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無色ノ噺
桜道に月明かり1*



――もしも、私が人の身であったなら、この腕に抱いて離しはしないのに…。



桜道に月明かり



――――――――――――――



春の宵に浮かぶ奇麗な銀を放つ月。
その光の下には何百本もの艶やかに咲く桜。



「桜(オウ)。」



まるで月の色と月自体をそのまま髪にしたような美しい顔立ちの紺の着物を着た男は桜の上に向かって呼びかけた。



「何?月兎(ツキト)」

「また、この季節がやって来ましたね。」



顔を綻ばせ笑む月兎の前に、はらりと桜の淡い花びらが落ち、続いて桜がふわりと降りてきた。



「そうだね。…久しぶりだけど、相変わらずだね。」



桜のような淡い色の長い髪に、可愛いと美しいの間の顔立ちをし、髪と同色の裾長の着物を着た桜を認めると、月兎は目を細めて奇麗に笑った。
そして、そっと手を伸ばし、桜を確かめるかのように頬に触れる。
桜はすっと目を閉じ、されるがままに任せ、やがてゆっくりその触れる手に、自らの手を重ねた。



「くすぐったい。」

「フフ…。本当に相変わらずですね。」



しばらくすると、月兎は桜の頭に手を差し込み、開いたもう片方の手を腰に回した。



「…スルの?」

「いいムード壊さないで下さいよ…」



苦笑する月兎だったが、桜が首に腕を回してきたことによって、理性が切れそうになる。



「いいよ…。僕らの時間は少ないから。散るまでずっと…離さな、ンム」



月兎は桜の唇を自身の唇で塞ぐ。
次第に口づけは激しくなる。



「ん…は、ン……」



舌と舌が絡み合い、ぴちゃぴちゃと濡れた音をたて、その合間に桜の空気を求める声が響いた。



「も、苦し…ンン!」



遂に、カクンと膝が力をなくすと、月兎は桜の体を抱き上げて、薄暗がりへ歩いた。



「…どこ、行くの?」

「青姦よりましでしょう?」



びくり、と体を強張らせれば、月兎は優しく額に唇を落とす。

やがて、暗がりは光により姿をなくした。
そこは、月の光に照らされた、満開の桜が一本だけ凛と存在していた。
その下に、白いベッドがある。


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