帝王院高等学校
神様は俺らを見放したのかい
どうやら見た目や得意な菓子作りの様に甘くない様だと、

「はぁい、提案がありまーすぅ」
「どした、桜ちゃん」
「王呀の君はぁ、昨日僕を手籠めにするぉつもりでしたよねぇ?」
「う。根に持つなよ、ただの冗談だろ。大体桜ちゃんの方が俺に近付いてきたんじゃねーか」

痛い過去を突かれた西指宿に、うわあ最低ーと言う隼人の面白がっている声とオタクの刺々しい視線が注がれた。
ふんわり笑った桜と言えば未だ蒼白の太陽を宥めながら、西指宿の手にある小さな機械から伸びたコードを掬い取る。

「ぅちの副会長と手合わせしたくばぁ、僕を倒してからにして下さぁい」

ビシッとふくよかな人差し指を突き立て、オタクのフラッシュと隼人の適当な拍手を一身に受けたぷに受け。
ぱちくり、瞬きした西指宿が息を吐き、

「複数戦か。…ま、結果は一緒だわな。良いぜ、どうせなら3対1嵐の東風戦にすっか」
「3対1って事はぁ、僕以外に二人…ですよねぇ?勿論、王呀の君が一人」
「俺のギャンブルテク、知ってんだろ?桜ちゃん」

ぷくっと頬を膨らませた桜がタイムと可愛らしく宣言し、先程から雑談中の俊達を振り返る。

「まっちゃんラーメンが好きです」
「ふむ、松原ラーメンか。全国に支店がある」
「あー、あそこ美味しーよねえ。ラーメンはやっぱとんこつだよー、ギットギトでベッタベタ」
「特盛りチャーシュー麺セットが大好きです!じゅるり。カイちゃんは?」
「今の所、ポテチはコンソメ味が良い」

怪しく曇った眼鏡に見つめられ…いや、恐らく睨まれながらも笑みを絶やさない有名人の鑑を横目に、巨大コーラフロート(特注)を貪る俊に脱力。

「ワラショクの高級明太子680円を大人買いするのが夢です。マイホームににゃんこ飼うのも夢です、にゃんこのお名前はタラコちゃん」
「牛乳にオレオ浸すよりさー、ミルクティーで練ったクッキーをコーヒー牛乳に浸して食べた方が絶対おいしーよねえ」
「明太子とタラコの相違点は素材だ。辛子明太子には赤唐辛子を用いる」

話が噛み合っていない三人を生温い目で見つめつつ、

「神崎君は味覚音痴の気配を感じるよ」
「隼人君は美食家でーす。失礼な21番君、胴体真っ二つにされてーのかあ。益々おチビになってみー」
「えげつない事を言わないでくれないかい………誰がチビだと?」

先程まで顔色が悪かった太陽も、オタクの食欲と味覚音痴疑惑者との食べ物談義に気が逸れた様だ。俊が半分勝手に味見したらしい抹茶パフェを齧りながら、桜を一瞥し、

「俺は麻雀のルール大体知ってるけど、桜は?」
「ばっちりだよぅ。あんまり強くはなぃけどぉ」
「はいはいっ!脱衣麻雀ならやった事ありますっ!因みに18禁パソコンゲームBL版!」
「「脱衣…」」
「因みにボロ負けしましたが後悔してませんにょ!」

ゲーム相手にパンツ一丁まで追い詰められた過去を持つとは思えないほど晴れやかに宣う俊を、にこやかに見つめた男と言えば、

「今度それ、二人っきりの時にやろーねえ、オタ眼鏡君」
「ふぇ?」
「俊、これは不良攻めの誘惑だ。見るな話をするな俺を構え」
「ふぇ?」
「黙れ草食やろー。男は黙って肉食系」
「ふ、雑食の間違いではないのか神崎隼人」

オタクを挟んで一触即発、キョロキョロ左右を見やる黒縁眼鏡が無駄に輝いているのを見た太陽と桜は、隼人と神威の協力はまず得られないだろうと揃って肩を落とした。

「言っても運任せってトコあるし、俺と桜だけで良いんじゃない?下手に仲間同志の潰し合いとかなってもアレだし」
「でも太陽君、王呀の君は本当に博打運があるんだよぅ?僕ぅ、初等科の時から知り合いだったからぁ」
「あー、幼馴染み関係?王呀の君と清廉の君は仲良しだし」
「まぁ、ね」

口籠もった桜の横腹を擽った太陽が未だにキョロキョロしている俊を手招き、逆らう事を知らないオタクがしゅばっと立ち上がる。

「なァに、僕も仲間に入れなさい!」
「カイチョー、副会長の貞操の危機です。戦って下さいなー」
「勿論ですァ!」

燃えたぎる眼鏡がギラリと怪しい光を宿し、キッと西指宿を睨む。余裕綽々な西指宿が片手をフリフリ、その態度に微笑む桜と無表情な太陽のボルテージが上がった。

「ぁはは、…余裕だなぁ」
「俺がもし大統領か裁判官だったら、躊躇いなく死刑にしてる」
「じゃ、麻雀のルール調べるにょ」
「「─────え?」」

携帯でポチポチしている俊を凝視、痙き攣る太陽の隣で桜が青冷めていった。

「ヤフーもイイけどググるにょ。ググる方が早い時があるなり…あっ、今チワワが見えた!あっちこっちに俺様攻めの気配!ハァハァ」

首を傾げたり唸ったりしている俊は携帯を見つめながら、視界によぎった可愛い生徒や格好良い生徒に逐一ハァハァしている。

「桜…天は、いや、神は俺らを見放したのかい」
「天の君はネット検索中、陛下は会議中らしぃねぇ」
「準備出来たか?待ちくたびれたぞ」

急かす西指宿の勝利の笑みに肩を落とした二人が恐る恐る携帯ゲームを手に取り、いよいよゲーム開始のゴングが鳴ると言う瞬間、

「漢字だらけで眩暈がするなりん。カイちゃん、ご褒美あげるからタイヨーを守って欲し〜にょ」
「褒美?」
「ねえねえ、隼人君は麻雀じょーずだよお。あのねえ、神経衰弱はカナメちゃんのが強いけどお」

褒美の言葉で目の色が変わる二人。

「モテキングさん、カイちゃん。あそこのイケメン倒して欲しいにょ。さっきからチワワ達が睨んで来るにょ、このオタクを!
  タイヨーや桜餅ならまだしもっ、このオタクめをっ!見つめる事はあっても見つめられない腐街道っ、いつからオタクブームですかァ!」

叫ぶオタクがテーブルをぱちんと殴り付け、眼鏡を怪しく曇らせた神威と死んだ魚の眼で周囲を一瞥した隼人によって、隼人や西指宿のシンパ達の殺意視線が弱まる。

「左席会長なんだから目立って当然」
「Sクラスってだけでも、目立つからねぇ」

気付いていたが無視していたらしい桜や太陽は呆れ混じり、見られ慣れていない外部生を宥めた。

「で、決まったんか?」
「リーダーさん、タイヨーはボスなのでまずは先鋒桜餅、次鋒モテキングさん、副将カイちゃんがお相手致します」
「えー、やだー。めんどー」
「何故俺が山田太陽の為に動かねばならん」
「お黙りなさいイケメン共!悔しくないのですかっ、むざむざ浮気攻めにタイヨーを奪われて!」
「「悔しくない」」

ハモった神威と隼人にギラリと光る眼鏡を押し上げたオタク、いや、左席会長は叫んだ。



「サセキ会長命令です!
  自治会長をコテンパンになさい!」



煌めく眼鏡から放たれる威圧感は、メガネーズの黄色い悲鳴を呼んだとか何とか。














すやすや眠っているらしい佑壱を横目に、何杯目かのボトルを開けたカルマ幹部1の酒豪である要が腕時計に目を落とす。


「8時半を回りました」

母親が一時期ハマっていたクロスワードパズルの懸賞で当たったカルバン・クラインの腕時計は、俊が要の誕生日にプレゼントしたものだ。ぶっちゃけ、個人投資家として華々しく稼いでいる要にはただの安物でしかない。
俊から貰った、と言う所に価値があるのだ。

「まだ起きる気配はねーな」
「最近寝てなさげだったもんなぁ、副長(´`)」

と豪語する要を余所に、酒豪揃いのカルマで最も酒に弱い健吾がだらしなくボタン全開のシャツから臍とベルトを丸出しにした風体で、今にも寝てしまいそうな裕也の膝に頭を転がせた。

「こっちこそ、今頃眠たくなって来たっしょ(-_-)」
「つか、今日も遅刻だぜ」
「授業なんざ受けなくてもどーせ同点1位だし?つか、あー、何で降格しちまったんだろorz」
「そう言えば、良くもまぁ、そんな馬鹿げた事をやらかしましたね」

ゴロゴロ頬擦りしてくるオレンジ頭を適当に撫でてやりながら、呆れ顔の要を横目に肩を竦める。
基本的に幼馴染み同士である健吾と裕也は仲が良い。自由奔放な健吾に振り回される裕也、と言う見解がカルマの認識だが、一度だけ俊は違う意見を口にした事がある。

「単位取んの面倒だっつったの、テメーだろ」
「だってさぁ、赤点取っても留年してもカルマ追放だぞぇ?(´`) 副長め、自分を基準にしくさって(Тωヽ)」
「そんな理由ですか。通りで、卒業前の課題を未提出で逃げた訳ですね」
「だって、降格確定してたんだもんよ(∀) テストきっちり赤点ラインで自己採点したかんな(´∀`)」
「貴方もですか、ユーヤ」
「あー、」
「言い出しっぺ、ユーヤ。俺ゃ単位取んの面倒としか言ってねぇもん(´`)」

目を見開いた要の訝しげな表情に、大して表情が変わらない裕也が面倒臭げに息を吐く。

「相変わらず行動派だ。いつか総長が仰いましたね、ユーヤは『悪戯っ子』だと」
「そーそー、コイツに付き合わされていつも怒られんのは俺(Тωヽ) 見た目で判断する大人なんか嫌いじゃい」
「何もかんも、面倒だっただけだ」
「判り難い反抗だ。成程、ハヤトやユウさんみたいに周囲に迷惑を掛ける暴れ方ではないだけマシですが」
「カナメちゃんだって、不眠症再発してた癖に」
「…俺の場合はね、慢性的なものですから」

曖昧な表情で呟いた要に、裕也の腹筋に頬擦りしていた健吾が猫の様な大きな瞳を眇めた。

「お袋さんの事、まだ恨んでんの?」

初等部入学から、飛び抜けて頭が良かった要は有名だったのだが、周囲に人を寄せ付けず全てを排除していた様に思う。

「居なくなった人間をいつまでも恨んでどうしますか。生憎、施設暮らしは四歳まででしたからね。殆ど覚えていません」
「ふーん(´`)」

比較的愛想が良かった健吾が執拗に張り付いて、半ば要が根負けした様な形で三人の仲は発展したのだ。

「両親の顔を知らない人間など、幾らでも存在しますよ」
「確かに、うちも親なんか居て居ない様なもんだし(´`)」
「うちは父子家庭だしな、母親の顔なんざ忘れた」
「そっか、ユーヤの親父さんも結構良い年だったな、そう言や」

口数の少ない裕也、騒がしい健吾、それを纏める要、に隼人が加わったのは極最近。一年御三家は数年前まで要と裕也に健吾だった。

「知らない方が良い場合もあるっちゃあるしな、うちみたいに(*´∇`)」
「同情しねーぜ、面倒だろ」
「そんなものを、この俺が求めているとでも?」
「ちっとも(´`)」
「思わねーな」

満足げに頷いた要の背後で、陽気なメロディーが流れた。
流行のロックだが、聞き覚えが有り過ぎる。携帯同様着信音も変えまくる佑壱が、『総長』専用で登録している着うただ。

3年前に俊とお揃いの携帯に替えてから、以降一切機種変していない佑壱はデコを変える事で気を紛らわしている。小さなビーズやらラインストーンを買い漁って、月に二回はリフォームだ。
だからそんな佑壱が付き合う女を変える度に面倒回避で番号やアドレスを変更しても、聞かない限り変更連絡が届く事はまずない。恐らく俊には毎回送っているのだろうが、右腕である筈の要にすら教えない徹底振り。
人間不信とは良く言ったものだが、面倒見が良い様でその実『他人に無興味』な佑壱がカルマメンバーを可愛がるのは、従う者には優しく、逆らう相手は潰すだけ、と割り切っているからだろう。実際、俊が加わる以前総長だった佑壱は、裏切った仲間には容赦無かった。

「な、長いぜ」
「どうしますか、メールか着信か…どちらにしても、」
「緊急召集だったら、俺らにも連絡ある…訳ゃないか(´`)」

第一印象が悪過ぎた要や健吾、裕也に俊から個人的な連絡が来る事は少ない。出会った時から俊に懐いている佑壱にはテレビ電話までするそうだが、それ以外の舎弟には大半が一斉送信だ。
着うたが鳴り止んだ瞬間、揃って安堵の息を零した三人は、然しベッドからガバッと伸びた筋肉質な腕を認めて飛び上がる。

「…何処だ、此処」

低い低い地を這う声。
のっそり起き上がった男が長い髪を掻き乱し、今にも人が殺せそうな形相で携帯を見つめた。
三人は硬直し声もない。



「ブッ殺してぇ」


ああ、神よ。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!