帝王院高等学校
口は災いとセクハラの元でございます
「サセキ会長命令ですっ、そこのイケメンに天の裁きを!」
「俊、ちょっと楽しんでるよねー」

響き渡った凄まじい声音でレストランは沈黙に包まれていた。太陽を除いて。
クネっとクネった眼鏡からビシッと指を突き付けられた長身が、ゆらりと揃って立ち上がる。



「面映ゆい」
「あは」

片や妖しく煌めく眼鏡を押し上げ、片やボリボリ襟足を掻きながら、

「命令ならば致し方あるまい。俺は所詮しがない左席庶務、全ては天皇猊下の御意のままに」
「命令ってゾクゾクするよねえ。会長なんか何人も要らないしー、いっそコイツも神帝もコテンパンにしちゃえー」

押し上げた眼鏡を僅かにズラした美形と、死んだ魚の眼でヘラリと笑う美形義弟に西指宿の表情から血の気が引く。

「覚悟は良いかウエスト会長、浮気性攻めに幸福終話は不似合いだ。左席庶務として取り締まらせて貰う」
「隼人君よりよい男なんか存在しないの。とゆー訳で、イケメン偽装の罪で逮捕死刑に処するー」

どうなっているんだろう。
あの天真爛漫な隼人は勿論、唯我独尊である筈の神威が他人に従うだなんて。


「ふ、流石は左席の犬、いやイケメン戦士。カイ庶務、モテ警視総監。チミ達の善戦を期待してるにょ」
「「イェッサーボス」」
「勝ったら安部河会計候補より桜餅をプレゼントされます!頑張るにょ!」

沈黙した神威と隼人が何処か遠い目をした。

「えっとぉ、じゃ、お二人共お手伝いして下さるんですかぁ?」
「勿論だ安部河会計候補」
「まあ、やるってゆった手前、今更だもんねえ」
「じゃ、カイさんと星河の君もゲーム機持って下さぁい。ルールはご存知ですかぁ?」
「案ずるな安部河桜、この俺に不可能はない」
「花札と麻雀は昔カルマでブームだったんだよお、3日くらい」
「カイ君、携帯凝視してるトコ悪いけどルール知らんとか言ったり?神崎君、3日をブームとは言わないんやないか〜い」

律儀に突っ込む太陽を余所に、一回戦の幕が上がる。

「あ、始まった」
「只今熱戦の火蓋が切って落とされました!熱戦を制覇し、真の賞品タイヨー副会長を手にするのは一体誰なのかっ!眼鏡が離せない戦いとなるでしょう!解説は山田太陽、中継は遠野俊、提供はサセキ委員会でお送りしますっ」
「俊、煩い」
「しー、するにょ」

怒られて人差し指を唇に当てる主人公、黙ってしまえば存在感がない。
暫し見守っていた太陽と俊は、徐々に青冷めていく桜、眼鏡を曇らせる神威、笑顔のまま固まる隼人を見るに連れ沈黙していった。

「どうなってんだろ…」
「リーダーさんの方からロンロン聞こえるにょ」
「ロンって言うのは相手の捨てた牌を貰って役を作った時のコトなんだけど、」
「あっ、今カイちゃんの方からホモって聞こえたにょ!」
「ツモだっつーの。自分の番に回ってきた牌で上がるとツモになるの」
「はっ、今桜餅の方からポンって聞こえたにょ!」

緊迫した太陽の隣で騒がしいオタクに肩を叩かれ、律儀に教えてやる太陽はA型だ。普段ストレスを溜めているので、キレたら執拗い。ある意味公務員タイプとも言う。
酒癖が悪そうだ。

「同じ牌を2つ揃えた状態で誰かが捨てた牌がそれと同じ牌の場合、ポン鳴きして3つ揃える事が出来るんだよー」
「ほうほう」
「因みに自分の前後の相手の捨てた牌で、数牌を順番に3つ揃えた場合はチー。
  どの道、皆に牌を公開する必要があるからあんまり鳴かない方が無難だね」
受けも鳴かずば攻められまい。昔から言います、鳴かぬなら鳴かせてみよう強気浮け」
「ごめん、どう突っ込んで良いか判らない」
「タイヨーには突っ込まれて欲しいんです。是非とも美形でちょっと意地悪で実は溺愛な攻めと、ありとあらゆるラブを展開して欲しいんです。まずはチューして下さい、イケメンと」
「どこに辿り着かせるつもりかなー…」
「タイヨーのエッチ!」

煌びやかなBL小説をそっと差し出してくる眼鏡を無言で見つめ、満面の笑みでゲーム機をテーブルに叩きつけた西指宿がネクタイを緩める姿に目を向けた。


「桜ちゃん、─────ロン」
「ぁ」
「役満、国士無双。6万点越え、終了だ」

愕然と肩を落とした桜を余所に、眼鏡を押し上げた神威がゲーム機から手を離し、面白くなさげな隼人もそれに続く。
どうやら西指宿が勝ったらしい。

「ちぇ、隼人君が折角途中までアイツの点数減らしてやってたのにー」
「ご、ごめんなさぃ」
「今回は牌の回りが悪かった。そなただけの所為ではない」
「カイさん…」
「あーあ、さっき桜ちゃんから3000点ブン取った奴の台詞かよ。あれさえなきゃ、とっくに俺が上がってたっつーの」

どうやら麻雀初心者の神威が間違って桜の捨てた牌で上がったらしいが、そのお陰で大きな役を逃したらしい西指宿が揶揄めいた眼差しを神威に注いだ。

「揃いも揃った四暗刻、滅多に出ねぇんだけどな」

十中八九、西指宿の手牌を読んでいた神威が邪魔したからだ。然し一対一ならまだしも、邪魔が二人も居ればそうはいかない。

「あーあ、隼人君だって今の数え役満だったんだよお。ドラ3清一色の三暗刻ー」
「マジかよ!うぉ、危ない危ない、万一ツモ上がりされてたら一気にお前が1位だったな神崎」
「まーねー、麻雀は頭脳ゲームだしー」

隼人の手放したゲームを覗き込んだ西指宿が我が事の様に表情を明るくし、逃げ場がなくなった太陽が桜を宥めながらも青い表情で機械を掴む。


「ふむふむ、麻雀さんは頭がイイ人しか出来ないなりね」

麻雀のルールを知らない主人公は、何ともなく神威が手放したゲーム機械を掴み、太陽の袖を引っ張った。

「タイヨータイヨー、カイちゃんの玉しかないにょ。皆のは漢字だらけなのに、カイちゃんだけ丸い牌しかないにょ。苛め?」
「んー?あ、本当だ。えっと、イーピン3つに…はぁ?清一色、一気通貫にドラ有り?うわっ、惜しかったなーカイ君っ」
「えー、どれどれー?」
「あの牌回りでンな高得点弾き出すつもりだったんか、」

驚く太陽を弾き飛ばした隼人と西指宿が俊の手元を覗き込み、同時に沈黙した。負けた原因である桜が肩を落としながらもチラっと覗き込み、目を丸くさせて立ち上がる。

「カカカカイさんっ、こ、これっ、九蓮宝燈じゃないですかぁ!」
「え?あっ、本当だ!気付かなかった!」
「あにょ、ちゅーれん、なァに?ちんいーそーって、なァに?」

皆の表情に全く付いていけない俊がキョロキョロ皆を見渡し、誰一人答えてくれない事に肩を落とした。

「大丈夫です、シカトは慣れてます、めそり」
「俊」
「カイちゃん、抱っこ」

然し忍び寄る神威に素早く抱き付き、ボサボサ頭を撫で撫で。イチャイチャしている様にしか見えず、メガネーズの黄色い声と何とも言えない周囲の視線が注がれた。

「あの眼鏡誰…」
「あっちは天皇猊下だろ」
「何であんな奴があのテーブルに…一年にあんな奴が居たか?」
「あれ、もしかして灰皇院君じゃないか?」
「まさか。彼は美しい人だった筈だよ」
「何であんな気色悪い同士…」

オタクが美形と絡むのもアレだが、オタク同士の絡みを見るのもアレらしい。


「ああっ、天の君を抱っこするなんて羨ましいのさ灰皇院君っ!」
「ああっ、天の君を独り占めなんて羨ましさに眼鏡が曇るのさ!」
「コーヒーのお代わり、冷めてしまうよ二人共」


難しいお年頃。


「カイちゃん、擽ったいにょ」
「少しは俺も構え」
「甘えん坊さんね」
「あほか!」

耳の裏に擦り寄ってくる高い鼻先に擽ったさを感じながら悶えていると、椅子に立ち上がった太陽が恐ろしい形相で神威の頭を叩いた。

「朝っぱらからセクハラはやめんかっ」
「タイヨータイヨータイヨー、カイちゃんが死んじゃうにょ!」

然も俊がそっと差し出してた分厚いBL小説の束で、だ。

「うぇ、ふぇ、カイちゃん僕を残して死んだらめーにょ!」
「無傷だ。俊、俺を構い倒せ」
「まだ抜かすか!」
「きゃー!」

その衝撃を想像した俊が涙目で神威の頭を撫で回し、同情した桜がオロオロ、ケラケラ笑う隼人が手を叩き、青冷めていく西指宿は無意識に太陽の腰を抱き寄せて殴られた。

「寧ろ死刑。このセクハラ男が!」
「駄目ぇえええっ、叩くなら僕を叩いてぇえええ!!!ハァハァ」

暴力反対と涙で濡れ曇る眼鏡で叫ぶ俊を横目に、殴られても罵られても微動だにしないボサボサ頭は怪しく曇る眼鏡を押し上げ、


「成程、これが世に言う妻の責務だな。夫の不徳は妻の不徳、身を挺して俺を庇うとは…大変愛らしいぞ、俊」
「ふぇ?よちよち、泣かなかったなんて偉いにょカイちゃん」

無表情だが何処かご満悦そうな神威に桜のきゃっと言う黄色い悲鳴、純愛小説をこよなく愛する桜の手元にはBL小説が手始めに三冊積み上がっている。


危険だ。


「拙い愛撫がとみにいじらしい」
「拙いライブ?カイちゃんお歌あんまり上手くないにょ?お歌は発声練習が大切なり」

息を吸い込んだオタクが腹を押さえ、



「ほげー」


素晴らしく破壊力抜群な歌声を披露した。

「「………は?」」
「あは、カナメちゃんが居なくてよかったのかもー」
「俊…」

桜と西指宿がピタリと動きを止め、神威が首を傾げ太陽が生暖かい目で満足げな俊を見る。

「こうやってお腹から出すなり。カイちゃん、お腹からお声を出したら気持ちいにょ」
「面映ゆい」
「カラオケで恥ずかしい目に遭わない様に練習するにょ」
「ほう」

グリグリ頭を擦り付けてくるデカイワンコに、仕方ないわねと呟きながら満足げな俊がグリグリ撫でまくる。
胃を押さえた太陽の肩がプルプル震えていた。

「うちの父ちゃんみたいに演歌ばっか歌っちゃ、めー。アニソンも大切にょ、よちよち」
「アニソンとは何だ」
「アニメソングの略だよー、セクハラ庶務!」

太陽の拳骨が神威の頭に落ちる。
俊の眼鏡に亀裂が走り、桜が顔を両手で覆った。ガツン、と小気味良い音がした割に痛そうなのは太陽の方だ。

「ぐ」
「因果応報だ、ヒロアーキ副会長。副会長が罪無きか弱い生徒を暴力で捻伏せるとは痛ましい」
「タイヨーちゃん、お母さんを叩いたらめーでしょ」
「誰がか弱いって?俊、カイ庶務を甘やかすな。そしてこんなデカイ母親要らない胃潰瘍になる」
「お父さんは悲しいなり。どうせならお父さんをぱちんしなさい。ささ、どーぞ遠慮なく!」
「変態親父は間に合ってます」
「タイヨーのパパさんのお写真下さいっ」
「何でいきなり!」
「出来ればスーツ姿3点、内一点は必ずバック確認中の運転席の姿を!」
「マニアック過ぎる!」

雷に打たれた表情で後退った太陽を余所に、ニマニマ笑う隼人と運転中のパントマイムを始めた神威の煌めく眼鏡が向けられた。
肩越しに背後を見やるエア運転手はどうやら、エアバック運転中らしい。


「無駄にうまいね、カイ庶務。君、もしかして結構悪いコトやってんじゃないかい?」
「もう、気が早過ぎるなりょ。運転は18歳になってからでしょ」
「………成程、道理だ」
「そしてバックは騎乗位に飽きてからにょ、カイちゃん」


エアバッグは必ず装備しよう。

←いやん(*)(#)ばかん→
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