帝王院高等学校
こちら4区緑ヶ丘公園前ワラショク
聞こえているかい。
(だから何を躊躇うか人間共)
(俺はあの日からただの一時も忘れる事無く、その日が近付くのを待ち兼ねている)


(見ろ、健やかな体躯に煩わしい頭脳を宿した人間共)



「うひゃ、見て見て!ギャラクシックツイスターっしょ!(*゜ロ゜)」
「ふぇ?あっ、プラチナソーサーが見えるにょ!」
「二年前だっけー?一回行ったっきりだよねえ、カナメちゃん」
「そうでしたか?可笑しいですね、覚えてません」
「ぷ。総長とコーヒーカップ乗って、自滅してたもんなぁ(´∀`)」
「あー、もしもし?は?誰って俺だけど。…オレオレ詐欺とか古いネタやめてくんない?時間と電池の無駄だから」



聞こえているかい、愛しい君。
僕には既に見えているよ、これから終末へ向かう僕らの未来が。

可哀想だね。これから先きっと沢山苦しむだろう君も、エキストラでしかない他人も、全てが。
可哀想だね。等しく全てがただの駒でしかない、そうこれはまるでチェス。踊り狂う駒が狭い世界を駆け回るのが見える。



「そっちが顔出せっつったんだろ?もうそっち向かってるから」


聞こえているかい、可哀想な君。
パンドラの底に何が眠っているのか、僕には既に見えているよ。



「え?良く聞こえないって…あ、トンネルだ。電波入らなくなるかも。とりあえずそう言う事だから、宜しく」



(闇一色の、素晴らしい未来だ。)







「先生が行方不明ぃ?
  あのねぇ、君さぁまだ子供だろ?おじさん達は探偵じゃないの。警察は被害届けのない事件は捜査出来ないんだよ?じゃあ切るからね、しっかり勉強するんだよ」
「またあのタレコミですか?」
「みてぇだな。最近やけに増えてきた。…っと、そっちの電話も鳴ってんぞ。俺ぁもう御免だ」
「やだなぁ、明らかにどれも子供の声なんですもん。悪戯にしては不特定だし、女の子のタレコミもあってるんでしょ?」
「ああ。課長がよぉ、あんま必死な電話が気になったとかで調べさせたんだ。…けんど、タレコミ先の学校は否定した」
「やっぱ集団悪戯っすかねー。最近の子供はタチ悪いなぁ」
「ま、あの超優秀進学校に不祥事なんざそうそう起きねぇだろよ」
「伝統私立と言やぁ、各界に顔が利きますもんね。あーやだやだ、上層部とか政治家が揉み消したりとかドラマみたいな事、本気であるんすかねぇ」
「無いとは言わねぇだろうよ、今は極道ですら経営力持ってるかんなぁ。学校の対面作りはともかく、生徒のフラストレーションがどんだけのもんかは知らねぇがな」
「小学生に受験させる親が居るなんて、この国はどうなってんでしょうね本当」
「此処だけの話、仏心出した課長も上のお偉いさん方から『下らない悪戯に構うな』って釘刺されたっつってた事だし、ガキしょっぴいてもボーナス査定はビクともしねぇ」
「子供らが飽きるまで放っとけ、って事っすね」
「未成年相手だかんな、我慢が懸命な方法だ」
「平成末期生まれの子供は、我々レトロ世代からすれば宇宙人っすもんねぇ…」
「ガキ相手に電話で説教垂れるだけ不毛だろ?」
「ある意味同情しますけど。やっぱ勉強三昧で欝入ってんすかね、鷹翼の生徒は…」










「所でさ。錦織達はともかく、神崎だけが中等部昇校組だったよねー」

薄暗い穴の中にはオレンジ色の光源。
ぱちんと閉じた携帯をパンツのポケットに放り込んだ太陽が唐突に宣えば、何が発端だったのか、健吾といつもの小競り合いを始めていた隼人が振り向いた。

「なに今更。いつの話っすかあ、サブボスー」
「ふんぎぎぎっ(`ε´) 卑怯也、神崎隼人!足まで使いやがって…っ(Тωヽ)」
「先に粉掛けたのはお前だろケンゴ、ハヤトに勝った事なんかない癖に」
「(ノД`)゚。」
「カナメちゃん、真実は時に致命傷を与えるんだよお」

健吾を押し倒す様にシートへ組み敷いた隼人が笑い、両手を封じられた上に腹を膝で圧し潰された健吾が涙声を上げる。

「毎日毎日取っ組み合いしてよく飽きないねー」
「ぐぎぎ…っ、まー何っつーか、これが俺ら流の愛あるスキンシップっつーか(//∀//)」
「猿に愛なんか一ミリ足りとも存在しません」
「カンザキンの裏切り者ォ!(ノД`)゚。」
「きもいあだ名付けんな、死ねばよい」
「ギブギブ(´Д`)」

マウントポジションでヘッドロックを掛けた隼人の腕を叩き、敗者は眠っている裕也の首に抱き付いた。

「助けてヒロえもん!今こそ草食系の実力を見せる時っしょ!(´Д`*)」
「クミコ…」
「誰だよクミコって!新しい女の夢かテメェエエエ!Σ( ̄□ ̄;)」
「クミコが好きな、将門。ぐー」
「935年かよ!(ノД`)゚。」

平将門の乱じゃねぇか、と、叫んだ健吾がわざとらしく裕也の胸元に飛び付く。ひょいっと座席を飛び越える光景は、いつ見てもオリンピック選手並みの運動神経だ。

「死ぬなヒロえもーん!牛肉食ったら腹下すヒロえもーん!(;´Д`)」
「成程、小麦粉と小豆が友達さってコト?」
「草食動物だかんな、ユーヤは!(´∀`)」
「猿マジでうっさい」
「少しは大人しく出来ないんですか、貴様は」
「高野はさ、音楽家のご両親が居るんだったよねー?」

裕也の鼻を摘んだ健吾がぴたりと動きを止めた。今にも健吾を殴りそうだった隼人が舌打ちを噛み殺し、要はわざとらしく外など見やる。
緑化計画によって数年前に人の手で作られた小さな山、それを貫く様に伸びるトンネル続きのバイパスは、高速程ではないが週末の賑わいを発揮し進みが遅い。要の視界には薄暗い石壁に灯る、橙色の蛍光灯だけだろう。

「もしかして、何か悪いコト言った…?」
「いんや、別に(´∀`)」
「世界的に評価が高い日本人指揮者、彼の父親はお年こそ召されていますが、著名な方ですよ」

遊園地見たさに太陽側の窓に張り付いた俊は、太陽の足元に正座している。観覧車の写メを撮った瞬間から凄まじいタイピングを披露していたが、トンネルに入ったからか圏外らしく肩を落としていた。

「お母様はピアニストとしてご活躍なさっていますねぇ。ソロアルバムに収録された曲が、貴方のお宅のコマーシャルで使われていたでしょう?」
「うちの?」
「ピアノソナタ第三番『緋色のハルジオン』ですよ」
「あっ、あのドラマの挿入歌になってた奴?!」

俊が退いた後に右端へ体を寄せた二葉とは、一人分の空白が空いている。縦に長い車内は幅こそないが奥行きがあるので、俊が座り込んでも向かいの健吾と太陽が邪魔に思う事はない。

「うわー、知らなかったとは言え…その節はお世話になりました」
「いやいや、俺びみょーに関係なくね?(´Д`) 礼ならババァに言ってよ、タイヨウ君」
「しっかし何でもホントよく知ってますね、先輩」
「おや、この程度は一般常識ですよ」

静観していた二葉がやっと口を開いたと思えば、やはり敵は微笑と共に毒を吐いてきた。
己の知識を自慢するでもなく教えてくれたのは、百歩譲って有り難いとしよう。言外に「そんな事も知らないなんて救い様がない馬鹿ですね」と言う、嘲笑の副音声が聞こえるのは何だ。

「何ですか、その残念なお顔は?」
「生まれつきですけど何か。」
「真実は時に凶器でしたね。失礼しました」
「で、藤倉の話は聞いたコトなかったよねー。今になって気付けば、去年までずっとクラスメートだったのに、何処出身かも知らないや」
「ユーヤの出身地ー?んー、そーゆえば隼人君も知んない」

隼人も知らないのかと目を見開いた。ならば幼馴染みの健吾は知っているのかと見やれば、曖昧に首を傾げている。
何かミステリアスだな、と。きょとりと首を捻れば、誰かの笑う気配が右側から。二葉だろう。

「俺はずっと都内だけど、神崎は神奈川だろ?なんか、湘南っぽいよね」
「相模湾は俺の庭っ子って呼んでえ」
「生粋の鎌倉人ではありませんよ、勿論藤沢の人間でもない。鎌倉にあるのは分校で、実際は金沢のド田舎暮らしだったんですよ、ハヤトは」
「へー」
「カナメちゃんのバカー!」

秘密にしたかったのか否か、がくりとうなだれた隼人がポカポカ要の腕を叩いている。

「俺は嘘は言ってませんよ」
「うましかー!いけずー!いじわるー!」

全く動じない要を見ると大して力は入っていない様だが、カルマ四天王は基本的にスキンシップ過多が多いらしい。

「俊も都内だろ?」
「ふにょ。海水浴は茅ヶ崎しか行った事ないにょ。母ちゃんがサザンラバーだから!浮き輪さんとイルカさん持ってくにょ」
「そっか、カナヅチだっけ。俺そこそこ泳げるから、今度練習しにいく?」

暫し考える様子を見せた太陽が指を立てた。二葉の毒を凌ぐには、口を開く隙を与えなければ良いと気付いたからだ。
とにかく喋りまくれば、その内目的地に到着するだろう。漸くトンネルを抜けた程度だ、まだ10分以上懸かると思われる。

「考えてもみなよ、スキューバとかサーフィンとかさ、泳げたら楽しい事だらけだよ?」
「ふぇ」
「そもそも男子高校生がカナヅチなんて、ちょい恥?見た目も中身もインドア突っ走るつもりかい?楽しい海で潮干狩りしか出来ないなんて、可哀想だねー」
「うぇ」
「つーか、帝君がカナヅチとか何か俺が嫌だよ。やっぱ何でもスマートにこなさないと」
「ぐす」
「…海に行けばビキニ海パン見放題なんだけどなー?」
「はふん。ピチッと弾ける海パン!打ち寄せる波打ち際っ、ビーチを駆ける平凡受けが何よりも輝いて見える魔法の空間!」

ちょろい俊はそのまま妄想の世界へダイビングしたに違いない。ハァハァ怪しい息遣いで床を転げ回っている。

「タイヨーの海パン!見惚れる僕!いやーっ!誰かタイヨーをめちゃくちゃにしてぇえええ」
「今更伺うのもどうかと思いますが、天の君」
「頭の中で辱められたくないならそれ以上言わない方が懸命ですよ、叶先輩」

バッタンバッタン左右のドアで頭や足を打ち付けているが、二葉の冷めた目を注がれている事にすら気付かない男は痛がる素振りもない。

「あ、でも俊はゲイでも何でもないみたいですけど」

腐男子と言う言葉を博学な二葉が知っているかはどうかは謎だが、それに近い答えは導かれただろう。何とも言えない表情で足を組み替えた二葉に、隼人から回ってきたポッキーを差し出した。
素直に手を伸ばす光景に溜息一つ、

「錦織は香港育ちって言ってたけど、生まれは日本、だろ?」
「いいえ。記憶はありませんが、香港で生まれたそうですよ」
「ほーほー。中国語ぺらっぺらだもんな、いいなー」
「俺は島根育ち(´Д`*)」
「猿のが田舎じゃんかー、やーい、田舎もん」
「へー。改めて聞くと、何か皆バラバラだなー」

もそもそ太陽の隣に登って来た俊がぴったり身を寄せながら座る。余りの近さにドアと挟まれながら、もそもそ太陽の腕を掴み自分の肩に回そうとしている男の鼻を摘んだ。

「ぷにょ」
「ブログ更新終わったの?」
「燃え尽きました!後はコメント待ちですっ」
「お疲れー」
「メガネーズからおメール着てたにょ。何か風紀が大変なんですって」

ポッキーの箱を覗き込み肩を落とした俊にピンキーを渡し、最近唐突に赤縁眼鏡を愛用し始めたクラスメートを思い浮かべる。素知らぬ顔で頬杖付きながら外を見ている委員長は、振り返る気配もない。

「何かあった?そうだ、結局イチ先輩と連絡取れてないし」
「嵯峨崎先輩はお野菜買ってたなりん」
「は?野菜?」
「副会長とおデート中でした!僕がお味噌汁味のおうどん食べてる間に!」
「どーゆーコト?」
「間違えてスープバー注いじゃったにょ」
「…だから朝から何となく機嫌悪かったんだ?で、カイ君には会えたの?」
「ふぇん」

シートの上で膝を抱えた俊に全てを悟り、つまり朝からの苛立ちで凶暴化していたのかと痙き攣った。
神帝はただの八つ当たり相手だったらしい。

「あ、着いた」

抜かりなく抱きついてきた俊をそのままに、春休み以来に見る懐かしい光景に皆を振り返った。

「あっ、ワラショク発見!」
「とりあえず、お茶くらいなら出すから遊びに来ない?」

不良でも何でも、使えるものは使う。
弟との接触だけは全力で回避せねば、胃潰瘍が増えるだろう。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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