帝王院高等学校
今日も平和でございます。
此処は男子校を舞台にしたドラマのロケ地、帝王院学園でございます。見渡す限り煌びやかな気品漂う最高級のセット、大道具、トイレに至ってもプリンスホテル顔負け。
カット、の声と共に張り詰めていた装飾に負けず劣らず煌びやかな俳優陣から力が抜け、各々ドラマのリズムから身を退いた様に感じられます。


それでは連続携帯小説帝王院学園から離れた、プライベートな彼らを少しばかり覗き見する事にしましょうか。





「お疲れ様です、白百合役の二葉さん」

若手俳優であるカルマ副長役の爽やかな笑顔に、ドラマの小物である眼鏡を外した男がほのぼのと笑った。忙しなく動き回るスタッフへ挨拶一つ、役中は友好的とは行かない二人は互いに微笑み合い、

「お疲れ様どすえ、佑壱はん」
「ははっ、二葉さん役になりきっちゃって!京都に二週間行ってたんですよね」
「あっ。いやー、すみません、どうも撮影クールに入ると役になりきってしまって…」
「偉いじゃないですか、凄いですよ!プライベートで役の勉強なんて、見習わなきゃです」
「そんな…」

ぽっ、と頬を染める二葉に佑壱が晴れやかに笑ったその時、アシスタント達が騒めいた。


「こんなしょぼいロケ弁食わせる気?」
「す、すいません。でも今日の仕出し弁当は県内でも有名な料亭の、」
「言い訳すんな!」

大物俳優の見慣れた癇癪が今日もスタッフを襲っている。

「や、山田さん!もうその辺で…」
「口出しすんな錦織!お前ン所のプロダクション潰すぞ!」
「す、すみません…」
「そこまで言わなくても…、太陽さんっ」
「黙れ藤倉!若手が生言ってんじゃねぇぞ!」

40歳越えているとはとても思えない童顔な彼は踏ん反り返り、スタッフを庇う俳優達を睨んだ。

「あー、…また山田さん騒いでるなー」
「弱りましたね、主役の遠野さんじゃないと止められない…」

若手ばかりの俳優陣にも、やはり大物は居るものだ。高校生の役回りを何の違和感なく立ち回る山田太陽は勿論、主役陣も実年齢は役とは掛け離れている。

「何、かなり煩ぇんですけどー?とりま黙らせっぞ」
「どうした、この騒ぎは」

噂の主役、超大物俳優がロケから帰ってきた様だ。傍らにダブルキャストである帝王院神威の姿がある様だが、二人共に今の今までキスシーンがあったとは到底思えない普段通りな表情である。

「遠野さんお疲れ様です」
「いつも通り早かったですね〜」
「ああ、お疲れイチ君。二葉君も相変わらずNG無し記録更新だって聞いたよ。頭が下がる」

年齢不詳な遠野俊は父親の様に眼尻を緩め、照れ臭げに笑う二人の肩をぽんっと叩いた。そして相変わらずガミガミスタッフを怒鳴り付けている太陽へ振り返り、


「太陽!いい加減にせんか」
「げっ、親父!」

40歳越えた山田太陽は、業界では有名な話だが遠野俊の実の息子だ。親子揃って演技派男優だが、どうやら親子仲は余り円満ではないらしい。
見た目ならば二十歳そこそこの遠野と、中学生の太陽は年の離れた兄弟と言った所で説得力に欠ける。


遠野俊は何歳なのだろうか。


「あ、この煮物美味しい」
「こっちのお刺身も美味しいよ隼人君、お刺身なんて何日振りだろう」

おや、アイドルユニットのメンバー達が、校庭のベンチに並んでお弁当を突いている様だ。

「でも日向君、昨日の茶碗蒸しも凄かったよねっ。松茸が入ってるんだもん!」
「デビューCDはあんまり売れなかったけど、このドラマに出して貰えて良かったねっ」

金髪二匹、神崎隼人と高坂日向の姿が見える。ドラマの中では不良の役者だが、実際は田舎育ちの穏やかな二人だ。

「ちっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ。次のシングルは脱いでも売る気になれや!」
「え、ええっ?脱ぐ?!脱ぐって裸になるって事だよね、日向君っ!」
「健吾リーダー、それってヌードって事?!駄目だよ、恥ずかしいよ!」

デビュー二年目のアイドル達が何やら賑わう傍ら、撮影終了と同時に携帯を弄り始めた男と言えば、


「おっはー、俺、俺俺。は?違ぇし、お・れ!お前の可愛いカイちゃんだっし!」

赤ちゃんの頃から芸歴20年、若手だが大物俳優である帝王院神威が劇中とはまるで正反対なにこやかさを以て、ストラップだらけの携帯に話し掛けていた。見慣れた光景なので誰も狼狽えはしない。

「だっからー、明日まで撮影延びそーなんだってぇ。マジマジ。は?浮気?何ゆっちゃってんの?俺はお前だけだし!」

聞いていた皆が呆れの目を向ける。
第3シリーズ『脆弱な夜想曲』の撮影は後半に入っており、今日の撮影はまだ続くが神威の出番はもうない。

「疑うなよ、愛してんぜ」

電話の向こう、恐らく彼の数多く存在する彼女の一人だろう誰かへ甘く笑い掛けた男は、その無駄に整った美貌を新人アイドルである女性へ注ぐ。

「ごっめ、待たせたね俊江ちゃん!」
「あ、あの、今の彼女さんじゃ…」
「はー?あんなん彼女な訳ないじゃんっ、口煩い親だって!ははっ、うちの母親マザコンで困るよ!」
「お母さんだったんですか」
「そーそー。じゃ、行こっか。パスタの美味しい店があるんだって、原宿に!」

恥ずかしげな初々しいアイドルの肩を何気なく抱き寄せた男が、愛車のメルセデスへ去っていく。皆の冷めた目が二人を追い掛け、


「原宿、ですか」
「二葉さん、熱愛報道と妊娠報道、今度はどっちが早いと思います?」
「ちっ、餓鬼が色気付いてんじゃねぇよ」
「俺の可愛い太陽、その可愛い顔で舌打ちはやめろ」
「キモいしムスコン野郎」



楽屋裏は今日も平和でございます。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!