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神子のオマケは竜王様に溺愛される《完結》
※6
 翌日、人間の身体を隅々まで堪能した赫焉は水陰と緋炎から烈火の如く怒られた。ぐちゃぐちゃになった着物。白く滑らかな肌に残る赤い斑点と掴まれた痕。朦朧とする意識の中で、水風呂に入って身体を清める人間を見て二人が発狂したのは言うまでもない。

「この大馬鹿者! この寒い時期に水を浴びるでないわ! あぁ、こんなに冷たくなって……水陰! 直ぐに湯を用意致せ!」

「今準備しています! 全く、本当にアンタはアホですね! 人間は脆いと言ったでしょう! 抱いて満足して後処理もせず放置するなんて何考えてるんですか!」

 がみがみと赫焉を叱りながら、二人は未だに意識がはっきりしていない人間の世話をした。温かいお湯で身体を洗い、中に出されたものも洗い流し、長く美しい髪も丁寧に洗った後、二人は彼を湯船に浸からせた。十分体が温まったのを確認すると濡れた身体を清潔なタオルで丁寧に拭き、風邪をひかないよう着物を着せ、緋炎は髪と肌の手入れを、水陰は食事の用意をした。その間も赫焉は人間に触れる事を許されず、何を言っても二人から「黙れ!」と叱責を受けるだけだった。

「近くで見れば見る程見事な髪じゃな。美しい」

「あのバカに付き合わされて疲れたでしょう? それにお腹も空いている筈です。今日はお粥を作らせましたので、ゆっくり食べましょうね」

「おい、それは我の役目だと『ぁあん?』」

 慈しむ表情から一変、二人は人間を抱き潰した赫焉に殺気を放ち睨み付けた。誰のせいでこうなったと思っている? 反省していないならこの人間に触るな! と圧力をかけてくる二人に赫焉は逆らえなかった。以前まで人間に敵意を向けていたと言うのに、この溺愛っぷり。赫焉は喜べばいいのか呆れればいいのか分からなくなった。

 緋炎と水陰も人間を溺愛するようになり、彼は更に美しくなった。長い黒髪は毎日緋炎が隅々まで手入れを施し、彼が食べる物は水陰が栄養を考えて全て管理している。最近は髪だけでは満足せず、肌や爪の手入れ、身に纏う衣装まで拘りを持つようになった。生まれつき美しいものに目がない緋炎は自分が購入した高価な着物を幾つも人間に着せ、髪飾りや耳飾りも用意してより美しくする事に力を入れている。

 最初は戸惑い逃げようとしていた人間も緋炎の拘りに負けたのか今は大人しく着物を着せてもらっていた。緋炎の使用人達も加わって帯や帯紐、髪型や髪飾りについてアレコレと話し合って決めている。中々決まらない時は何時も水陰がお菓子やお茶を用意して人間に食べさせていた。

 自分の顔くらいの大きさの饅頭を渡された時、人間は受け取った巨大な饅頭と水陰を交互に見て二つに分けた。それを更に二つに分け、水陰、緋炎、そして赫焉に差し出した。四つに分けられた饅頭は一つだけ明らかに小さく、彼は迷う事なく一番小さな饅頭を口にした。その心優しくいじらしい姿に、赫焉達は愛おしすぎて天を仰いだ。

「妾達には大きいものを与え、自分は一番小さいものを選ぶとは……」

「それだけでは少ないでしょう? こちらも食べていいんですよ? これは貴方の為に用意したんですから、ね?」

「小さすぎる。そなたはもっと食べた方がいい」

 人間はやんわりと断って、三人に食べてと意思表示した。ドラゴンである赫焉達と人間とでは体格も大きさも食べる量も違う。彼らが普通に食べる量でも、彼にとっては多すぎるのだ。自分の顔と同じかそれ以上の大きさの饅頭を完食するなんて出来る筈がない。自分一人では食べきれないから四つに分けただけ。それに、彼の祖国では平等に分け与える事が当たり前だった。幼馴染であり親友でもある神子とも何度もそう言ったやり取りをした。嫌いな食べ物を交換したり、残り一つになったお菓子を半分にして一緒に食べたり。しかし、彼の事情など何一つ知らない赫焉達は渡された饅頭を涙を流しながらリスのように少しずつ齧って食べた。本当は彼の慈悲深い心を証明する為に保存して一生飾りたいが、食べ物を粗末にしてはいけないと幼い頃から言い聞かされていた為、彼らは渋々饅頭を口にした。

 何時も大量の料理を豪快に食べる姿を見ていた人間は小動物のように少しずつ齧って食べる三人の姿が面白くてクスクス笑った。天竜国に来て初めて見せた笑顔に、赫焉達は同時に胸に手を置き「う!」と小さな悲鳴を上げた。美しく綺麗なだけでなく、可愛さまで兼ね備えているとは。彼らが更に人間の虜になったのは言うまでもない。

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あきゅろす。
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