帝王院高等学校
副長、何処でデコメ集めてんスか
所で話はがらりと変わるが、奴は何処に消えたのだろうか?
主人公の割にスポットライトが当たらない我らが主人公、遠野俊15歳に於ける数十分間の経緯、格好良く言うなら猊下ヒストリーを暫し振り返ってみようと思う。




その前に、前夜届いたメールから振り返ろうか。





To: 総長
subject: お疲れ様です


明日のはマカロンっスよ
300個作っておきますがっつり食って下さい

明日の集会ですけど
3区の奴らが調子乗ってるみたいなんでそっち片付けようと思ってます

今からなんで報告はまた
エルドラドに気を付けて下さい











「太陽君はぁ、どぅしたのぅ?」
「ちーん!ふぇ?」

桜に当てて貰ったティッシュで鼻血を拭い、さり気なく桜の腰に抱き付こうとした黒縁白ストラップ眼鏡が曇った。太陽と言えば白昼のトイレに親友を置き去りにしたドSの名前である。
おしっこはちょっぴり零れるし、太陽と擦れ違いで入って来た何とか親衛隊と言うチワワには見られるし(未使用の息子と濡れた大理石を、だ)。幸いか否か、濡れた大理石には気付かなかったらしいチワワ達は、俊の社会の窓を凝視したまま微動だにしなかった。
おい、そこの外部生。開口一番、チョッキンガーの恐怖に痙き攣る眼鏡と息子を呼び付けたチワワ達には申し訳ないが、どうせ見るなら(だからオタクの息子を(※お宅の息子とは違う))冷たい目で見下しつつ顎をつんと反らし、

『ウジ虫チキン野郎、粗末なモン見せてんじゃねーよ!』

と傲慢に吐き捨てて欲しかった。ちんちん見られた恥ずかしさより、凝視したまま微動だにしないチワワ達に絶望したMはそのまま廊下を爆走し、犬になり、神威には狐耳しっぽをそっと手渡し、今に至る。

今頃太陽は何をしているのだろう。素早くポチった携帯は全く鳴らない。実の母親すら気が向いた時にしかメールしてこないし、太陽は余り携帯を使わないタイプらしく夜中に電話したら10秒で切られてしまった。用があるなら来い、と。
どうやらゲーム中の太陽は俺様要素が増えるらしい。桜曰くゲーム中の太陽は桜がおやつの時間を知らせても、横から羊羹を与えても全く気付かないと言う。昨夜は何故か桜のおやつ目当てらしい隼人がバルコニーからこんばんは、ゲーム中の太陽を眺め笑顔でゲームのコンセントを引き抜き、


地獄を見たとか何とか。
例え不良でもゲーマーの邪魔をしてはいけません。

「隼人君みたいに足が長ければよかったのにねえ。可哀想なサブボス」
「はっくん、そんな事言っちゃ駄目でしょ」
「別にサブボス短足だから走っても徒歩とかゆってないじゃん」
「短足でも萌えへ駆ける情熱の速度はいつでもスピード違反ですっ」
「そろそろ時間ではありませんか?」

携帯が鳴らない事に膝を抱えた俊を甲斐甲斐しく宥めつつ、自分の携帯で俊へメールしてやる要が隼人へ目を向ける。くわっと欠伸一つ、桜の膝の上でゴロリと寝返りした男がメッシュ交じりの髪を掻いた。

「ギガめんどー」
「もぅ、はっくんったら」
「だってー、図書委員長ってアイツなんだもん」
「天の君、着替えなくて大丈夫ですか?」
「委員ちょ、どーしたら委員ちょみたいなお洒落眼鏡になれますか?!」

俊からのデコメールを見つめていた要が返信しながら、さり気なく隼人へ視線を注ぐ。絵文字も使わない要のブラックメールより気弱な委員長の方が萌えるオタクを余所に、悲しげに首を傾げた桜が微笑を滲ませた。

「嫌ぃなの?」
「ABSOLUTELYは敵ー」
「セイちゃんはぁ、カルマに憧れてたんだよぅ」

ちらり、と俊へ目を向けた桜を余所に、気弱な委員長へセクハラしていた俊がきゅぴんと光った眼鏡にしゅばっと振り返る。

「萌センサーに反応あり!遠野俊、行きます!」
「天の君、社会の窓が開いてますよ」

開放的なオタクが走り去り、クラスメート達がひらひら手を振った。
さてさて、桜と隼人がこの後何ともなく気まずい雰囲気ながら会議室へ向かったのはご存知の所だろうが、今回はATフィールド全開、いや、社会の窓全開のまま爆走するオタクを追跡しよう。


グラウンドを出てすぐ、彼は喫煙中の不良達に出くわした様だ。
因みに社会の窓を閉めようとした彼はファスナーで下着を噛んだらしく、押しても引いても引っ張っても微動だにしないファスナーから眼鏡を反らし、ブレザーを腰に巻いていた。股間を隠さねばオタクの沽券に関わる、か、どうかは知らない。

「誰だテメー」
「何見てんだ地味野郎」
「此処がオレらの縄張りだって判ってんのか、あ?」

ブレザーにはSクラスのバッジが煌めいているが、脱いでしまえば判断不可能に近い。ギロリ、と如何にもガリ勉な俊を睨む彼らは、隼人お得意のヤンキー座りと咥え煙草でチキン眼鏡を怯ませた。
素早く回れ右しようとした俊の背後に、ポケットへ手を突っ込んだ爽やかイケメンが見える。健康的に焼けた肌は浅黒く、短い茶髪をセットしている所が益々イケメン度を上げている気がした。

然しその凄まじい睨みが正に恐怖。
びくっと怯んだオタクに、彼らがニヤリと笑みを深めても致し方あるまい。


「何処に逃げるつもり、君」
「あにょ」
「今見た事、チクる?」

ブンブン頭を振れば、背後の誰かから頭を掴まれた。ぐいっ、と髪を引っ張られる気配、爪先が僅かに浮く。

「う、ぇ」
「風紀はさぁ、勘弁して貰いてぇんだよなぁ」
「オレらの領域には入って来ねーけど、な!」

背中に衝撃、息を詰めた瞬間吹き飛んだ体が土の上を転がった。

「自分の不運を恨むんだねぇ」
「ほら起きろ眼鏡!」

ああ、真横に赤い時計台が見える。つまり此処は、離宮の裏庭か。
中央キャノンは遥か向こう、普通科があるのはもう一つ向こうの離宮だった筈だ。

「ギャハハ、吹っ飛んだな今!」
「丁度良いや、サンドバッグ欲しかったんだよなぁ、オレ」
「かなりストレス溜まってんもんな、お前ら」
「ちっ、大河が居なくなってからだろ。祭部連が図に乗りやがってよぉ…」
「所詮大河の飼い犬の癖に」

沢山の足から蹴られている気がする。頭だけでも庇わなければ、と両腕で頭だけ抱え、小さく小さく体を丸めた。

「手加減してやれよ、お前ら」
「総長、無駄な命令はやめて下さいよぉ」
「オレらエルドラドに容赦なんて言葉ねぇんスから」
「レジストとかカルマなら話は別だろうが!」

背中が痛い。
重い、すぐ近くで土の匂いがする。頬に乾いた砂の摩擦、痛い、重い、

「んな雑魚で遊んだちゃ何のストレス発散にもなんねぇ!」
「クソが!祭の野郎も言いなりになってやがるタコも殺してぇ!」
「何がFクラスだ、ボケが!」

ああ、そうか。
此処は特殊学科なのかも知れない、と。今更気付いた。何せ入学案内にはFクラスの表記などなかったから。
八つ当たりだろうか。八つ当たりで人を蹴るのか、こんなに大人数で。


痛い。薄く開けた視界は真っ暗だ。
息が詰まる。目頭が熱い。
月がない夜と満月の夜には怖いものなど何もない気がするけれど、新月はとっくに終わった。今は満月に向けて猫の爪の様な上弦の月が薄く、薄く。

土の匂い、鼻先を雑草が擽った。
痛い。息が詰まって喉が焼け付く。


怖い時は繰り返し。
助けて欲しい時だけ身勝手に、いつも。名前を呼んでいた気がする。可愛い愛犬の愛称、呼べばいつでも現れてくれるヒーローだと半ば信じていたのかも知れない。


「…タイヨー」

痛い。怖い。背中の感覚がない。

「ぉ、母さ、」

土の匂い、頬が痛い、地面に擦り付けた眼鏡が皮膚を抉る。



「カ…ィ、ちゃ…」



八つ当たりなんかで、苛めないで。











『だからあそこには近付かない方が良いんだよ』




『いや、不良がどうとかの前にさぁ』
『まともな奴が居ないからなんだけど』
『確かに喧嘩の強さなら、圧倒的にSクラスと工業連中のが上だよ』
『でも、Fには覇王の駒が居るからな』
『知ってっか?』
『イカれてんだ』
『大河朱雀は頭がイカれてる』
『知らないのかよ、アイツを。秦王朝の末裔とか言う話だけどな。古代中国の王族っつったら、戦好きばっかだろ?』
『日本も皇族家は本来将軍家の飼い主だからな、余所の事は言えねーけど』
『あの家が何でマフィアかっつったら、早い話大河家の飼い犬だからだよ。中国四千年の歴史の中で、大河と祭は常に主従関係だった』
『今じゃ当主の折り合いが悪いとか何とかで、表立ってこそ何もないけどな。水面下じゃ冷戦状態だ』
『飼い犬、つまり祭が巨額の金を転がし始めて変わったらしいぞ。今のメイユエは金の亡者だとよ』
『大河の現当主はキレ者だって話だがなぁ、いずれ一人息子が継ぐんだろ?大河の妾の子供は早々に暗殺されたらしいからな』
『大河朱雀は命を狙う相手に嬉々として反撃するんだってよ』
『高坂日向は狙う相手を放置してやがるけどな。優しいのか肝が据わってのか知らねぇけど、無意味ちゃ無意味だ』
『王子の横には魔王が居る』
『今から頭が痛ぇ』
『いつか戦争が起きるぜ』
『大河朱雀は餓えた覇王だからな』
『人間の欲をそのまま固めた様なイカれた野郎だ』
『当主の命令だか何だか、Sクラスで落ち着いてた様に見せてたけどなぁ』
『ニ年前、アイツは魔王に手を出した』
『あれこそ地獄だったぜ』
『怒り狂った魔王が大河を殺しそうになったくらいに、な』
『祭美月と組んだ大河相手じゃ、本気にならざる得なかったのは判るとしても…』
『あの男だけは怒らせちゃいけないってよぉ、自治会一致で承認したっつーんだから手に負えねぇ』
『そんな魔王ですら、事実上勝てたのは奇跡だったな』
『違う、状況が幸いしたんだろ』

『あれは地獄だった』

『祭美月と大河朱雀、そして叶二葉』
『単体だけでも震え上がるっつー話だってのにさぁ、』
『あの男はものの数分で黙らせちまったんだよ』



『帝王院神威』



『息一つ乱さず地獄の最中に立った、神』

『Sクラスには逆らうな、っつーのはなぁ。何も規則に則った話だけじゃない』
『全世界のマフィアを従わせる黒貴族から目を付けられない為の防御術なんだよ』





『ルーク=フェイン』



『全てに平等な神は怒りも笑いもしない』
『等しく常に冷静沈着、仲間ですら容赦無く跪かせる人格崩壊者』

『可愛がるのも痛め付けるのも同じ』
『死ぬも生きるも同じ』
『何にも執着せず』
『何からも揺さ振られず』
『生きているのか死んでいるのかも判らない、無機質な生き物』


『口を開けば一言で国家予算に匹敵する金を動かす』
『一つキーを叩けば国が滅びる』
『我らが生きるも死ぬも、神の機嫌一つ』
『あれに逆らえる人間は居ない』

『命じた「総て」が世界、だからこそ闇に葬られた一族』


『気を付けろ』
『目を合わすな』
『興味を与えるな』
『何故グレアムが世界系譜から抹殺されたのか考えてみろ』
『血が凍る恐怖感だろう』
『ああ、怯えさせたか』
『そう恐ろしい事でもない、空がある限り安心だ』


『但し、』



足元を、決して見るな』

←いやん(*)(#)ばかん→
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