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無色ノ噺




故郷まとめて 花一匁

隣のおばさんちょっと来ておくれ

鬼が怖くて行かれない

座布団被ってちょっと来ておくれ

座布団びりびり行かれない

お釜被ってちょっと来ておくれ

お釜底抜け行かれない

あの子が欲しい

あの子じゃわからん

この子が欲しい

この子じゃわからん

相談しましょ

そうしましょ



――――――――――――――



見知らぬ男と、両親が顔を突き合わせ相談する姿を襖から覗いていた。

生活が苦しくなると、いつも行われていた光景。
最初は、器量良しの姉ちゃんだった。
次は、可愛い妹。
3番目は、優しかった2番目の兄ちゃん。
みんなみんな、泣いていた。
父さんも、母さんも…。
一番上の兄ちゃんは、ひたすら謝っていた。
それで、必ず連れ戻してやるからと言っていた。

オレは、知ってるんだ。
兄弟姉妹が売られていったこと。
今、どこにいるかなんてわかりゃしない。
売ったお金で、一時生活苦から逃れ、また逼迫する。
意味のない繰り返しだ。
その意味のない繰り返しは、オレにも降りかかるんだろう。
もう、オレしか売る人間はいないから…。

オレが売られなかったのは、兄ちゃんが止めていたから。
そうじゃなきゃ真っ先に売られていたと思う。
姉ちゃんみたいに綺麗じゃないし、妹みたいに可愛くもない。
優しさだって持ち合わせちゃいない。
オレは、とても凡庸な顔立ちで、唯一自慢できるものと言ったら指先の器用さくらいだろう。



「千茅、」

「はい。」

「お前、この男についていきなさい。家よりも美味いものいっぱい食わしてくれるから。」

「…はい。」



話はまとまったのだろう。
父の脇には、申し訳程度の萎びた袋があった。

オレの金額はあんなものか…。



「父さん、母さん、兄ちゃん。今まで、ありがとうございました。どうか、健やかに…。」

「千茅…」



兄ちゃんの腕の中で、最後の温もりを感じた。
濡れる肩は、一瞬温かく、そしてすぐ冷たくなった。



「さよなら。」



ない荷物を包み、見知らぬ男と家を出る。
背後で、これにしかならなかったと言う父の声が聞こえたのは、聞かないふりをした。



――――――――――――――



勝って嬉しい花一匁

負けて悔しい花一匁





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