帝王院高等学校
そして嵐は去ったみたい
「ちょ、おーいおいおいおいおい!」

全く以て色気の欠片もNothingな声にはっと気付いた時、目前は宮殿だった。

「これが有名なベルサイユ宮殿か…」
「いや、学生寮だから。」

簡潔なツッコミが耳のすぐ近くから落とされた。見やれば肩の上に平凡受け

「つか、寮の場所知ってたんだ?全く迷わず歩いていくからさ、流石に最初はパニくった」
「いやァ、ほぼ毎晩入学案内読み更けて妄想してましたから…じゃなくて、」
「妄想する要素なんかあったっけ、あんな文字だらけの冊子に」
「何でタイヨー君が僕の上に?え?僕に俺様攻めを極めさせるつもりかィ?ハードルの高さが半端無いと思うんですが、オタク攻めなんてマイナーカプちょっとまだ僕には早過ぎると言うか…」

ただでさえ、ファーストキスさえ未経験なのに。

「メイド服着るにもサイズが…ああ、タイヨー君ならピッタリかも知れないにょ!絶対似合うにょ!ハァハァ、逆に執事コスも捨て難いっ」
「いや、良く判らんけどとにかくそろそろ下ろしてくれる?」
「仰せのままに、ご主人公様」
「いや、何かが可笑しいよね」

ストンと飛び降りた太陽が宮殿ならぬ学生寮らしき建物を横目に、上級生らしき生徒が受付作業をしている辺りではなく人気の少ない掲示板が並ぶ一画へ足を向けた。
トコトコ付いていく俊はまともなものが入っていない鞄からデジカメを取り出し、やや撫で肩気味な太陽の後ろ姿を盗撮しまくる。

「ハァハァ…所で何処に行くんですか?いやタイヨー君が言うならベッドルームの天井裏にだって喜んでお供しますが」
「何で天井裏ー?何で俺は撮られまくってるんでしょー?」

背中に目が付いているらしい太陽がのたまうのにビクッと怯んだ俊は、未練がましくデジカメを仕舞いながら頬を染めた。中々鋭いではないか、平凡受けの癖に。

(でも、そぅゆートコも萌えるぅ)

オタクの恥じらう顔など見たくはない。

「だ、だってコトの最中に正々堂々お邪魔したらやっぱりお相手に悪いかなって…」
「は?琴の最中?」
「いや、いいんだ!見られる方が燃えるって言うならっ、そっちの方が僕も萌えますし!」
「もえー?」

二人の会話は全く噛み合っていないらしい。
さて、いつの間にか目前には掲示板。真新しい印刷物が煌びやかに掲示されてある。


部活動案内。
研修旅行案内。
理事総会議題報告。
日刊親衛隊。





日 刊 親 衛 隊





「何だこりゃあああああ!!!」
「あー…、気にすんなよ。見るだけ無駄だから、」
「神帝親衛隊!光王子親衛隊!白百合親衛隊!紅蓮親衛隊!紫の宮親衛隊!その他諸々!
  スゲースゲー!うわぁ、これ全部定期購読の申し込み出来るのかしら?!」

報道部の新聞ではなく親衛隊の親衛隊による親衛隊の為だけのそれに噛り付く俊を横目に、太陽が見上げたのはクラス分けの掲示板だ。


「…やっぱ、Sクラスか」

通常クラスは学科によって分けられる。例外は特別進学部に分類されるSクラスだけだ。
学年別上位30名のみがそこへ在席する事を許され、進級毎に年間成績によって継続在席か一般クラス降格か選別される。

「いつ情報仕入れてんだ、あの鬼畜男め…」

初等部からの半エスカレーター式である帝王院学園でも、各部卒業前に試験が催されている。
太陽も中等部卒業直前に高等部入試試験と同じものを受けた。


一年Sクラス21番、山田太陽。


21番は出席番号ではなく、成績表だ。えげつない実力社会の世界、30人中21番目では降格範囲内である。

「…ちっ」
「タイヨー君?どーしたの?」
「あ、…クラス表見てたんだ。遠野君は何処だろうなー」

キョロキョロと末端のクラスから探し始める黒縁眼鏡を眺めて、小さく笑った。
ああ、今ならきっと友達になれるかも知れない。あの男が嘲笑った通り、きっとこんなチャンス二度とないだろうから。

「…」
「む。ないなァ…、本当に受かってんのかょ、僕たん…」

こんなに騒がしい人間が近くに居た事など、果たして今まであっただろうかと考えた。
そしてすぐに自嘲するのだ、自分に友達など『一つ』しかない。ゲームだけがいつも、そういつも。

友達だったのだから。


「あ」

一般クラスの生徒はSクラスを崇拝している。それは病的なまでの陶酔、一度でもSクラスだった生徒は降格した途端に凄まじい制裁を受けるのだ。
元クラスメートからは馬鹿にされ、一般クラスの生徒からは隔絶されて。皆、辞めていく。

Sクラスレベルの生徒が一人減れば、一般クラスから一人Sクラス入りが約束されて。
だから実力社会、水面下では常に醜い争いが続いている。真に穏やかな学園生活を送る事が出来る人間などほんの僅かだ。


「あった!あった、あったァ!」

隣から放たれた快活な声音に竦み上がる。ああ、彼もすぐにこの汚い世界に染まり、『Sクラスの山田太陽』として、敵視するのだろうか。

友達に、なりたくても。



「いよっしゃア!タイヨー君と同じクラスじゃアアア!!!」
「…、は?」
「グッジョブ教職員の皆々様!後日賄賂送っとくからなァ!覚悟しやがれェ!わーっはっはっはっ」

もう一度、掲示板の左端。
Sクラス一覧へ目を向けて、一秒と懸からず見付けた名前に笑おうとして、失敗した。





一年Sクラス1番、遠野俊。





「いち、ばん」

ああ、そうか。
だからあの腹黒性悪性格破綻男が、自ら話し掛けて来たのか。

「ね、ね、タイヨー君…じゃなくて、」

そして、『わざわざ話し掛けて下さった』帝王院学園御三家の一人を『膝蹴りした』のか。
高等部で常に三名しか存在しない、『帝君』が。

「太陽君」
「は、ははは…」

三年Sクラス1番、神の君。
二年Sクラス1番、紅蓮の君。

「太陽君?」

なら、彼は何と呼ばれるのだろう。

「ん、ごめんごめん何…?」
「えっと、これから一年間何卒宜しくお願いします、的な」
「つか、呼び捨てで良いよ」
「え?!まままマジで?!」
「嫌なら、無理には」
「嫌じゃねェ!ハァハァ、ヤバイ…もぅ俺今なら死んでもイイです神様…ハァハァ」

平和に学園生活を送れる、数少ない例外。熾烈な争いを遥か高みから静観する事が出来る、


生まれながらの『天才』。


「遠野君って、中学何処?」
「ふぇ?あ、えっと鷹翼中学って言うショボい私立なんだけど…タイヨー君は知らないよねィ、クスン」

県下三本指に入る偏差値70の私立中学だ・と、もう今すぐ腹を抱えたくなった。

「先公…先生からは出席日数もギリギリだし成績も酷過ぎるから帝王院なんか受かる訳がないって言われたけど、僕は頑張りました。

 ……………主にBL活動を。」

少なくとも、嫌われてはいない。
少なくとも、敵視される事はない。

「なー、俺さ。社会と生物と化学と現国は得意なんだけどねー。それ以外は壊滅的なんだ」
「ふぇ?いやァ、僕なんか全教科駄目だにょ〜!保健体育はイけるけどね!偏ってるけど!」
「一緒に試験対策練ろうな、俊」

本当に、飽きない生き物だ。

「キャーーー!!!タイヨーの微笑みが眩し過ぎるぅぅぅッ」
「何だ、それ(笑)」

大切にしているゲームでさえ、忘れさせるなんて。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!