帝王院高等学校
飼い主の不手際はワンコの責任?
「おい」
「ふぉ!馬鹿ハヤトっ。髪引っ張んなって、ハゲんだろーが(οдО;)」
「何、企んでんの?」
「─────総長?」
「他に誰が居んだ、猿め」

お前じゃあるまいし、と呟き掛けて、無意識に腹を撫でた。オレンジのベルト、目の前にはイエローのブレスレットがあって。

「幾らボスでも、…杜撰過ぎる」
「一般人の目で見たら、っしょ(∩∇`) 総長の脳味噌は不思議で出来てっかんな('∀'●)」
「何で帝王院なんだ。ちくしょ」

体育館に差し込む陽光を反射させ、キラキラと。


「諦めるしかねェっしょ、…俺なんか昨夜考え過ぎてちょびっと泣いたんじゃぞ(´`)」
「ユウさんが絡んでんなら、」
「安心?」
「どうだか」

酷く静かな横顔を照らして、尽きない問い掛けばかり積み重ねるのだろうか。

「俺は、…初めから信用してない」
「そらそーだ(´`)
  復讐目的だかんな、お前の場合」




あのね。
大好きになったんだ。

本当はね、一目惚れなんか信じてなかったんだけどね。恋の毒は忽ち全身を網羅して、容易く心臓を貫いてしまったんだよ。

愛に変わるのかな。
その内この純粋で綺麗なだけの感情は化学変化して、愛に変わるのかも知れない。


大好きになったんだ。
その真紅に煌めく眼差しを、その陽光を反射させキラキラ輝くブロンドを。

抱き締めて、視界を奪って、鼓膜にこの左胸が刻む脈動だけを聴かせて。


僕は君に跪く皇帝になる。
君だけに従う騎士を演じて、君の左胸を僕の毒で貫いてあげよう。




ああ、愛とは醜いものだね。
感情を殺す事でしか存在意義を見出だせない君も、感情の一切を知らず産み落ちた僕も、




  ─────この世界も。






『約束しよう』
『聞こえているか?』
『満月の夜、此処で待っているよ』
『その時、もう一度誓うから』
『左側には心臓、右側は空っぽだ』
『いつも思っていたんだ』
『右側にも何かを埋める必要があるんじゃないか』
『答えが見つかりそうな気がする』
『壊すのはとても簡単だから、』
『守ろうと思うんだ』


『だから、約束しよう』



『聞こえているかい?』









「おぉおぉ、若者が溢れておる」



双眼鏡を覗き込みながら、満面の笑みで顎を撫でる男は白衣の中からハーブキャンディを取り出し、ぽいっと口に放り込んだ。

「我が兄君が幼き頃言ったのぅ、若さは即ち百の薬にも勝ると」

うんうん頷いた男は活力に満ちた若い美貌に笑みを湛えたまま、曰く『孫』の姿を目で追う。と、見慣れた見事な長身を認め瞬いた。
噛み砕いた砂糖菓子が弾け、ミントの辛味が舌を転がる感覚。


「おぉ?あれは我が神、ルーク=フェイン陛下ではあるまいか?」

不自然過ぎる黒髪、顔を覆い気色悪さを爽やかに演出しない黒縁眼鏡。その腕の中には同じく黒縁眼鏡っ子があり、

「んん?…何と、まぁ、兄君に良う似た恐怖感。誰ぞありゃ」

双眼鏡に付いているボタンを押して、眼鏡っ子の画像を鑑識してみた。

『対象を捕捉、一年Sクラス今季帝君、遠野俊』
「おぉ」

聞き覚えがありすぎる名字だ、と天を見上げ、大袈裟に嘆いてみる。
笑いが止まらない。


「あのー、何してんですかー?」
「ほい?」
「そんな所に居たら危ないですよ?」

呼ばれて木の上から下を覗き、足を滑らせた。下に居た生徒、体育科だろうジャージの皆が悲鳴を上げ、眺めていた体育館の窓から見慣れた男が手を振るのを見たのだ。

「ジジイも木から落ちる、笑うとは酷い子だネイキッド」

呟いてスタッと着地、呆然としている生徒の中、教師が眉間を押さえながら近付いてきた。

「冬月先生、大丈夫ですか?」
「すまんの、はしゃぎ過ぎた様だ」
「頼みますよ。体育科が一番お世話になると思いますから」
「はっはっ、養護教諭が怪我をしては身も蓋もない。心得るよ」

白衣の汚れを叩いてもう一度上を見上げ、皺一つない滑らかな顎に手を当てる。


「然し遠野、か。陛下は面識など無かった筈じゃが…まさかのぉ」

保健室を勝手に陣取っていたFクラスの生徒達に追い出された、とは言わず適当に歩き回りながら、思い出して手を叩いた。

「ああ、学園長が入院していたか。それで知り合ったならば、漸く陛下にも友人が出来たと言う事か」

どうしたものかと首を傾げたのは、先程聞いた学園放送の所為だ。殆どが知り合いだから、笑いが止まらない。

「ファーストに、サード。あの様子では陛下も紛れ込んでいるのだろうが、我が孫達を振り回さんで貰いたいのぅ」

冬月龍人、と刻まれたネームプレートが揺れている。

「兄君がキング陛下を見限った様に、儂もルーク陛下を見限るやも知れんぞ。ほっほっ」

いつもいつでもこの体は自分だけのものだ、と目元に笑みを乗せたまま、



「…其処に居るか兄君、先に逝った裏切り者め」

見上げた空は抜ける様に青い。

「何度名を変えようと何度姿を偽ろうと、我が半身を忘れた日はない」

冬月、と言う偽りのネームプレートを剥ぎ取って、昔から何もしていなくても笑っている様に見える口元を覆った。

「っと、」
「おぉ、悪いな少年」

曲がり角で衝突した生徒を支え、鮮やかな緑に沈黙する。

「すいません、急いでたもんで」
「セントラル、か?」

無意識に呟けば、軽く頭を下げていた長身が凍える眼差しで見上げてきた。
ああ、成程。父親にそっくりだ。

「睨まずとも良いぞ、儂はノアの技術者。師君の父君の同僚だ」
「アンタ、…まさか」
「おぉ、何に感付いたかは知らんが、沈黙は時として金に代わる。…良いか、若造」

怯みもせず睨み付けてきた相手の名は藤倉裕也、何故、神に仕えながら足掻いているのかと薄く笑い、支えていた肩から手を離す。

「儂はただの養護教諭、冬月だ。宜しく頼みますぞ」
「…胸糞悪ぃぜ、相変わらず。あっちは化け物ファクトリーかよ」
「儂の最高傑作は気付いておらんのかね?師君がネルヴァの息子であると」
「気付いてんだろ。…副長はともかく、クライストはオレを知ってるぜ」
「弱ったな。では師君、少し頼まれてくれんか」

怪訝げに睨み付けてきた裕也を僅かに高い位置から見つめ、

「その見た目でその口調は、やめといた方が良いぜ」
「おぉ、そりゃ正論じゃ」
「で、技術開発部っつったら、枢機卿空席の物好き部署だろ?セカンドから聞いた」
「はは、」

鼓膜を撫でる声に目を見開いた子供を見た。


「若い世代に、年寄りは要らないからねえ」

笑いが止まらない。
隠したいのかバラしたいのか、矛盾している。


「頼まれてくれるかね、少年」

包みを一つ、目前の少年に差し出した。中身は自然界にはまず存在しない猛毒だ。
間違えて飲めば、即死は免れない。

「これを落ち零れた前帝君に食わせてくれ」
「何だ、これ」
「何、飲み物か食事に混ぜれば良い。ただの栄養剤だ」
「…」
「信じるか否か。ノアに通じる人間が、未練を残してはならんぞ若造」
「未練だと」
「違うか?」

目を伏せた裕也の手が薬包を奪い、何の感情も滲まない表情で真っ直ぐ射抜いた。


「シンフォニアに感情は不要、…それこそ儂の最高傑作よ」
「虚しくねぇのか、アンタ」
「ほう?」
「いつか捨てる為に作った家族を、他人として眺めるっつーのは」
「さぁ、どうだろうか。長く生き過ぎて、忘れたわ」

興味を失った様に背を向けた子供を緩く眺めたまま、



「気難しい少年だ。
  ネルヴァ卿も苦労するのぅ」


いつか失ったものの重さを、今頃。






「ハヤト?」


ヤンキー座りで落ち込んでいるジャージ姿の佑壱を横目に、感動で涙目の要を宥める桜を見た。

「猿が話し掛けてくんな」
「たまにテメーを殺したくなるんだけど(*´∇`) っと、タイヨウ君?」
「瞬発力は、ありそうだよねえ」

親指の爪を噛んでいた太陽の嫌に黒い横顔にビビれば、残像が残る程の早さですっ飛んでいった太陽の飛び蹴りが、黒髪長身美形の腹に決まっている。
当のオタクを抱いた庶務は微動だにしていない。

「出たな悪の副会長、BLの敵め」
「いつからお前さんまでアキバ系に転身しやがったのかい、ええ?」
「見つめ合うとW強気、可愛いあの子は副会長…皆の人気者。可愛さ余って欲求不満百倍!ついつい苛めてしまう攻めっ、ハァハァ」
「いいかい、カイ庶務。ちょっとデカイからっていい気になるなよ、ちょっとデカイからって」

腐男子を一々相手にしていたら体力が保たない。無視だ。

「189cm70kg、標準値だ」
「羨ましくなんて…羨まし………っ!食らえ理不尽パーンチ!」
「避ける程の事でもない」
「きゃー!」

子猫が戯れる様な光景に、何を想像したのか鼻血を吹いた俊がクネクネダンスを華麗に披露していた。舞い散る鼻血にカルマ一同、滴る涙を禁じえない。
佑壱が居ないのが救いか。

「俊?!鼻から、鼻からーっ!」
「床に散った血液が文字を描いているな。T.M.Revolution」
「テラMOEー!ハァハァ」

仁義なき闘いの最中である太陽と神威が、悶え舞う左席会長に惜しみない拍手だ。
ぽかん、と眺めている皆を余所に真面目な風紀委員達が鼻血を拭いていた。ついでにティッシュをオタクへプレゼント、そのティッシュを神威へそっと手渡す黒縁眼鏡が期待に輝いた。

「ま、枕元にどーぞっ。二人の枕元にどーぞっ」
「俊、俺の枕はクジラ抱き枕だ」
「ちょっと庶務、それって会長の寝室にある奴と同じじゃないかい?」

聞こえない振りをする長身を冷めた目で眺め、いつの間にか黒縁眼鏡を掛けているのに肩を落とした。昨日はまだマシだった様な気もするが、未だ神威を理解出来ない太陽は早々に諦めたらしい。
実際、理解するつもりもないのだ。

「タイヨータイヨータイヨー、あっちはなァに?」

握力計故障騒ぎで賑わう一角を横目に、体育館の窓際に伝う中二階から下ろされたパネルに眼鏡を輝かせる俊が頬を赤らめる。
何故そこで赤くなるのか、と目を細めれば、跳躍力測定中の生徒が腹チラしているのに気付いた。

「…会長、男の子のお腹で喜ぶ変態さんなのかな?」
「ドキドキしませんか副会長」
「俺の心臓は手強いボスを前にした時にしかときめかないんです」
「ゲーム中毒は駄目よ、目が悪くなっちゃうにょ。活字中毒には付ける薬がありません!」

拳を固める俊を冷めた目で眺めたまま、体操服を捲し上げ臍を出した太陽の視界に流血が舞った。
ティッシュを華麗に握り締めた神威が、Mの字に倒れたオタクを介護している。

「サブボスー、眼鏡君どうしたのー?」
「俺の腹がセクシー過ぎた様だねー」
「は?Σ( ̄□ ̄;)」
「イチ先輩達は?」

未だに腐男子が良く判っていない隼人と健吾が近寄ってきて、今にも天に召されそうなオタクとそれを看取るオタク(大)を横目に外へ指を差した。

「二年三年は順次屋外、体力測定に行ってるよー」
「カナメとさくらんぼも、ユウさんに付いてったぞぇ(´`) …ほら、あんま一緒に居たら不味いっしょ?」

案外失礼な健吾を横目で睨み、駆けてきた長身がブレザーを景気良く脱ぐ様を見る。

「藤倉君だ」
「お?ユーヤ、こっちこっち!(*´∇`) オセェ!」
「悪ぃ、電話に手間取ったぜ」
「女にヘラヘラ尻尾振んな、バーカ」
「神崎文化部長、嫉妬と言う名の悪口に聞こえるよー」
「ま、…確かに大変っちゃ大変だもんな(´`)」
「何かあったのかよ?」

声を潜めた健吾の隣で隼人が肩を竦め、太陽が神妙に頷く。手短だが説明を受けた裕也が、眉間を押さえた。

「流石総長だぜ」
「褒めんな」

敢えて姿を現す事で相手の裏を描いたには違いないだろうが、

「あからさま過ぎて、信頼性に欠けるって奴だねー。本人が現れて、且つあんな敵意に満ちた目で俺を睨んだら、」
「うちのボスは唯我独尊だって誰でも判るからねえ」
「しっかし、やり過ぎっしょ(´Д`)=З」

体育館全体が震え、喝采が上がった。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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