帝王院高等学校
メガネーズは見た!金髪美形兄弟戦争
DEAR 可愛いイエローハスキー


さァ、再会の時間だ。
どちらが先に見付けるか競争しよう。もう君を見付けてしまったけれど、君は気付いてくれるだろうか。
いつも君を見ているよ。いつも傍に居るよ。だから笑っておいで。

どうしてだろう。
君達の幸せを願っていた筈なのに。いつまでも狭い世界に縛り付けないで自由にしてあげたかったのに。
道化師だ。君の瞳から光を奪ったのは誰?

焦る必要はない。
私はいつも君の前に居るよ。それが君の望みなら、いつまでも。縛り付けた右手を離さないと誓おう。


さァ、見付けてごらん。




私の可愛いハウンドドッグ。








「ボスのバーカ」


昨日届いていたメールに気付いたのは、懲罰室でだった。恐らく捕まっていた時に着信したものだろうが、だったらタイムリミットには間に合った事になる。

「殺したいくらい大好きなボス、食べちゃおうかなあ」

一度だけ笑って、日向が出ていった扉とは反対方向の窓を見やった。難儀なものだ。
真下に並木道、西棟の最上階。飛び降りるには大分高い。佑壱ならば東京タワーからでも紐無しバンジーするだろうが、生憎ただの人間にそれを真似出来たら自殺方法ベスト10には入らないだろう。

「お腹すいた。ハンバーガーじゃ足んないよねえ、うん、足んない」

成長期だから、と鼻歌いながら窓枠に足を掛ける。下で見ていた誰かが悲鳴を上げた。
桜に紛れた銀杏の木、飛び降りるのと同時に掴んで。寮の壁を走る排水パイプに手を伸ばす。

後はするすると滑り降りるだけだ。


「ん?」

滑り降りている途中、一面硝子張りフロアに見知った顔を見た。
帝王院では逆に珍しい黒髪三人組が、レストフロアの端で視線を集めている。

「おーい、開けてえ、隼人君飢え死にしちゃうよー」
「え?は?星河の君?!」
「開けてえ、開ーけーてー、ぶっ殺されてーのかー」
「は、はいっ、ただいまっ!」

恐らく二年生だろう生徒が開けてくれた窓から食堂に入り、チラホラ注がれる視線を横目に愛想笑い一つ。


カルマ教訓その参
  挨拶と有難うは笑顔で言うべし。


「ありがと、脇役上級生ー」
「え?は?あっ、はいっ」
「気が向いたら抱いたげるからねえ」

頬を赤く染めた他人にはもう興味が無い。ひらひら手を振りながら適当な礼を述べて、真っ直ぐ最奥の席に向かった。

「あ、神崎君」

目が合った黒髪の男が痙き攣る。こちらからは旋毛しか見えない寝癖だらけの黒髪を掴み、その隣に腰掛けるもう一人の黒髪を覗き込んだ。

「おはよー、ルーク=フェイン」
「ふぇ?!はふん、モテキングさんのお顔が間近にーっ!ハァハァ」
「あれえ?何だ、眼鏡君じゃんかー。きもい」
「ちょ、カイ君から手を離してよ、神崎君ー」

椅子の上で正座している俊に眉を寄せ、今掴んでいる頭を覗き込んだ。

「何だこいつー」

ボサボサ黒髪に、シャープな眼鏡。無表情そうな唇、昨日見た時は銀色だった筈の髪を引っ張る。

「劇的ビフォーアフター?きもさに拍車掛かってるよお」
「やめろって!」

緑茶を啜っていた太陽が立ち上がった。

「おかしーな、昨日こいつはさあ、会長だったんだよお。あのねえ、こいつが隼人君を誘拐したんだー」
「ふぇ?」
「はぁ?」

満面の笑みを浮かべる隼人を前に、馬鹿にした様な太陽の塩っぱい顔。頭を掴まれている本人は微動だにしない。
オタクだけが眼鏡を曇らせてオロオロしているではないか。

「神崎君、頭大丈夫かい?二位落ちしたからって自暴自棄になっちゃいけないよ」
「21番君、どうやったらそんなビミョーな位置にしがみつけるのかなあ」

ぐうの音もない太陽をニコニコ見やる隼人に悪気はない。無邪気過ぎる笑顔で直球ストレートな本音を吐くから問題なのだ。
神威のカツラが取れやしないかと気が気じゃない太陽が俊へアイコンタクト、テレパシー技術など皆無なオタクも珍しく空気を読んだらしい。
隼人の手をぎゅむっと掴み、もう一方の手に握り締めた携帯をフラッシュさせつつ、

「違いますにょ、それはただのカイちゃんです。昨日は僕がお願いして、王様コスをして貰っただけでございます」
「眩し。フラッシュ禁止ー、それ売り払ってお小遣い稼ぎしたら殺すからねー」

ピースサインやらファックサインやらを大盤振る舞いする隼人を眺め塩っぱい顔をしている太陽の逆隣、丸テーブルの4脚目の椅子は俊の隣でもある。

「きゃっ、星河の君がっ?!」
「アイツ天皇だからって…!」
「他の二人は誰?!」
「何であんな地味な奴等が!」
「天皇猊下、素敵ですっ」
「星河の君、昨日大丈夫だったみたいだね」

反応は様々だ。
空き椅子2つ挟んで太陽と神威、神威の隣が俊。そのまた隣に何の断りもなく割り込む長身に、周囲がざわざわ騒がしくなった。

「おー様コスって、なーに」
「会長コスプレでございます」
「それ、楽しーの?」
「モテキングさんには副会長コスとか王子様コスとか俺様コスとかがお似合いではないかと!」
「ふーん」
「くんくんふんふん、ハンバーガーのカホリがします」

無駄に近付きながら覗き込んでくる隼人にビトっと張り付き、先程太陽にもしたセクハラをカマすオタクは怖いもの知らず。
きゃー、ぎゃー、騒がしいレストフロアには羨望やら嫉妬やらが入り乱れ、その片隅に眼鏡集団の姿があった。

「ああっ、今日も昨日も天の君は麗しい方々に囲まれてる!」
「一人例外が居るみたいだけどね、武蔵野、何を描いているんだい?」

絆創膏や包帯だらけの3人は夜通し帝君部屋に張り付き、神帝親衛隊に紛れリフォームを手伝った。
そのままレストフロアで夜明けのコーヒーに洒落込み、俊の登場で何やらハイテンションらしい。いつ挨拶に行こうかタイミングを見計らっていたら、隼人の登場で機会を無くしたのだ。

「燃えたぎる創作意欲が止まらないんだ」
「なに、それは素晴らしい事さ。流石、中等部三年間選択美術学年1位だよ」

彼ら、天皇親衛隊(未公認)メガネーズ。隊員三名、隊長は今の所じゃんけんで決着が付かず二人、一人は金持ちのボンボンだが空気が読めないイケメン溝江(みぞえ)。一人は没落気味の華族旧家育ち、クールな美人顔だがやはり空気が読めない宰庄司(さいしょうじ)。
最後に元から眼鏡を掛けている絵描き武蔵野、この三名の中では最も目立たない。桜と同じ様なクルクル天然猫っ毛と眼鏡が顔の大部分を隠し、表情豊かなのは絶えず動きまくる右手だけだ。

「然し、まさか灰皇院君が神帝陛下のファンだったとは…」
「世の中判らないものさ。陛下はアメリカ分校とイギリス分校を経由なされて本校に参られたと言うし、」
「惜しむらくは短髪さ。陛下のお髪は長い」
「真のファンは全てを真似てこそファンさ」

スケッチブックにガリガリ何かを書きまくる紫縁眼鏡の隣、揃いの赤縁眼鏡を掛けた二人がこそこそ囁き合う。

「思うに、彼も天の君をお慕いしているのではないかな宰庄司副隊長」
「隊長と呼んでも構わないさ溝江副隊長。然しイギリスに灰皇院と言う企業も富豪も存在しない」
「天の君には然るべき相手でないと駄目なのさ。そう!白百合閣下以上の、この僕さえ霞む美形又は優等生!」

溝江君はナルシストらしい。

「高野君と藤倉君が居なくなって僕らは同点4位。紅蓮の君も天の君をお慕いしている様だけど、嵯峨崎財閥と言えば古いだけの新参企業さ!やはり此処は加賀城財閥すら霞むお金持ち!」

宰庄司君は家柄に煩い。

「溝江君、宰庄司君。それだと東雲財閥か帝王院財閥くらいしか残らないんじゃないか?」
「東雲財閥と言えば紫水の君さ。僕さえ霞む男前、それも元中央委員会長!」
「帝王院財閥と言えば神帝陛下さ。神帝陛下なら文句の付け所がないのさ!」
「「ああっ、お慕いしております天の君!」」

どうやら神威が神帝だとは気付いていないらしい。彼らの視線の先、隼人に眼鏡を奪われそうな俊、の、隣。
メガネーズに気付いているらしいオタク(大)が冷ややかな視線を送ったが、彼らは全く気付いちゃいない。


「…素晴らしい威圧感だね、帝王院神威先輩」

赤縁眼鏡二人が一心に俊を見つめている傍ら、眼鏡を押し上げた彼だけがその視線に気付いていた。


「裸の王様、か。
  …本当、創作意欲に火を点けてくれる」

右手を動かしたままその視線に気付かない素振りで俊を眺め、彼は小さな小さな声で呟き唇に笑みを浮かべる。

「後で兄さんにメールしておこう」

賑やかな最奥のテーブルで何かが割れる音がした。見れば水浸しのオタクと、立ち上がる二人の長身に、痙き攣るクラスメートが見える。
彼らの視線の先には、高等部生徒会長である美男子の姿。

「おお、王呀の君まで乱入さ!」
「西指宿と言えば総理大臣まで出した政界のサラブレッドさ!」
「ねぇ、君達コーヒーのお代わりは?空っぽだよ」
「ああっ、僕には手が届かないのは判っていたけれど!それでも僕は猊下をお慕いしているのさ!いつか、いつか…!」
「ああっ、もうあの席だけ美形数半端無いのさ!山田君が例外ではあるけど」
「キリマンジャロで良いのかな、アメリカンやモカは飲み飽きたよ」
「はっ、星河の君が王呀の君を見つめているのさ!」
「山田君が助けに行ったのさ!流石、没落気味の僕とは違って左席副会長だよ!」
「睨み合ってるんじゃないかな?王呀の君が山田君に近付いてる様に見えるけど」

メガネーズのハイテンション密談(既に密談ではない)を余所に、黄色い悲鳴が響き渡るレストランでは静かな戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。


この一言が発端で。


「よぉ、アキ。今日も可愛いな」

にこやかに爽やか好青年然したそれはやって来た。

「ぷにょ、あ、浮気攻めリーダー!」
「ひっ、西指宿会長…っ」
「あは。ABSOLUTELYが何の用かなあ、ぶっ殺されてーのかー」
「相変わらず陰険そうな眼鏡っ子、良い朝だな」
「ふぇ、あにょ、おはよーございますなりん」

隼人から眼鏡を奪われそうな俊が眼鏡にヒビを入れ、真っ青な太陽が今頃思い出したのか立ち上がり、俊を速やかに抱き寄せたオタク(大)が眼鏡を怪しく光らせる。

「俊、美形なら誰でも良いのかお前は」
「ふぇ?違うにょ、浮気攻めはめーにょ。でも萌えの使者は必要ですし、」
「何だ、新しい眼鏡っ子が増えてんじゃねぇかよ。知ってんぜぇ、光王子が頭抱えてたからな」

クスクス笑った西指宿の思わせ振りな視線にオタクが首を傾げ、にこやかに隼人が殴り掛かった。

「眼鏡萌え、抹殺ー」
「うわっ、危ねぇ」
「あ、」
「ふにょん」

テーブルを軸に飛び上がった隼人の肘が、オタクに運ばれてきた巨大コーラグラスを弾く。
慌てた太陽が一歩踏み出したが、時既に遅い。神威の腕に匿われた俊の黒髪に、バシャッと。

神威の長い腕も間に合わなかった様だ。


「し、俊…」
「ふぇ」
「わ、悪い眼鏡っ子。タオルタオル、痛ぇ!」

ぶっ掛けたのは隼人だが、謝ったのは西指宿だけ。
狼狽える西指宿の右腕を満面の笑みで握り締めたモデルが、次瞬笑みを消す。メタリックイエローに煌めくブレスレットを着けた右手にギシギシ力を込め、

「かかか神崎君?!」
「ふぇ、ふぇん。コーラちゃんが…」

黒さが滲む美貌で一言、



「殺してやんよコラァ」


紅蓮の君も真っ青な狂犬に、食堂は騒然となったとか。
運ばれてきた特盛り素麺15人前を前に、従業員が運んできたタオルで太陽と神威二人掛かりで拭われまくるオタクが伸びていく素麺に泣いたとか言う話は、


「ぉはよぅ皆ぁ、どぅしたのぉ、この騒ぎはぁ?」
「お素麺ちゃんが…めそり」

重箱を抱えてやってきた桜の笑顔と膝を抱えたオタクのじめっぽさで、5分も保たなかったらしい。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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