帝王院高等学校
撮影裏話6
「何か最近、高坂君が見つめてくる気がするんです…」
「え?」

撮影後、頬を染めた神崎隼人の呟きで顔を上げた男は、次シーンに向けスタイリストの化粧直しを受けている背中を一瞥した。

「元から仲良しなのは仲良しなんですけど…何か最近、ちょっと違う気がしてて…その」
「うーん、気の所為じゃない?」
「ですよねっ?睨まれる覚えはないしっ。昨日も一緒のお布団で寝たし!」
「…一緒の布団で寝てるの?へぇ、ふーん」

爽やか俳優の笑みが黒くなった様な気がする。然し天然、と言うより田舎育ちの世間知らずである神崎隼人は気付いていない。

「うちの寮、新人は二人部屋なんです。健吾リーダーは小学生の頃デビューしたから、別の一人部屋で」
「所で神崎君、今度遊びに行っても良いかな?」

爽やか俳優は爽やかとは言えない笑みを浮かべたまま、田舎者の肩を抱いた。見ていたスタッフ達がほのぼの微笑んでいる中、俺様役より俺様な山田太陽が呟く。
『またいつもの病気か』と。

「え?嵯峨崎さんがうちの事務所にですかっ?!」
「昔、君の所の社長に声掛けて貰った事があるんだ。ま、その時はもう子役やってたからお断わりしたんだけど」
「そうだったんですか〜!もしかしたら嵯峨崎さんが先輩だったかもなんてっ」
「そうか、後輩だったかも知れないんだ神崎君。じゃ、可愛い後輩君を今度俺の泊まってるホテルに御招待するよ」
「うわぁうわぁ、有難うございます!楽しみにしてますっ!」

その代わり、俺は神崎君の部屋に泊めて貰うからね、と言う副音声は、一部の俳優にしか届かなかった。


「おや、嵯峨崎君が本格的にハンターの目を…」
「腐っても帝王院の従兄弟だからな、可哀想に高坂。ま、アイドル小僧の一匹や二匹消えても俺には何の影響もねぇけど」
「青春だな太陽、此処は一つ俺達親子も親睦を深めるべく今夜は俺の部屋に泊まりなさい」
「とーのさん、好い加減俺の部屋に泊まれよー。超絶気持ちよーくしてやっから!ムフフ、最高に幸せにすっから」
「はっはっ、帝王院、お前も大概しつこい奴だ。早く結婚したらどーだ?結婚は良いぞぅ、結婚はぁ」
「安部河のジジイに言われなくても遠野さんは俺の嫁だっし!」

騒がしい俳優陣の端で何やら落ち込んでいるアイドルが見えた。



「はぁ。嵯峨崎さんと仲良しなんだなぁ、隼人君は…。良いなぁ、身長も俺より高いし細いし格好良いし…隼人君、凄いなぁ」
「何ぶつぶつ抜かしてんだ日向ぁ、撮りがねぇならプロモの練習でもしろや」
「健吾リーダー」
「嵯峨崎はやめとけ、帝王院並みに手が早いらしいかんな」
「え?」
「お前みてぇなポヤポヤ、ソッコー食われて捨てられるのが落ちっしょ」
「ななな何でっ」
「嵯峨崎に誉められたくて頑張ってんだろ、最近。判り易いんだよテメーは」
「ううう」

黙っていればクールビューティーな日向が真っ赤に染まった顔を隠し、ファーストキスの相手を思い浮かべる。本来、副会長はファーストキスではなかったのだが、演じる日向が恋愛初心者である為に急遽シナリオ書き換えが行われたのだ。

「…ったく、仕方ねぇ。今夜は俺の部屋に泊めてやっから、思う存分愚痴れや」
「リーダー…!」
「菓子と酒は持参しろよ」
「リーダー…!大好き!」



絆を深める二人の会話、特に後半部分を聞いていた某爽やか俳優がサイヤ人になった。


「………好い度胸だコラァ…殺す高野」
「ひ、ひぃ!」

…のを見たのは、哀れ神崎隼人だけだ。

←いやん(*)
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