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無色ノ噺
壱*

売られて、幾月…。

見知らぬ男は、予想していた通りオレを花街に連れて行った。
何軒も、何軒も回ってやっと引き取ってくれた店の主は、たいそう優しげな風貌の美しい男性だった。
今まで見たこともないくらい…。

店主は、漆黒の肩より少し長めの髪を緩く紐で結わえ、柄は違えど黒地の着物を着ている。
高級品だとわかる煙管を燻らせる様は、どんな姉様方より美しく、妖艶で、蠱惑的だ。
店主は、蘇芳と名乗った。
蘇芳さんは、優しい方だ。
売られたからと言って、すぐに『見世』に出すことはしなかった。
まぁ、オレが出たところで、買おうとする物好きなんかいないだろう。
最初は、店の掃除や姉様方のお世話をした。
そういうのは得意だったし、姉様も皆よくしてくれた。
お礼にと、壊れてしまった簪や、破れた着物を直したり、新しい物に作り変えたりしているうちに、評判になってしまった。
素直に、嬉しかった。
次に、店で一番綺麗な姉様だった翡翠さん専属のお世話係になった。
姉御肌の彼女は、他の姉様にも慕われていて、そんな彼女だからこそオレを本当の弟のように扱ってくれた。
今は、翡翠さんのお客さんで、毎日口説き落としに来ていた方と結ばれ、外の世界へ戻っていった。
あれは、見ているこっちも恥ずかしくなるような恋だった。
そして、現在オレは、蘇芳さんに手ほどきされている。
つまりオレも『見世』に並ぶようになるのだ。
来るべき時が…。



「苦しいかい?」

「ッ…いえ」

「そう。」

「ひっ!」

「千茅、掴むのは布団ではなく私の着物を…」

「は、い…」



尻の穴を指で解される感覚に慣れず、肌が泡立つ。
ぎゅうっと掴んだ布団から無理矢理手をはがし、蘇芳さんの着物に縋るように掴む。



「ふふ…」

「?あ、あぁ!!」



一瞬、目を開けた先の蘇芳さんが言い表せない表情をしていたのだが、どうしたのか聞く前に、オレよりオレの体を熟知している蘇芳さんの長く綺麗な指が前立腺を押し潰す。
ゆっくりとならされ続けていた体は、浅ましく快楽を感じる体に作り替えられてしまっていた。
最初は、痛かったり、くすぐったいだけだったのに、と昔の自分が懐かしいとすら思う。



「あ、あぁあ…も、イきま、す」

「いいよ。イきなさい。」

「ふ、あぁ!ッ」



前立腺への刺激だけで達するようになってしまった体が怖かった。



「いい子。よく頑張ったね。」

「は、い…。ありがと、ございました。」

「いいよ。眠いなら寝ておしまい。」

「すみません。」

「気にしないで。」

「ン…ありがとうございます。」



けれど、行為後の蘇芳さんに褒められることと、優しく撫でる手にその怖さも捩じ伏せることができた。
独特の倦怠感に包まれて、オレは瞼を下ろした。

何度も髪を梳く蘇芳さんの手に、縋りついてしまうことも今だけは許してほしい。
『見世』に出たら、もう縋らないから…。



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