帝王院高等学校
Wretched-illust/カラス 様-
クスクス、クスクス
擽る声音には笑みが、鼓膜と同時に耳朶を撫でた。抱き締めたいのに臆病者の手は、虚しく宙を掻いて縋る様に伸びるだけだ。
何て惨めな。
「─────何。」
クスクスと。
それはまるで愛撫する様に、
「何、笑ってんの」
それはまるで掻き抱くよりも的確に、
「いえ、…ただ」
「ただ?」
「惨めなものだ、と。可笑しくなりましてねぇ」
心臓を揺さ振る。
愛の言葉より何より、素直じゃない様で透き通った水晶よりも純粋に、
「幸福、と言う単語に慣れていないので、私は」
「だっさ」
「酷い言い方、」
囁く唇を塞いでやった。
ほら、驚愕に見開かれた左眼が愛しくてならないのだと、
「…惨めなもの、ですね」
「ぅ、っん」
勝ち誇った様に笑う所で、臆病者の虚勢張った主導権が長く続く事はないのに。
「身に余る過度の幸福に、…狂ってしまいそうな私は」
貪る舌がクスクスと。
喉を灼いて心臓を貫き脳を痺れさせた。
「俺のものを勝手に罵んな」
「ああ、すみません。私は私のものではなく、貴方のものでした」
「でも、ほんと、だっさ」
例えば、惨めに思うのは理性。
例えば、惨めに思うのは愛し合う二人が個々の別固体だからだ。
「まだ狂ってなかった訳?」
心臓を貫き脳を痺れさせ鼓膜も網膜も灼いて、魂だけが混じり合えば。
抱く不安要素すら混じり合って小さな個体になってしまえば、例えば爪先から毛先まで余す所なく一つだったら。
「俺なんかもう、爪先から毛先まで残らず狂ってんのにね」
惨めに縋る必要も言葉を奪う為に口付ける必要も、ないのにね。
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