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無色ノ噺
待ってるから…

舞ってる…。
今年の名残雪が。



「旦那様、いつまでお待ちすれば良いのですか…」



疑問じゃなく、嘆息に似た声を漏らす。

オレは旦那様に造られた人形。
見た目も、中身もそっくりそのまま人間のような人形だ。



「おい…」

「何?セカンド。」

「旦那様のことは諦めろ。」



造られた人形はオレ以外にもいて、セカンドもその一体だ。



「嫌だね。旦那様はオレにここで待つよう申し付けた。なら待たなければ…」

「…あれから何年経ったと思ってる?」

「132年と2ヶ月21日18時間31分16秒。」

「ご主人は人間だ。帰ってきやしねぇよ。」



どうして?
旦那様は、待つようにと…帰りを待つように、と言った。
だから必ず帰ってくるんだ。

セカンドは信じてないみたいだけど、オレは信じてる。

そういえば、旦那様が出かける前に、オレに赤い液体が入った綺麗な小瓶を渡して下さった。
寂しくなったら飲みなさい、って…。

オレは寂しくなかった。
セカンドもいるし、他の仲間もいた。
何より、旦那様との暖かな記憶があったから…。
でも、今は…



「少し、寂しくなってきたかもしれない…」

「…おい。俺ももういくぞ?」

「うん。今までありがとう。」

「そうか。…寂しくなったら飲めよ。」

「うん。」



セカンドは同じような小瓶に入った青い液体を飲んだ。
それから他の仲間と同じように地に伏した。

静かになったなぁ…。

名残雪は、名残雪のくせに本格的に降ってきて、世界を白く埋め尽くしていく。



「綺麗…。でも…」



―――寒いんだ。



感覚はないはずなのに、冷たい感覚が体を支配する。
どうしようもなく、寒くて、寒くて…寂しい。

だから、オレは小瓶を取り出し液体を少し飲んだ。
感覚はないけど、それが何なのかはすぐにわかった。

旦那様の血だ。

そうとわかると、オレは毎日、少しずつ液体を飲んだ。

嗚呼、暖かい。
嗚呼、嬉しい。
嗚呼…、旦那様と一つに…。

体の動きが鈍くなり、視界にノイズが入ってくる。
一滴、一滴…。
日に日に壊されて行くのがわかる。
旦那様の赤は、オレを狂わせていった。

そして、最後の一滴を口にした時、身体が急にふわりと軽くなった気がする。
だけど、とても眠い気も…。



「だ、ンナさマ…ダンナサマ…オレ、ハ…シバラク、ネムリ、マ…ス……」



―――それでもずっと、



「ダンナサマ…アナタノ、オカエリヲ……」



―――此処で待ってます。



手から転がり落ちた小瓶が、高い音を立てながら、割れた気がした。



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