帝王院高等学校
突撃★下院総会〜ハヤサク編〜
「では、Aクラスは展示品の収集装飾・当日の会場運営で決定します」
「BクラスCクラスは合同運営と言う事で、各班に分かれ屋内での出し物を決めて下さい」

はーい、と長閑に返事する生徒達の中に、絆創膏だらけの獅楼が見える。キョロキョロ辺りを見回し、誰かを探していたのか肩を落としている様だ。どうやら見付からなかったらしい。

「尚、屋外の屋台運営が決まっている技術コースが業者名簿を持っているので、食品を扱う班は15日までに技術科の先生へ連絡して下さい」
「体育コースの生徒は各班に分かれ、担当のクラスの手伝いに回ります」

教師や学級委員の台詞で、生徒達の賑わいが再発した。

「喫茶店とか良いんじゃないかな?」
「最近流行りだって言うメイド喫茶は?君、可愛いからきっと似合うよ!」
「いやいや君こそ」
「お化け屋敷とかは?」
「西園寺も男子校だし、きっと格好良いお兄様方もくるよ!お化け屋敷なら触り放題っ」
「かわいこちゃんにも触り放題!」
「俺、ラーメンの屋台やりたい。ドラマでしか見た事ないんだよ」
「屋台は工業科がやるって言ってたじゃんか。やめとけよ、危ないって」
「屋内で屋台は無理そうだしなぁ」
「ねぇねぇ、何か劇やんない?」
「駄目だよー、それじゃ学園祭じゃない」
「学園祭の方が断然盛り上がるんだから、新歓祭でやるのは勿体ないよ!」
「だよねぇ、学園祭だったらSクラスの皆様も参加されるし」
「僕っ、星河の君にシンデレラの王子様を演じて貰いたいんだっ」
「僕は紅蓮の君に安倍清明をっ」
「俺は白百合様にジュリエットを!」
「もしっ、もし許されるならっ!神帝陛下にオペラ座の怪人をっ」

口々に熱弁を奮いあう皆を横目に、テトラパックの苺オレをずずっと吸った獅楼が陰陽師な佑壱を想像し頬を緩める。
式神ならぬ式ワンコを操り、妖怪と日夜戦う着物姿の佑壱。烏帽子姿の佑壱は、獅楼の妄想の中で美化1000%のイケメン陰陽師だった。いや、実際美化せずともイケメンなのだが。

イケメン設定が活かされていない気がするのは気の所為だろうか。オカン設定ばかりイキイキしている気がするのは気の所為だろうか。


「質問があれば受け付けまーす」
「下院総会に出席する生徒は速やかに退出して下さーい」

時刻はそろそろ一時を示そうとしていた。
進学科と違い昼休みが45分もある普通科は、四時間目の授業からずっと月末の催しについて話し合いをしている。今は皆が弁当片手だ。先程授業が終わったばかりの体育科も混ざり、第三体育館はかなり賑わっていた。

「あ、僕行かなきゃ。図書委員だから」
「俺も美化委員だから」

それまで熱心に語り合っていたクラスメート達が申し訳なさそうに立ち上がり、胡坐を掻いていた獅楼にぺこりと頭を下げる。
見た目と家柄だけで浮いている獅楼は、中等部で普通科に内定してから皆のボス的な立場にあった。口下手故に黙っているだけなのだが(喋ったら台無しだと教育係に言われ続けてきたのもある)、何せ見た目がもうすこぶる偉そうなヤンキーであるからにして、


「気にしないで行ってこい」

と、励ます様に言ってもクラスメート達は益々恐縮するばかりだ。なので獅楼には工業科へ進んだヤンキー以外の友達が昔から居ない。
カルマに入ったのもその友人達が常々噂していて、佑壱に憧れていたのもあって軽い気持ちからだったのだ。
性格はともかく、恵まれた体格とカルマ試験の一つであるカルマ語の小冊子(闇取引で一冊三万円)を、毎晩飽きず読み更けてすっかり覚えてしまったお陰か。然し読書好きで良かった。


「あーん?(´ー`) テメー、何ガンくれてんだコラ('∀'●)」
「ひっ」
「ケンゴ、オレらは展示だってよ」
「はァ?(´Д`)」

何故か上半身裸でブレザーとシャツを肩に掛けた二人が、比較的大人しい普通科に紛れ巾を利かせていた体育科を睨み付けながらやって来る。いや、因縁付けているのは健吾だけだ。
緩んだベルトからボクサーブリーフの裾をちらつかせ、大きな欠伸を発てる裕也は我関せずを、

「ユーヤ、あそこの金髪お前にガンくれてたぞぇ(∩∇`)」
「あ?面倒臭ぇ、潰すぜ」

いや、所詮あの二人は似た者同士だったらしい。

「何か急に静かになったっしょ(´∀`) うひゃ、皆お前にビビってんじゃねーかァ?(´艸`*)」
「テメーが因縁吹っ掛けてっからだろ、ケンゴ」
「プリティな俺の何処にビビる要素があんだよ、惚れてしまう気は判るけどもっ!(//∀//)」
「独り言は寝て言うもんだぜ」
「そら寝言だろ(´`)」

罪無き体育科生徒達がガタガタ震えている中、良い気味だと囁きあう普通科生徒達を横目に、呆れ果てた獅楼の隣へ裕也がどかりと座り込み、意味もなく獅楼を殴り付けた健吾は立ったままホワイトボードを眺めた。

「ケンゴさん、何で意味もなく叩くのさ!」
「は?こんなん挨拶代わりっしょ(´Д`*) そんだけ可愛がってんだよ判れよ判ったか判れば良し、許すb(・∀・)」
「え、そうなの?」
「で、オレらの役割はどうなったんだ」

お人好しにも程がある獅楼はまんまと騙され、脇腹をつねったり脛毛を抜こうとスラックスの中に手を突っ込んでくる健吾を余所に手元の資料を裕也へ渡す。
欠伸を噛み殺さない裕也が襟足をボリボリ掻きながらシャツを羽織り、膝の上の小冊子に面倒臭げな目を落とした。

「歴代執行部役員と任期中の日本経済?面倒臭ぇ匂いがぷんぷんするぜ」
「歴代役員はキャンサー広場に記念碑があるからすぐ判るし、その時期の経済情勢は得意な奴らがパソコンで調べるからユーヤさんがやる事なんかないよ」
「えー、俺らだけ仲間外れにするつもりかよ、獅楼の癖に(´Д`)」

役割を与えた所で働くつもりもない健吾が、頬を膨らませ獅楼の背中を殴る。あいたっ、と悲鳴を上げた獅楼に、クラスメートの誰もが目を逸らした。紅蓮の君親衛隊も同様だ。
まかり間違ってもカルマ特攻隊長を敵に回すつもりはないらしい。

「酷いー、痛いー、ぐすん」
「キモいっしょ獅楼の癖に(=・ω・)/」
「キモいのは元々だぜ」

裕也の一言で膝を抱えた獅楼を、集まってきた親衛隊仲間が口々に慰めた。

「にしても、キャンサー広場っつったらハヤトの昼寝場所じゃね?(´∀`)」
「あんな面倒臭い所で寝るのはアイツくらいだぜ」

校舎の裏の森を20分ほど歩く必要がある高台には、まず誰も足を運ばない。帝王院学園1の昼寝皇帝である神威ですら行かないのだから、まず間違いないだろう。
だが然し夜は満天の星空が煌めき、昼は吹き曝しに靡びく風が芝生を撫でる中々のスポットではある。但し夏場の昼はゴルフ場並みに暑いが。

「今夜は…駄目だな(´`)」
「無理だぜ」
「久し振りに集会あるしなァ(∩∇`)」
「まぁな」

ゴロン、と健吾の膝に寝転げた裕也が小冊子を顔に乗せ、続けてゴロンと寝転げた健吾が膝を抱えた獅楼の背中を枕代わりにする。

「獅楼ー、気が向いたら歴代役員調べて来てやるっしょ(´艸`)」
「ぐー」

ビクビク様子を窺う皆を軽やかに無視し、下院総会に出席しなければならない筈の二人にどうしたものかと頭を悩ませる教師達が見えた。
既に寝ている裕也を余所に、全く宛てにならない健吾を恨めしく振り返った獅楼は、


「所で獅楼君、何でさっきから隣にその御方が?(´Д`*)」
「おい、俺にも膝枕しやがれ」
「ちょっと烈火の君、うっざい」

昼食代わりのチョコバーを貪る教育実習生に、とんでもなく冷ややかな眼差しを向けたらしい。












「ぇ?」

ぱちくりと瞬きした桜が、くわっと欠伸を発てた隼人の袖を掴んだまま口元に手を当てた。

「ですから、左席委員会兼任の方は奥の左議席へお入り下さい」

裁判所の様な作りになっている会議室の入り口、既に疎らに集まってきた生徒達が謂わば傍聴席に座り、正面の裁判官席に座る議長へ頭を下げている。議長席の真下には風紀委員会が横一列に並び、皆の着席を誘導していた。

向かって右側、一段高い謂わば弁護側の席には中央委員会を示す金の十字架がきらめく白いペナントが掲げられ、左側の席には銀の羅針盤が印された黒いペナントが掲げられている。

つまり、


「あ、あのぅ、総会は左席委員会も出席しなぃといけなぃんですかぁ?」
「何を今更。下院、即ち生徒理事会である中央委員会並びに左席委員会の出席は当然の事。何かご不満が?」

何せ会長である俊が大々的に人事発表した為、帝王院中に左席委員会の役員が知れ渡っている。
零人曰く、知られれば確かに身の危険ではあるが、身元を隠したままでは役員優遇を受ける事すら難しいと言う。例えば授業免除権限も、他の生徒から疑われる材料となる為あまり使えない。
また、施設や購買等でのクレジット利用も、従業員達に知れるのでそこから他の生徒に情報がリークされないとも限らない様だ。金で雇われた人間が、情報を売り渡すのは良くある話。大半が富豪の子息である帝王院に、プライバシーなど皆無に等しい。

長くなったが、俊の行動のお陰で、桜や隼人が無銭飲食した所で疑う人間など皆無であるし、こうやって受付の人間から名乗る前に左席委員会だと気付いて貰える。
また、皆が左席委員会だと判っていれば表立って手を出す事も難しくなる。悪い事ばかりではない様だが。

「確かに左席委員会の下院総会出席歴は一度しかありませんが、初代天涯猊下がご出席なされた経緯があるのは紛れもない事実」
「ぇ、そ、そぅなの?はっくん」
「んー、確かにそんな記録あったかもー」

ジャージのポケットに両手を突っ込み、また欠伸を発てた隼人が随分低い位置から見上げてくる桜を横目に、突き刺さる視線へ唇を吊り上げる。
隼人の逃亡防止、と言う名目でジャージの袖を掴んでいた桜が目に見えて狼狽え始めた。受け付けの生徒の冷ややかな眼差しに負けたらしい。

「執行部は、最低三名以上のご出席を願います」
「えぇっ?」
「中央委員会執行部も勿論三名以上の出席が必須ですので、例外はありません。何かご不満が?」
「あ、あのぅ」

ああ、ここまで判り易いのはどうしたものか。近頃太陽がキョロキョロ辺りを見回しているが、恐らくあの視線に気付いているのだろう。

「ま、よいか。とっとと行こーよ、さっくん」
「で、でも二人しか居ないしぃ。錦織君呼んでこなきゃっ」

太陽探しと言う名目で走り去った俊へ手を振ったのは、つい数分前。あのままグラウンドを離れたので、要が残っている筈だ。
昼の風紀見回りで授業免除されたメガネーズの姿はまだ見えない。俊の代役にするにも、打つ手なし。

「メールするから、すぐ来ると思うよー。膝枕役には拒否権ないし」
「そっかぁ、その手があったねぇ。僕すぐ混乱しちゃうから思い付かなかったぁ」
「さっくん鈍そーだしねえ」

突き刺さる、眼。
見なくても判る。まるで以心伝心、『何故連れてきた』と言っていた。

「仕方ないじゃんねえ、図書視聴覚委員だし」
「ぇ?」
「なんでもなーい」

堂々と会議室の中央を突っ切り、一段高い位置の席へ跳ね上がる。ざわめいた周囲にも咳払いする議長にも構わず、律儀に回り込んでくる桜を手招いて、隣に腰掛けようとした肩を抱き寄せた。


「は、はっくん?!」

狼狽えた桜が頬を押さえる。
可愛らしいキスで真っ赤に染まり逃げようと足掻く肩を掴んだまま、騒めきを増した皆には構わず、殺意を帯びた視線へ薄く笑った。
これは単なる報復だ。隼人のプライバシーを知っていた桜へ、ほんの些細な。

「赤くなっちゃって、かっわいーの」
「なっなっなっ」

何故連れてきた、と問う視線。そんなに守りたかったなら隠してしまえば良いものを。
こんなに守りたいから隠している自分と同じ様に、隠してしまえば良いのだ。

「揶揄わないでぇよぅ」
「あは、だってオロオロしてウケんだもん」
「もー」

下院総会の出席義務などとっくに知っている。但し出席するのは、後一人。


「緊張するねぇ…。早く俊君達ぃ、来ないかなぁ」
「もうすぐ来るんじゃないかなー」


向かい側の席にはまだ、誰も居ない。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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