帝王院高等学校
その手紙のサブタイトルは、マイペース。
彼らはきっと、その時既に異次元へ放り出されていたのだ。
でなければ集団催眠に掛かってしまったに違いない。鋭い眼光を宿した男前が眉を寄せ、皆が遠巻きにしている「それ」を手に取る。

誰がこんな下らない催眠術を掛けたかは判らないが、犯人が判明次第殴って蹴って引き摺り回した上で素裸にして高速道路のド真ん中に置き去ってやる…、と言うくらいには頭に来た。

何せ差出人の名が、彼らの尊敬する人のものと似ている気がする。
いや、はっきり言おう。
似ている気がするも何も全く同じ名前だ。筆跡も同じだと思えるが、頭が認める事を拒絶していた。
だが然し、だからこそタチの悪い夢に違いないと自己催眠に走る。そうか、自分はまだ寝ているのか、ナルホード。


「参ったな、昨日焼いたマドレーヌがそろそろ馴染んできた筈なんだが…」
「ふ、副長…」
「ユウさ、ん」
「幾らなんでも、ガッコ抜け出して町内3周半バイク転がした夢なんか観ないで良いと思わないか、なぁ…?」

低い笑い声が響き、周囲の男達が後退る。


蛍光インクで鮮やかに印刷された一枚の紙には、まるで少女漫画の様なキラキラ瞳の男と男が絡まっていた。
いや、こんがらがっていた。
特にタラコとタラコが。

「副長、はっきり言います。…タラコじゃなくて、唇っス」
「タラコより明太子派だからなぁ、総長は」
「ユウさぁぁぁん!しっかりして下さーーーい!!!!!」

敬愛して止まない人を思い浮べた赤髪は、嘘臭い笑みを滲ませたままもう一度手の中のド派手な紙へ目を落とす。

「拝啓、俺の可愛いとはあんまり言えないワンコ達…」

音読する声音の低さに空間は恐怖で満たされた。



拝啓、俺の可愛いとはあんまり言えないワンコ達。

早い奴はそろそろ春休みだろう、宿題はちゃんとやれよ。馬鹿な不良なんて残念過ぎるからなァ、モテたいなら学べ。そして
東大に行け
卒業した奴には改めて『おめでとう』と言わせて下さい。俺はとても羨まし…じゃなく、嬉しいです。

さて、話は秋の空よりガラっと変わるが、俺はこの度決意致しました次第であります。
俺、俺は、



本日限りでカルマを引退します


理由は聞かないで下さい。俺だって皆を残して旅立つのはとても悲しいのです。
でもどうしてもと言うなら、ABSOLUTELYの皇帝のお陰だと言っておきます。
彼のお陰様で
俺の人生は狂いました。確実に元の生活には戻れない事でしょう。俺には判ります。

俺の可愛いとは大分言えないワンコ、ポチ。
…じゃねぇ、イチ。

後の事は皆、お母さんにお任せする次第です。お父さんはこれから新しい世界に挑む事になるでしょう。
今はまだ、例えるなら
ニートがマクドナ〇ドの面接を受ける前にも似た心境ですが、悩んでいる暇はありません。
お父さんにはまだまだ学ぶ事が多いからです。今の俺程度では、イチのカテゴリでさえ満足に表現出来ない事に気付いてしまったのです。



ワンコ攻め


そんな在り来たりなジャンル読み飽きました。お父さんはイチの無限の可能性を見抜いています。
だからこそ、暫し修行の旅に出るつもりです。


死ぬほど読み漁った。
死ぬほどマウスを握り締めた。
そしてたまに勉強もしました。

もし落ちてたら死のうと思います。だから遺書をしたためました。

さようなら。
次に生まれ変わったら、賢い男になりたいです。探さないで下さい。


FROM 終生愛犬家、ST




「………」

ガタガタ震える両手は怒りの為に血管が浮き出て、かと言って幾ら幻覚だろうとSTの名が刻まれたものを破り捨てる訳にもいかなかった。
イチと呼ばれた赤髪の男には敬愛して止まない存在がいる。何があろうと付き従う事を誓った、何にも代え難い『唯一無二』だ。

「…おい、テメーら」
「は、はいっ」
「誰でも良い、今すぐ俺を殴れ。いい加減催眠術には飽きてきた、早く目を覚まして総長にデコメらなきゃなんねぇんだから、ああそうだとも」
「落ち着いて下さいユウさぁぁぁん!」
「むっ、無理っス!」
「副長を殴るなんて例え死んだって無理、」
「だったら今すぐ死ねやぁあああ!!!」
「「「ぎゃーーーーーっ!!!!!」」」

暴れ狂う赤髪の姿を余所に、薄暗いバーのカウンターに腰掛けていた『彼ら』が立ち上がる。


「また、随分面白そうな事態になりましたねぇ…、愉快山の如し」
「…ちっとも面白そうじゃねぇよ!」

黒髪を撫で付け青銅の仮面を纏ったしなやかな体躯の男と、金髪を乱雑に掻きながら唸る様な地を這う声を放つ赤銅の仮面を着けた男の姿がある。

「ふふふ、折角この二年で男らしくなって彼に再会出来ると思っていたのに、残念でしたねぇ」
「…ちっ、黙れやテメェ」
「はいはい、…陛下?」

黒髪の男がカウンターの中央に腰掛けていた、いやに威圧感のある男を仰ぎ視る。
流れる様な銀糸が舞う。暴れていたイチが憎しみを宿した双眸でこちらを睨め付けていたが、


「………俺のお陰、か」
「何かあったみたいですが、カルマの頭と陛下に一体何が?」

無礼を働いたなら自分が制裁する、と言わんばかりの男にはただの一瞥もくれず、彼は無駄のない動作で席を立った。

「俺が狂わせたなら、責任を取ろう」

久し振りに聞いた『神帝』の凛とした声音に、世界が包まれる。



「………俺の人生を狂わせた責任は、」

イチの手からいつの間にか落ちていた煌びやかな手紙に、魂すら呑み込む様な囁きが落ちたのは。








 
  
   

    



     

    



   





夢、だろうか。

(#)ばかん→
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