帝王院高等学校
あんなんでも総長なんです(涙)
「ユーヤ、ユーヤユーヤユーヤ、ふーじーくーらァ、ひーろにゃりくーん!」

北西宮三階、国際科のクラスが並ぶベージュを基調としたフロアから螺旋階段を昇れば、フロアを丸々ぶち抜いた四階、ホールに辿り着く。
基本的に教室を必要としない体育科クラスがその片隅に存在する為、そのホールを第三体育館と呼んでいた。

「ケンゴさーん、こっちっスよー」
「アハン?┌|∵|┘」

煌びやかな集団、つまり明らかに日本人ではない国際科の生徒達だけが白のリボンタイで、楚々として列に並んでいる。
室内測定で出来るものなど高が知れているので、身長体重座高、握力聴力視力と、体育科はHRと同じくして早々に済ませてしまった。

「あ、加賀城(´Д`*) なぁなぁ、ユーヤ見なかった?」
「高野さん、チィース」
「お疲れ様っス、ケンゴさん」

此処にカルマ1お祭り騒ぎ大好きな男が居る。見た目はジャニーズかアイドルか、見た目だけなら虫も殺さない様なカッコ可愛いさながら、大股広げて歩く男の制服は最早服として機能していない。
ブレザーは小脇に、ボタン全開のシャツは今にもずり落ちそうな有様で、ベルトがなかったらその細い腰からスラックスすら落ちそうだ。


「ああ、健吾君…」
「狂おしい…」
「君は今日も我が天使だよ、健吾君」

紳士教育を主とされる国際科の生徒達が、リボンタイを切なげに握り締めている。
んなもん知ったこっちゃない健吾と言えば、獅楼の腹に飛び込み、タックルを受け止め損ねた獅楼が声もなく悶え転がるのを無視してヤンキー達の挨拶に応えていた。

「ケンゴさんが普通科に来てくれるなんて…!感激っス!」
「さっきの放送聞いたっス!左席委員おめでとうございますっス!」
「後でうちの総長がお祝いに行くっつってました!」

賑やかな生徒らは大半が年上だが、全く動じない健吾の目はキョロキョロ忙しない。
相棒の姿が見えないのだ。

「あー、うん、悪ィな(∩∇`) お前ン所の総長っつったら、レジストの太一だろ?(*´∀`*)」
「っス!Fクラスになっちまって、随分荒れてたんスけど…」
「わぉ、Fクラス(∀)」
「昨夜の騒ぎでシーザーのお姿を久し振りに見たとかで、総長の機嫌が良いんス」

肩を竦めて体重測定の列に並んだ健吾が、多分それは変装した自分だろうと渇いた笑みを浮かべた。逃走劇の最中、レジストの総長に呼び止められて蹴り逃げた覚えがあるからだ。
昔、一時期口説かれた事があるが、ホモの存在を認めない佑壱は『揶揄われてんだろ』の一点張りで。俊に泣き付いた次の日に、レジストは半壊滅にまで追い込まれたらしい。

恐ろしい総長だ。うちの総長が一番格好良いっしょ、最高っしょ(*/ω\*)

愛羅武総長、床に指で書いたラブレターが総長に届くかしら、と夢見る少女と化した健吾の頭の中に浮かんだのは、黒縁眼鏡。



切なくなった。


「いや、あれでも先月までは最強最高の人だったんじゃぞ…(´`)」
「ケンゴさん?」

ネクタイを外し、ブレザーを脱いだだけで黄色い悲鳴が上がった獅楼が、それに気付かず首を傾げた。ふるふる頭を振った健吾は涙を拭い、『あんなんでも総長』と呟く。

「総長だって、可愛いトコあるんじゃぞ(´`) オムライスに旗立てたり、まっちゃんラーメンの巨大ラーメン1分で完食したり…(´`)」
「ケンゴさん?どうしたの?」
「う、総長ーっ!カムバァァァックっ!Σ( ̄□ ̄ )」

突如叫んだ健吾に皆がぎょっと振り返り、ホールが一気に騒がしくなる。


「副長、まだ一年は来てないみたい」
「あー?何見てんだコラァ」
「煩ぇ、イチイチ突っ掛かってんじゃねぇぞテメー」
「ウエスト、生徒を先導してくれ。混乱を来す」
「ハハ、やーい馬鹿ウエスト、怒られてやんの系〜」

国際科を上回る煌びやかな集団、

「光王子っ、僕と一緒に身長測りましょう?」
「柚子姫、此処は抱かれたいランキング10年連続一位の私が、高坂君の何からナニまで測るべきではありませんかねぇ」
「そんなっ、白百合様が相手なら僕っ、勝てませんっ」
「ふふふ、大丈夫ですよ。貴方も私には到底及びませんが可愛らしい方です。私が高坂君に飽きたらあげますからね」
「黙れ眼鏡、咬み殺すぞ」

進学科二年三年集合、だ。


「出たな淫乱が…」
「何かほざいたか二年坊主」
「テメー、殺意通り越して愛が芽生えんぞコラァ」
「落ち着いて、副長」
「はん、ヘタレが生意気抜かしてんじゃねぇ。テメェの愛なんざ野良犬も喰わんな」
「光王子っ」

北緯に宥められる佑壱、セフレNo.1と名高い柚子姫から抱き付かれる日向、が、火花散る睨み合い、愉快げに眺めていた二葉が戸口を見やり益々笑みを深め、収拾が付かなくなってきた体育館が沈黙した。


「はいはーい、進学科一年御一行ご到着ー。皆の衆、図が高い、控えおろー」
「退け隼人、目障りこの上ない」
「錦織君〜、神崎君を蹴っちゃ駄目ですよぅ」
「カイ庶務、会長をいい加減離しなさい。副会長命令ー」
「断る」
「カイちゃん、体育館に着いたらまず身長測らなきゃ!体操服貰えるんでしょ?」

しーん、と沈黙した体育館に気付かず、一年Sクラスご到着。学級委員長が恥ずかしげに手にした『萌えよ一年Sクラス』と言うペナント、眼鏡を光らせデジカメも光らせる左席会長を殴り付けたチビッ子が、赤縁眼鏡集団に囲まれた。
佑壱や日向所ではない騒ぎっぷりだ。


「天の君、出席番号並びで測定したいんですが、宜しいですか?」
「委員長、僕みたいな地味ウジ虫オタクは最後の方でイイので、皆さん身長だけと言わず何からナニまで測るべきではないかと!」
「俊、お願いだから黙ってて。黙ってたら本当、少しはマシに見えるんだから…」

正統派な眼鏡委員長に涎を垂らすオタクに、気苦労が絶えない太陽の声が掛かる。
体育館入り口には、中央委員会役員が体操服姿で並んでおり、業者から取り寄せた体育科とは少しデザインが違うジャージを纏っていた。敷き詰めた段ボールはそれぞれのサイズを集めたジャージらしく、その隣には制服のオーダーメイドの受付もあるらしい。

「あれ、なーに?」
「あれはねえ、制服の替えとか夏服の注文をするところー。身長と座高だけ測ったらジャージ貰えるんだよお」
「制服の発注は全ての測定を終えてからですが、生徒手帳に記録が残りますので1分も懸かりませんよ」
「僕ぅ、暑がりだから夏服のスペア多めに頼まなきゃいけなぃ〜」
「桜暑がりなんだ。俺は逆に寒がりだから、中間着のベストが欲しくて欲しくて…」

帝君が辞退すると言う事態に、普通科の後ろに並ぶ一年Sクラス一同は、学級委員長を犠牲にした。
普通科は不良が多い為、その後ろに並ぶのは並大抵の事ではない。今も『何だテメェ』と睨まれている委員長は真っ青で、その後ろに並ぶ生徒達も涙目だ。

「はいっ、そこ!そこの不良攻めっ!委員長に告白するならサセキ特製『恋愛祈願ハチマキ』を是非っ。お一つ250円です!」
「隼人君の口説き文句講座、一回5分一万円ですー」
「仕方ありませんね、俺の口説き文句講座は一回1分五千円で良いですよ」
「商売すんな!守銭奴共!」

テクならお任せ、と言うハチマキをネクタイ代わりに締めた隼人と、明朗会計士と言うハチマキを腕に巻いた要、二人から詰め寄られた普通科生徒が青冷め、飛び蹴りした太陽に尊敬の眼差しを注ぐ。

「この駄目犬共が!目を離すとすぐこれか!」
「サブボス、横暴ー。副ってついた人間って何で皆横暴なんだろーねえ」
「左席会費は自力で稼ぐ、と遠野君が仰ったではありませんか。君も普通科相手にテストのヤマ掛けするとか、考えて下さいよ」

出遅れた桜が自作お菓子販売を決意したが、太陽の般若の形相を前に沈黙したらしい。

「ハァハァ、あっちもこっちもイケメンだらけ。ハァハァ、あっちもこっちもチワワだらけ!」
「俊」
「此処はパラダイスじゃア!!!」

手当たり次第の生徒をパパラッチする俊に、低気圧を撒き散らす神威の曇った眼鏡。イケメンフェロモンに引き寄せられていく欲望に忠実なオタクは、一際イケメンフェロモンを放つ集団に飛び込んで硬直した。


「…おい、テメェは俺様に何か恨みがあんのか」
「きゃ!ふ、副会長、ちわにちわ」
「遠野君、私の高坂君の胸に飛び込むとは大変愉快!さぁ、何なら私の胸に飛び込んでいらっしゃい」
「仰せのままにィ!」

イエスマン眼鏡がしゅばっと二葉に抱き付き、周囲から黄色い悲鳴が轟いた。
涎塗れのオタクに抱き付かれた日向のブレザーはテカテカ、柚子姫から無理矢理ブレザーを剥ぎ取られながら、尻尾を振り回す佑壱がジリジリ二葉に近付いていくのを止める。

「何しやがる高坂!離せ、遠野は俺のだ陰険眼鏡ぇえええ!!!」
「負け戦はやめとけ、テメェじゃ二葉には勝てねぇよ」
「っ、の野郎…!ナミオっ、高坂を殴り殺せ!」
「無理だって、副総長」
「東條っ、」
「紅蓮の君、俺はABSOLUTELYだ」
「西指宿ぃ!」
「サブマジェスティ、嵯峨崎の馬鹿はいっそ絞め殺してやって下さい」

クラスメートほぼ全てに見捨てられた佑壱が膝を抱え、二葉から離れた俊が中学時代の自分を重ねてみたのか、涙目で近付いていった。
同じく涙目で近付いてきた健吾と見つめあい、

「嵯峨崎先輩、元気を出してちょーだい。先輩には友達は居ないけど親衛隊が居るにょ」
「そうだよユウさん、ユウさんには友達は居ないけど舎弟が居るじゃろ?(´Д`*)」
「健吾、殺す」
「俺だけ?!Σ( ̄□ ̄;)」

佑壱に絞められた健吾が今にも天に召されそうな時、周囲からこそこそ話す声が聞こえてきたのだ。


「アイツ光王子だけじゃなく白百合や紅蓮の君にまで…」
「幾ら猊下だからって、神帝陛下は何をお考えだろう」
「所詮外部生なのに…!」
「何であんな奴がっ」

一気に臨戦態勢を整えた佑壱と健吾が目を見合わせ、しょぼんと肩を落とす俊を愉快げに見つめる二葉の視界にそれは飛び込んできた。



「黙りなよ、普通科も国際科も」


口汚い生徒達に純白のブレザー、肩を落とす俊に漆黒のシャツ。

「馬鹿が揃うとホント耳障り」
「な、」
「ちっ」
「…っ」
「悔しくても言い返せない?そりゃそうだ、だって俺はSクラスだからねー」

投げつけ上半身裸の太陽が馬鹿にした表情で顎を逸らせば、Sクラスには逆らえない皆が沈黙し、二年三年Sクラスの誰もが目を見開いた。

「俊、年寄りなんか相手してないでこっちおいで」
「君、調子に乗れるのも今の内だけだから」
「ああ、誰かと思ったら昨日はどうも柚子姫様。相変わらず光王子の金魚の何とやら、お疲れ様です」
「お前っ、」
「やめろ柚、相手が悪い」

呆れ果てた日向が間に割り込み、上半身裸の太陽へ拾ったブレザーを叩きつける。よろめきながら受け止めた太陽が咳き込みながらも睨み付ければ、憤怒を隠しもしない柚子姫が僅かにたじろいだ。

「悪かったな副会長閣下、光炎に免じて容赦願えるか。こんな事で尋問会議を開かせたくねぇ」
「こちらこそ会長がお世話になりました?時の名に於いて、今回ばかりは目を瞑りましょう。但し、お忘れなく」

皆に聞こえる様に言ったのだ。
中央委員会に従う事でしか安息を知らない皆へ、だから知らしめる様に。

「クロノスは時の番人、つまり中央委員会ですら羅針盤の上で踊る役者に過ぎない」
「…勿論、だ」
「『高が』中央委員会が、天皇猊下の前で跪きもしないなんて笑わせる。左席が何かもう一度考え直せよ、…全員。」

シャツを抱き締めたまま頼りなげに佇む俊の腕を引き、まるで神に遣える執事の様な聡明さで時の番人は笑った。
『魔王』の息の根をも止めて、


「左席の正義は、蠍の毒を以て帝王院を止める。精々天の怒りを買わない様に、ってねえ」
「ちょ、うわ、神崎っ」
「時を狂わせれば一蓮托生、左席に売った喧嘩はこの錦織要が喜んで三倍で売り払いますから、お忘れなく」

姿を偽った神の興味を、僅かに煽って。


「やれやれ、狂犬ばかりで困る」

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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