が息を呑む。
指先を見つめ手遊びに興じている健吾は暫く沈黙した後、微かに頷いた。

「良かった。じゃ、錦織。さらっと続けてよ」
「無茶を言ってくれますね。全く、洋蘭の件、忘れないで下さいよ」
「はいよー」
「俺とユーヤの年が同じだった事もあり、ユーヤのSPも俺には気を許してくれていました。そして俺は初めて父親に誉められた。ユーヤの父親こそが、そのパーティーで最も力のある、大富豪だったからです」

カカカッと黒板にペンを走らせた書記係が顔を上げる。

「待ちたまえ、藤倉君のお父上は上院の藤倉理事ではないのかね?理事長の側近中の側近、第一秘書」
「まぁ、その程度は知っているでしょう。早い話が神帝の実家、男爵グレアムに話は全て向かいます。現男爵は知っての通り神帝陛下ですが、以前は現理事長が男爵でした。帝王院帝都と言うのは偽名に等しい。本名は…俺程度には判りません。グレアムとは、そう言う家なのです」
「うむむ…流石は神帝陛下なのさ。大丈夫、無理な詮索はしないのさ。続けてくれたまえ、錦織君」
「男爵の右腕である第一秘書とは、経済界では神に最も近い存在と言われている。楼月の真の目的は藤倉だった。そしてユーヤに接触した俺に期待した。愚かだった俺は父の思惑に気づかず、ユーヤと色んな話をしました。食事を共にして、寝る時まで、ずっと」
「たった一日で仲良くなったんだ?」
「仲良くなったと言うより、互いに同情に近かったでしょうね…。母親を亡くし、親しい友もなく、孤独だった。友情と言うよりは傷の舐め合いですよ。当時はそれすら判っていませんでした」

一瞬悩んだ要は佑壱を見つめた。

「副長、誰もいない何処かへ逃げれば自由になれると、考えた事はありませんか?」
「…何だよいきなり。あるが、それがどうした」
「先程も言ったと思いますが、俺は施設に居た頃から思っていました。大人が居ない何処かへ行けば幸せになれると。そしてそれをユーヤに初めて話して、肯定されたんです。笑い飛ばすでもなく間違っていると言うのでもなく、」
「アイツ、あの成りで中身はピーターパンか乙女だもんな(´°ω°`) きっと同情でも何でもなく、マジだったんだぜ?」

健吾の言葉に要は小さく笑い、微かに頷く。

「たった二日。近づいてくる別れの瞬間が怖くて、俺は帰りたくないと言いました。ユーヤは警護の目を盗んでパーティー会場だった屋敷の裏庭まで俺を連れて逃げてくれた。子供だった俺達には、そこまで逃げれば大丈夫だなんて馬鹿な安堵すらありました。そしてそこで、彼に出会ったんです」
「うひゃw彼とかやめろって、照れんだろw」
「何でそこで照れんのかなあ、猿の思考は意味不明」
「招かれていた楽団の指揮者にしてオーケストラマスターが、ケンゴの父親でした。当時、作曲も手掛け、20以上の楽器を神憑った腕前で弾き熟していたミューズの申し子、高野健吾の名を知らぬ者はなかった」
「ただいまご紹介に預かりました天才だった俺です!宜しくねン☆(//∀//)」
「いやいや、知らないひとばっかだよ?かく言う隼人君も存じ上げませんでしたよお?」

すぐに茶化す健吾の所為で感動は台無しだが、腹を抱えている太陽にはそこそこ受けたらしい。隼人との即興漫才は不発気味だが、場が暗くならず却って助かったと要は目を眩しげに細めた。

「ケンゴの弾くピアノは凄かった。音を聴いただけで映像が見えるんです。鳥やリスが駆ける草原、凍える雪山、燃える溶岩。ユーヤはケンゴに突っ掛かっていましたが、口下手だった俺達と違って良く喋るケンゴに面食らっていただけだと思います」
「あは、本気で嫌われてたんじゃない?だって鬱陶しいもんコイツ」
「やきもち焼くなよハヤト、オメーの事も可愛がってやってんだろ?(//∀//)」
「あはは、確かに神崎と高野って仲良しだよねー。性格は真逆だけど、何でかな?」
「隼人君は天才肌のAB型ですけど?」
「昔は天才だったO型っしょ(//∀//)」
「あ、こりゃ合わないねー、錦織」
「合わないでしょうね、確かに」

太陽と要の突っ込みに、教室は笑い声で包まれる。
苦笑いを浮かべた佑壱はスピーカーを見つめ僅かに眉を潜めたが、すぐに目を逸らした。

「AB型とO型は仲良しなのか?俺はB型だ」
「俺はA型だよー」
「合うのか?」
「合わないと思う?ラブラブじゃん」
「えっ」
「お前さん俺の彼女になっちゃう?なーんて。…ちょいと神崎、顔が恐い」
「あは。鏡見て出直してこい」
「俊、神崎がムカつく。叱って」
「コラ、パヤト。謝りなさい」
「ボスの馬鹿ー!浮気者ー!うわーん、A型とB型なんて速攻離婚するに決まってんじゃん、馬鹿ー!」

誰かの視線など気の所為だろう。
此処には面倒臭いセキュリティを敷いているのだ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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