帝王院高等学校
覚悟を決める前に興奮を落ち着かせよう
俺は今、非常に興奮している。













遠野俊15歳の今の心境は、正しくその一言に尽きるだろう。
目前には天高くそびえ立つ煉瓦の門、一歩潜れば其処は京都でした。




いや、違う。
其処は紛れもなく中世ヨーロッパでした、ポンジュース。






愛媛…?



「もしかして、ボンジュール言いたかったみたいな?」
「そう、それだょそれ!」

日本産まれ日本育ち、と言う日本人の大多数がそうだろう極々普通な生活を驀進してきた俊の背後から掛けられた声に振り返り、携帯ゲーム片手に佇む同じ制服を纏う少年に指を突き立てた。

然し彼の視線は俊の人差し指ではなく、己の親指が操る携帯ゲームに一心不乱。

「…」
「…っと、ちっ。楽勝ー」
「何だチミは」
「そうですワタスが変なオジタンです」
「しゃ、喋った!ぎゃふんにょ」
「………にょ?」

携帯ゲームから目を離した少年の黒い瞳が輝いた、様に思えた。
出会ったばかりの二人は導かれる様にジリジリ近付き、



固く手と手を取り合う。



「お前さん笑いが判るな!」
「いやいや、そっちこそ。因みに俺…じゃねぇ、僕は遠野俊15歳ですにょ」
「おもっくそその一人称似合ってねぇよ、君。ついでに俺は山田太陽、お天道さんの太陽って書いてヒロアキだから、宜しく」
「かしこ畏まりかしこ〜、タイヨー君ですねィ。忘れない限り一生覚えていますなり」
「やっぱりそうなっちゃいますぅ?だからヒロアキだっつってんスけどネー、既に間違ってますよネー」

へら、と俊の口元が緩めば、特に気にした様でもなかった山田少年が肩を抱いてくる。
中々にスキンシップ好きらしい。これはポイント高いと言えるだろう。

「然し、お前さんの喋り方面白いなー。真似しよ〜かなー」
「僕、本当は丸一ヵ月色々研究するつもりだったんですが、ついうっかり新刊読み漁っちゃって…クスン」

黒縁眼鏡に黒髪、然し身長だけはご立派に基準値以上と言う甚だ違和感丸出しな俊が泣き真似るのを、俊より大分小柄な山田少年が宥めてやっている。

「ふむふむ」
「うっかり訳あり変装転校生受けにハマらなければ、受験勉強にもっと身が入ったのだと思うんだ…」

携帯ゲームを名残惜しげに鞄へ仕舞った山田少年は期待に満ちた目で俊を凝視した。
辺りの通行人は平凡とオタクには見向きもしない。彼らは空気の様に溶け込んでいた。


平凡故の、擬態。


「で、何の研究?何の新刊?」
「全く話し聞いてなかったみたいねィ」
「どうもさーせんした、遠野君」

謝るにしては偉そうな態度の山田少年に眼鏡をくいっと持ち上げたオタクは、

「明るく楽しいオタライフ、冬コミを我慢して代わりにネット通販で買い漁ったBL小説達。僕の癒しにょ…」
「何だ、それ。びぃーえる?電車か?…いやそれはJRか」

こてり、と首を傾げる山田少年は何処までも平凡な少年だった。
だからこそ不気味な黒縁眼鏡が妖しげに光る。

「………平凡受け、みっけ。」
「ん?おっと、そうだお前さんもしかしなくても外部生だろ?始業式始まる前に入寮手続きがあるから、まず寮行こっか?」
「外部?新入生、だけど。俺…僕は入学式に出ないといけないんです、タイヨー先輩」
「いや、俺も一年だから。」

門を潜る際、門番らしき爽やか美人系お兄さんから左胸に付けられたピンクのコサージュを指差す山田少年に、今更先輩だったらどうしようタメ口使っちまったヨォやっぱ敬語だよなァ、などと悩んでいた俊は安堵の息を吐いた。

「変わってるなァ、入寮手続きの後に入学式なにょ?ハァハァ、ここに来て興奮が最高潮に…!」
「だから入学式じゃなくて始業式だって。まぁ、外部生なんて超珍しいから上手く説明出来るか謎だけど、まず寮まで行こー?」
「じゃあ、何だ?入学式はもう終わったのか?でも、でも…っ、入学案内(毎晩熟読し過ぎてクタクタ)には、午前7時入校って書いてあったんだぞォオ?!」
「ぅわ、わ、わわわ、わっ?!」

入学式と言えばイケメン理事長、
煌びやかな生徒会、
俺様会長が口を開いた瞬間のキャーキャー響き渡る

茶色い声



様付けなんかされちゃってて。
超偉そうに「俺様に迷惑掛けんじゃねぇぞ、下僕共」って言いながら、連日徹夜でゲームしまくってる(未確認)タイヨーが平凡らしからぬ可愛い寝顔を晒してて、視力2.0の会長は壇上からそのタイヨーを見つめてて、夕食の食堂にやってきたりして、


『よう、さっきは良く俺様の挨拶をシカトしてくれたな、平凡』


なんて惚れ惚れするほどの美声を撒き散らしながら肩を抱くんだ。
勿論、タイヨーの。


『気安く触んじゃねぇ、バ会長め!』


なぁんてタイヨーが嫌がったりして、
不機嫌になった会長が無理矢理チューしたり、して!!!!!





きゃー!!!!!!(´Д`*)





…そんなBL小説定番の光景をデジカメでただの一時も逃さずキャッチして、携帯片手に自サイトを更新しつつ、且つ萌える受けに萌える攻めを色々物色するつもりだった の に ィ!!!!!



「断固拒否!
  断固入学式やり直し請求!
  うえええん、俺の楽しいオタクライフを、BLプランを返せェ!!!」
「ゲフ、グフ、し、死ぬ、た、助け、誰かー」

オタクに絞め殺されそうな平凡少年の微かなヘルプミーに、誰が気付くと言うのだろう。


彼らはTHE空気。

中世ヨーロッパには全く不似合いにも関わらず、浮く所か空気の一部になっている勇者達だ。

このまま初登場→死亡フラグが起立ー礼〜着席ー、な感じだ。



「うえ、俺みたいなオタクが生徒会や理事長を生で見られる一世一代のチャンスだったのにィっ!」
「ま、待って、」
「タイヨーがファーストキスを奪われる瞬間をデジカメで出歯亀する俺のプランが、萌がァアアア!!!」
「ゲフ、」
「俺が腐男子歴半年の駆け出しチェリーだから舐めてんのか?!ああ?!幾ら平凡受けが人気だからって俺みたいな平凡以下が主人公になれるなんざ考えてねェしっ、主人公を遠くから見守れるポジションですら厚かましいって言うなら盗聴器とかで我慢するからァ!」
「ゲフン、グフ!…もう、だ、め…」

正に俊の興奮が最高潮に達する間際、山田少年が今にも空に還りそうな刹那、





「そこの新入生、」
「んだァ?!」
「不純同性交遊は取り締まりますよ?」
「……………イケメン!」

美形の出現に、興奮は最高潮。
少しは落ち着いて貰いたいものだ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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