帝王院高等学校
嗤うドSとドMにご注意下さい。
「来るの遅いっしょ!」

部室初顔見せの隼人を背中に張り付けたまま、要と手を繋ぐ俊が庶民愛好会の扉を勢い良く開けば。

「わしは待ち疲れてヨボヨボになっちまったぞぃ(_´Д`)ノ~~」
「あは、…寛ぎまくってんじゃねーか馬鹿猿」

部室の右半分、ロッカールームの名残を残すそこにオレンジは居た。真顔で突っ込んだ隼人に一同が深く頷いたのも致し方あるまい。

「ったく、真っ暗になるまで勉強かよ。逆に馬鹿じゃね?(´∀`)」
「おい、左がやべーぜ」
「あっ、いっけね(´ヮ`)」

パイプ椅子に逆向きで座り、背凭れを抱える様にして昭和の喫茶店に設置されていた様なインベーダーゲームのレバーを駆使している。向かい側には欠伸を発てるフレッシュグリーン。お馴染みの二人だ。

「セクシーホクロ総理、僕にもやらせて欲しいにょ!」
「やんっ、やらせて欲しいなんてエロいっスよ会長宜しくお願いしますっ!(*/ω\*)」
「殿、次はオレの番っスよ。今回は譲れねーぜ、下剋上万歳」
「ふぇ、ユーヤンちゃん」
「縦社会万歳っス。殿に譲ります」
「ユーヤン大好きィ」
「テメ、自分だけ株上げてんじゃねぇぞユーヤ!Σ( ̄□ ̄;)」

がばっと抱きつく俊をガシッとキャッチした裕也に、ゲームテーブルへ乗り上げた健吾が騒ぎ立てる。
珍しく無言の隼人が健吾の頭を殴り、俊を抱き締める裕也を蹴り飛ばし、ズレ落ちた俊の眼鏡を押し上げた。

「ボスー、隼人君とぷよぷよやろーよ」
「はっ、ぷよぷよしか出来ないだけだろ馬鹿ハヤト(´艸`)」
「しゃしゃってんじゃねーぜ、阿呆ハヤト」

睨み合う長身二人、隼人VS裕也が火花を散らし一触即発の雰囲気だが、誰かを忘れていないだろうか四重奏。
土下座する勢いで甘えまくって折角繋いで貰った俊の手を失い、途方に暮れた様な表情で沈黙していた、奴、だ。


「…スンレン、ユーイェ」

中国語特有の訛りに、痙き攣った隼人と裕也が振り返る。スンレンが隼人、ユーイェが中国語発音の裕也だ。

「再見、晩安。(さようなら)」


にっこり微笑むや否や、首の骨をゴキッと鳴らした要から全速力で逃げる緑と金が見られた。
がっつり塩っぱい表情を浮かべた庶民愛好会長はとりあえずお得意の無視を発動し、インベーダーゲームに勤しむ二人を余所に畳へ座り込む。お土産は佑壱お手製のたこ焼きだ。紅蓮の君親衛隊の不良達が持ってきた。合言葉は「お疲れ様っス」、別に疲れてないしと突っ込む勇気は無かった。

「近況。最近ちょっと過激になって来てる」

途中仕入れたペットボトルやつまみなどを冷蔵庫へ仕舞っていた桜が表情を曇らせ、コンソメポテチを貪る男が眼鏡を押し上げた。

「存命で何より。成果は如何程だ、ヒロアーキご主人公」
「縁起でもないコト言わないでくれないかい、カイ庶務」

苛々とたこ焼きを頬張った太陽が僅かに機嫌を直し、

「何、命を落とそうが気に病む必要はない。盛大な追悼式を開こう」
「俺1月生まれ、君4月生まれ、先に死ぬのそっち」
「まぁまぁ、喧嘩しないで二人共…」

近況報告に興味がない神威へ二つ目のたこ焼きを投げ付けそうな太陽を、空かさず桜が宥める。
此処の所、日課となった『被害報告』は主に太陽と俊だ。Sクラスと言う免罪符で何とか寮内は安全だが、先程の様に校内で少しでも隙を見せれば何かしら絡まれてしまう。進学科の全てが機密事項であるだけに、校舎内で動いている親衛隊の殆どがSクラスの人間だろう。クラスメートさえ信用出来ない状況は余りに分が悪い。

「今日は俺の机と間違えられた錦織の机が生ゴミだらけにされてたし。今までは落書きくらいだったのに、然もシャーペン」
「紅蓮の君が素早くぉ掃除してくれたねぇ」
「ふむ、爪が甘い奴らだ」
「嫌がらせの主犯だったら首絞めるよー、カイ庶務。…ポテチばっか食べない」

油汚れにもめげず、欠食児の様に3袋目のコンソメポテチに手を掛けた神威を呆れ顔の太陽が制止した。
低気圧を巻き起こした神威の元へ、隼人と裕也を絞めてきたらしい要が近付き、インベーダーゲームに飽きたらしいオタクが跳ねながらやってくる。見れば傷だらけの隼人と裕也が、ロッカールームの隅で肩を並べていた。

「カナメちゃん、昔からあんななの?」
「独裁政治だぜ」
「とりま口じゃ勝てないもんねえ。あーゆートコ頭良いから、悪口レパートリー多いんだもん」
「喧嘩で勝っても満月の日に闇討ちされるぜ」
「…狼男」
「一応オレらのリーダーだからな」

膝を抱えた隼人を胡坐を掻いた裕也が宥めている様だ。下剋上を誓った二匹のワンコはさておき、

「俊、今日はどうだった?」
「もきゅん。えっと、押し花貰って、理科の後にお手紙貰ったけど黒カイさんったらお手紙食べちゃったにょ」

ハートのシールで封印された純白の封筒に、ラブレターだと眼鏡を割った俊を余所にほぼ全員が痙き攣った。あからさま過ぎる呼び出し状ではないかと太陽が忠告する前に、眼鏡を妖しく曇らせたヤギさんならぬカイさんがパクもきゅっと平らげたのだ。牡羊座に幸あれ。
ぷはーんにょーん、とムンクの叫びを見せた腐男子のブロークンハートはともかく、その件で被害はない。

「ねね、タイヨーは?」
「あー、…テニスラケット?」

夕方狙われた一件を話せば、麦茶を啜っていた桜が咳き込む。汚いな、と眉を寄せた要がティッシュを寄越し、たこ焼き3パックを一瞬にして胃に収めた俊が神威の背後からコンソメポテチを発見。

「いただきま。」
「俊、」
「あーん。もきゅもきゅ」

明日食べようと楽しみに取っていた神帝陛下のコンソメポテチは、バリッと開封するなり粉薬の様に一気食いした天皇猊下の胃袋へ旅立たれた様だ。止める隙もない。
正座していた神威の背中が丸まったみたいです。陛下は猫背を覚えた。にゃんこ度20Up。

益々受けっぽくなりました。


「然しテニスラケットとは、やはり爪が甘い」
「ゴルフクラブでも持って来いってねー。下手したら俺死ぬんですけど?」
「タイヨーは死にません!僕が守るから!主に天井裏から!タンスの中から!」
「ストーカー発言やめい。とりあえず、今回も運良く助けられたから被害はなし。っと」
「運良くって…。それにしてもぉ、いつも太陽君を助けてくれる人って誰なのかなぁ?」
「お顔を隠してるって事は、シャイなイケメンに違いないにょ!ハァハァ」
「顔に傷でもあるのでしょうか。幾ら国際科でも普段からマスク着用はしませんよ。不審この上ない」

村崎のインスタントコーヒーを勝手に開封した要がポットから湯を注ぎ、一口啜るなり顔を顰める。豆から挽いた上質なコーヒーばかり飲んでいる彼の口には合わなかったらしい。

「でも、基本的に進学科だったらブレザー着てるしなー。バッジ無かったら俺達なんかいい鴨だし」
「そぅそぅ、工業科の人達に絡まれたりするんだよねぇ…」
「殴り倒せば良いでしょう?昔はともかく、今の俺は絡まれた事がありません」
「錦織会計、それも一つの有名税だよねー。命が惜しい奴は絡まない絡まない」

何せ見た目は美人でも中身はベンチを叩き割る狂犬だ。曰く満月の夜は別人の暴れっぷりらしいが、未だ見た事がない太陽と言えば今の要も十分恐ろしい。

「一度ぉ礼しなきゃ。太陽君ってば何回言っても一人で動き回るんだからぁ」
「う。す、すいません」
「然し、その不審な男が偽善者ではないとしたなら、何か魂胆があると考えるべきですよ」
「魂胆?」
「ぉ金目当て、とかかなぁ?でも国際科って僕達進学科よりぉ金持ち多ぃよねぇ」
「国際科かどうかも判らないでしょう?尤も制服着用義務は無いんですから、我々に」

俊からコーヒーを奪われた要がそれを微笑ましく見守れば、ずるりと鼻水を垂らしたオタクがブレザーの袖でゴシゴシ。

「仲間と思い込ませて隙を狙っているとも考えられます」

それすら微笑ましく見守る要が、ごろりと転がった俊の肩を揉んでやり、ポテチの油汚れを拭った神威が俊の太股を揉み始めた。

「極楽極楽。あっあっ、ハァハァ、もっと強く!もっと切なく!芯は強い健気受けのよーに…!」
「…こうですか?」
「想定外に凝っているな、俊」
「あっあにょ、カイちゃん…それお尻なりん。ふにょ〜ん、むにょ」
「その汚れた手を離しなさい庶務、会計命令です」
「ふ、油汚れは既にウェットティッシュで拭っている」
「ファブリーズもばっちりにょ」
「今の俺の指は除菌消臭済みだ」

火花散らす二人の下でハァハァ喘ぐオタクを塩っぱい顔の桜が見守り、息を吐いた太陽が炬燵に組んだ腕を乗せた。

「一理あるけど、悪い人には見えないんだよねー。二回助けて貰ったんだけど」
「にしても階段から落とされたり背後から襲われたりするなんてぇ」
「確かにタイミングが良過ぎると思うけど。疑ってたらキリないし、敵なら敵でその時対応すればいいだけさ」
「本当に危なぃよぉ。ねぇ、」
「風紀には言わない」

きっぱり吐き捨てた太陽に桜が肩を落とし、揉み解されふにゃふにゃ腐男子に変貌した俊がふにゃクネ起き上がる。

「俊も嫌がらせされてるのは判ってる。今はまだ俺と俊がターゲットだけど、いつかは皆にも波及するかも知れない」
「ご主人公様にちょっとしたピンチは必須条件なり。障害を乗り越えた時にドラマは盛り上がるにょ!ハァハァ」

ちゅー、と太陽の湯飲みにストローを差した俊が緑茶を奪い、佑壱お手製マカロンを太陽の前にそっと差し出した。もう一つは桜の前、然し滴る涎を認めた心優しい桜の許可を得てパクっと一口だ。

「俺らの肩書きなんか、所詮付け焼き刃以下さ。中央委員会の前では何の意味もない。誰も信用出来ないからって、疑心暗鬼になれば向こうの思う壺だ」
「タイヨー、あーん」

涎を垂れ流しながら差し出してくる俊に軽く笑い、半分齧った太陽がその甘さに片眉を上げて残りの半分を俊の唇に押し当てた。

「こんなコトで泣き付いたりしないよ」
「むにょ」

頬を染め太陽の指ごとマカロンを食べたオタクがもじもじ身を揺らし、睨む神威と要と恐らく隼人と裕也、健吾の視線を一身に浴びながら。

「今はまだ駆け出し。でも来年の今頃にはどうだろうねー。…賭けてもいいよ、ゲームは得意だから」

俊の唇に残ったクリームを親指で拭い取って。


ぺろり、と。
舐めた太陽の眼差しが細く細く、


「ゾクゾクしないかい、…傲慢な王様共を跪かせる日が来るって」
「ぷはーんにょーん」

笑みを描けば、心臓が爆発したらしい俊が眼鏡も爆発させて塵と消えた。ダイイングメッセージはサンライズMOE、時の君親衛隊長(自称)の死に顔は酷く満足げだったと言う。
真のサディストを見た全ての人間が無意識に正座し、元々正座していた神威が恐らく無意識に喉を鳴らした。


(…似ている)

全てを『ゲーム』として楽しむ眼差しも、決して揺るがない声音も、何も彼もが。
余りに似過ぎていたのだ。

「…サブボスー、受け売り台詞使うのやめてよー。またどーせゲームでしょ」
「あはは、実は俺様攻め攻略中でさー。昨日セーブしたトコの台詞言ってみたかったんだよねー」
「太陽君っ、格好良かったよぅ!」
「ありがとー」

先程までの緊迫した雰囲気が霧散した皆が笑い、裕也の心臓マッサージで起き上がった俊の隣で人工呼吸準備をしていた健吾が密かに舌打ちした様だ。

「ねね、新幹線はどーなってるにょ?」
「のぞみ?」
「ひかり?」
「こだま?」
「はやぶさ?」
「きっと新歓祭」

総長のボケに四重奏全員が被せ、見事なボケ交響曲を奏でる。が、突っ込ませたら右に出る者が居ない(帝王院限定)太陽が呆れ混じりに一言、雷に打たれた表情で硬直するカルマ五人を誰が責められただろうか。
此処に副総長が居た所で『あずさ?』とボケたに違いないが、あずさは新幹線ではない。特急列車だ。

「新歓祭かあ。学園祭と違って一日で終わるんだよねえ、かったる」
「どーせサボるつもりだろ(´`)」
「各クラス出し物は決まったぜ。準備は20日前後からっつってたな」

オタクの眼鏡が光った事には皆が気付いていたが、いつも光っているので誰もが華麗に無視した。



「ふぇ。くぇーっくぇっくぇ」


それが大きな間違いだと気付くのは、随分先の話である。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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