帝王院高等学校
バイオレンスは山田の登録商標です
エレベーター、サブタイトルは嬉し恥ずかし密室空間。いや、八割方腐った意見だ。
ラブラブなカップルのツンデレなハニーもうっかりデレてしまう魅惑の空間、それがエレベーターである。真偽の程は定かではない。何しろ腐った意見だからだ。


「あっちいけ」

然し事此処に至って、我らが主人公☆遠野俊は違った(☆に深い意味はない)。ツンデレ通り越してツンドラな眼鏡を光らせ、ギンッと睨んでいる。

「あっちいきなさい!あっちいって下さいお願いします!」

睨んでいるが、じりじり下がる足が彼のチキンっぷりを表しているのだからそこはかとなく哀れだとしか言えまい。
曰く、今までこんなにも追い詰められたのは初めてだ。ちょっぴり自信がなくなった元カルマ総長(自称)、半泣きの鼻水タラリ姿ではいつもの威圧感も半減である。まる。

「あっちいってちょーだいっ」
「断る」
「不可!」

めげない神威の手を叩き落とし、凛々しく片手を上げて宣うには、

「クロノススクエア・オープンっ、お風呂に入りたいにょ!」
『コード:マスタークロノスを確認、ルートを切り替えます。………83%、』

しまった、と。舌打ちを噛み殺す勢いの生徒会長が見える。
都合良く自分と同じ権限を俊に与えてしまったが為に、このまま真っ直ぐ中央委員会エリアに向かっていた筈のエレベーターが進路を変えてしまったのだ。

「システム強制改竄、」
『100%。クロノススクエア・クローズ』

このまま俊の部屋へ帰る訳にはいかない。俺様会長に夢見る俊を会長専用ルームと言う部屋に連れ込み、思う存分押し倒すにはつまり自分の部屋に向かう必要があるからだ。
然しもう一度システムを書き換えるには、理事会権限を使わねばならない。中央委員会長である神威の命令を強制的に無視させた俊は、事実上神威以上の権力者だ。知っているのは神威だけだが。
だが然し腐っても有権者の味方、イコール世界の道理。
此処で理事会権限でも振りかざそうものなら、一発で神威の正体がばれるだろう。

曰く、カイカイが神帝だったなんて!萌え!ちょ、今から太陽の所に夜這い行かない?


「いかん。完全なる俺の失態だ」

真っ黒な学ランを纏う美貌が僅かに落ち込んだ。最初から勇者Lv99の設定にしたのは彼の人生初の失敗だったのかも知れない。
後々の面倒を減らす為に、また快適な腐男子生活を営める様に、俊の指輪の権限を一位優先にしていたのだ。誰も知らないだろうが。帝王院神威、結構面倒臭がりである。

此処でもし神威が中央権限でエレベーター進路を会長室に切り替えても、一年帝君部屋に辿り着かねばエレベーターは言う事を聞かない。何せ実質の権力は俊の方が上なのだ。あくまで誰も知らないだろうが。
部屋に着けば、俊は颯爽とエレベーターから出ていってしまうだろう。神威が寂しく一人で会長部屋に戻っても意味がない。

我らが中央委員会現会長は考えた。ご自慢?の頭脳を活かし、無表情の下で企んだ。
人はそれをむっつりスケベと言う、とか何とかむにゃむにゃ。

「俊、…三年帝君部屋に興味はないか」

早い話が職権濫用だ。

「む。つまり会長専用ルーム?興味なら底知れずありますけど何かハァハァ」
「確か見学出来た筈だ」
「会長専用ルームを?!」
「そうだ」
「会長のサインを貰えたりするのかしら!あああ握手とか!」
「口付けから果ては添い寝まで付属している」
「マジで!」

ちょろい。
余りにもちょろい。
機嫌を直した俊がしゅばっと抱き付いてくるのを無表情で抱き締め、にぎにぎと俊の手を握ってやる。大サービスの握手だが、神威が神帝だと知らぬ腐男子は何やら妄想している様だ。
因みに、本来公表されない左席委員会役員には与えられないが、中央委員会役員には専用フロアに部屋が与えられる。一般生徒の立ち入りは厳禁だ。

ならば昨日、日向の寝室の前の廊下で着ぐるみ姿の佑壱を伴っていたオタク、とはこれ如何に?


答。
書記専用ルームに興味津々のオタクが、寝入ったばかりのワンコを連れ出しただけ。佑壱の指輪さえあれば、中央委員会専用フロアのセキュリティに意味はない。勇者が最後の鍵を序盤から使うノリだと追記しよう。猫に小判、オタクにボスワンコ、勇者が冒険開始からエクスカリバーを持っている様なものなのだ。

超低血圧の佑壱がミ●キーマウスの着ぐるみ姿で、金獅子に殴り掛かったと言う。人類最強の黒ネズミが誕生した瞬間だ。


「タイヨーちゃん連れてったら会長がうっかりタイヨーに惚の字…うっかりベッドにフライハイ!ハァハァ」
「…」

開いたエレベーターの向こうに光の速さで消えた俊を追い掛け、納得行かない神威が上着を脱ぎ捨てる。初対面の時は、別に正体を隠したつもりはなかったのだ。何せ神威を知らない生徒など居ないのだから。銀髪金眼の『カイ』など、帝王院広しと言え帝王院神威しか存在しない。

会長に迸るドリィムを持っていた外部生に、ちょっとした好奇心から悪戯をしたのが敗因か。


「いかん、このままでは哀れ山田太陽への慰みものとして献上されるやも知れん」

無表情な彼は半ば真剣だ。今まで困難と言う言葉を殆ど知らず生きてきたルーク=フェイン男爵にとって、黒縁眼鏡のオタクは最早ラスボスだ。何を考えているのか、あからさまに判り易い様で全く判らない不思議。

「いかん、判り易いセカンドや単純に尽きる高坂に慣れ過ぎたか」

世界中の人間が顎を外すだろう独り言は誰にも届かない。神威にしてみれば、性悪白百合など生まれたばかりの子羊だ。因みに日向が生まれたばかりの子猫である。笑ってはいけない、陛下は真剣なのだから。無表情でも、多分。

ぽつぽつ脱ぎ捨てられた俊の制服を拾い集め、バスルーム前に脱ぎ捨てられているパンツを凝視しながら制服をソファーに放る。
羞恥心など欠片も存在しない美貌が素っ裸でバスルームのドアを開けば、ザッパーンと言う音が聞こえた。

どうやら俊が飛び込んだ音らしい。


「ぷはーんにょーん!」

だが然し、続いて聞こえた声で神威の表情が些か変わる。ぷはーんにょーん、の、末尾に付いていた(様な気がする)『!』に気付いたのだ。
ぷはーんにょーん、ならば感嘆の溜め息だろう。修羅場中は3日風呂に入らない汚タクだが、普段は毎晩欠かさず入っている風呂好きだ。愛用のバブとヒヨコをお供に、ちんちん丸出しで飛び込むのは日常茶飯事である。

佑壱曰く、先に体を洗ってから入りなさい。らしい。


「何事だ、俊」

勢いそのままにバスルームへ駆け込んだ神威が見たものと言えば、ずぶ濡れの黒縁眼鏡と、

「「…」」

今まさにシャンプーの泡を洗い流そうとしている、黒髪の男。
見つめあうと素直にお喋り出来ない雰囲気の中、無表情だが素っ裸の美貌がささっと状況を把握した。どうやら俊は、バスルームに居た不審者に狼狽え滑った挙げ句、今の様に浴槽へダイブしたのだろう。

「カカカカイちゃん…」

いつの間にスペア眼鏡を取り出したのか、頬を赤く染め眼鏡をレインボーで染めたオタクが浴槽の縁から見つめてくる。

「不法侵入とは捨て難い」

未だにシャワー片手に硬直している黒髪の男の目が、神威の股間へ注がれている様な気がしない事もないが、羞恥心皆無の神威が恥ずかしげに股間を隠す事はない。
いつでも自信満々に曝け出してこそ俺様なのだ。

紳士な日向は素っ裸で歩き回ったりはしない。俺様の癖にネクタイピンまでしている、ジェントルピナタである。


「出てけ」

シャンプーだらけの髪をそのままに呟いた男が神威の股間から目を離し、浴槽で悶えている俊の頭を鷲掴んだ。
ドアを開いたまま仁王立ちしている神威をギッと睨み、


「風呂まで堂々と覗くなっ、腐れ共がーっ!!!」
「ぷはーんにょーん」
「俊、どうやら我々は部屋を間違えたらしい。退散するぞ」
「何を騒いでるんですか、山田君」

怒りの太陽からシャワー攻撃を食らった神威が俊を抱き上げ、素っ裸のまま遁走しようとして失敗した様だ。

「な」
「あれえ、ボスの美味しそうなお尻が見えるねえ、カナメちゃん。此処は天国かー」

桜を背負った要と、目をごしごし擦っている隼人の目線が突き刺さる。


「「「………」」」


尻を隠して恥ずかしがるオタクを余所に、皆の目が神威の股間へ注がれた。












「しゃっしゃっしゃっ、社長ー!!!」

いつも冷静沈着で皆の信頼を得ている彼が、すっ転びそうな勢いで夜も更けた廊下を爆走していた。警備員やら残業中の社員やらが硬直し、ぱちぱち瞬きながら頬をつねっている。

「社長社長社長っ、天涯猊下ーっっっ」
「喧しい」

脇目も振らず駆け巡る部下の足を、接待から戻ったばかりの彼はしれっと引っ掛けた。転んだ男は素早く前転し、体操選手宜しく着地を決める。
ちっ、と舌打ちした社長は、然し晴れやかな笑みを浮かべ、

「僕は株式会社笑食代表取締役社長であって、左席会長ではない筈なんだけどねー…?」
「…取り乱しました。お許し下さい、大空坊っちゃん」
「社長と呼びなさい」
「はい社長、不肖この小林、命尽きるまで坊っちゃんのお世話を務めて参ります」
「人を無視していちゃつかないでくれませんか」
「全くよ!」

しゅばっと片膝を付いた小林専務がシャープな眼鏡を押し上げ、お土産の稲荷寿司片手に腰へ手を当てる山田社長のスーツの埃を払う。ワラショク本社では良く見られる光景だが、今夜は異色だった。

「ハヤシ、アンタの息子マゾだったの?」
「小林です。記憶にある限りうちの家系は佐渡島の出身だったと思いますが」

チャイナドレスにふわふわバサバサなウールの襟巻きをした赤髪の長身がサングラスを押さえ、控え目に佇んでいる背後の秘書染みた男が冷静に眼鏡を押し上げた。

「小林局長、僕もそろそろ老眼の仲間入りかなー?オカマと陰険眼鏡が見えるよ」
「社長、私も当初は変質者として追い出し掛けたのですが、こちらは嵯峨崎財閥の会長と残念ながらうちの父です」
「喧嘩売ってんのか餓鬼共」
「社長、言葉遣いが悪いですよ。クリス様に叱られてしまいます」

にこやかな山田&小林の向かい、痙き攣る美女…ではなく、嵯峨崎財閥会長である嶺一を冷静に宥める眼鏡秘書の姿。
何事かと振り返る皆の目を横目に、稲荷寿司を掲げた大空が顎を傾けた。

「こんな所では何ですから、応接室に案内します。こうして会うのはお久し振りですね、先輩」
「それどころじゃないわ。…あの子は何処に居るの?」

ずらしたサングラスの上から鋭利な眼差しが覗く。接待の疲れをそのままに、一体何があったのかと眉を寄せれば、何処までも冷静な父小林、正式には叶一門の最高幹部である男が眼鏡をまた、押し上げた。

「回線が開いた様でしたのでね、あの方の」
「は?」
「我が嵯峨崎会長の努力を踏み躙った総務課長にお会いするべく、多忙にも関わらずこんな中小企業へ足を運んだのです」

表面上は嫌ににこやかな男の言葉に首を傾げながら、応接室の扉を開く専務に寿司を渡して一歩、部屋へ踏み込んだ。


「っ!」
「坊っちゃん!」

と同時に吹き飛んだ体、悲鳴染みた専務の声と、ソファの肘掛けに打ち付けた背中、腹に凄まじい痛み。

「ぐ、」
「…わざわざ平和呆けした餓鬼に会いに来てやったんだ。無駄な手間を増やすな小僧」
「やめなさい、コバック」
「仰せのままに、会長」

腹を踏み付けてくる男の背後で呆れ顔の嶺一が肩を竦めている。これが叶の力量か、と全く反応出来なかった我が身に息を呑みながら起き上がれば、手を貸してくれている専務の表情に殺気が帯びた。

「坊っちゃん、下がっていて下さい。あの腐れを処分して来ます」
「親子喧嘩はやめて欲しいなー」
「昔のアンタそっくりな狂暴ねぇ」
「お恥ずかしい」

今にも父親へ飛び掛かりそうな専務を宥めながら、揶揄めいた表情の二人に息を吐く。どうやらこちらの方が圧倒的に分が悪いらしい。

「で、本題は?」

秀隆さえ居たら、と悔やんでも仕方ない。腹を括ろうか。

「皇子が指輪起動させたのは、どう言う事よ」
「はい?」
「どう言う意味ですか?」
「コイツら本当に知らない様ですね、会長」

チャイナドレスと陰険眼鏡を前に、首を傾げるワラショク二匹が見られた。

「テンコー陛下様の回線が復活したのよ」
「電波が送信されたのは数秒間でしたが、向こうに悟られるには十分でしょうねぇ」
「「馬鹿じゃねぇのテメェら」」

鞭を取り出した某社長が爽やかな微笑を浮かべたのは言うまでもない。



「アハハ、…嬲り殺しにしてやるー」
「「「…」」」

俺様ワンコの血を引いたチャイナドレスと鬼畜の血を引いた眼鏡二匹が、ドSの前に跪くのは遠くないだろう。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!