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無色ノ噺

〜Side 海那〜



ふと、元ホストに医者になった奴がいたことを思い出した。



「お兄さん、お医者さん行ったぁ?」

「…ってねぇ…」

「行ってないかぁ…。じゃあ、オレの知り合い呼んでいい?」



辛そうにする顔。
少しの間の後、悠志さんは頷いた。

オレは携帯を持つと、部屋を出て電話をかけた。



『もしもし?』

「どうも、卓さん。」

『香月か。どうした?』

「今さ、オレの大事な人が熱出してまして…。往診してくれないかなぁなんて…?」

『了解。場所は?』

「オレの家の左隣。」

『わかった。すぐ行くな。』

「ありがとうございます。」



電話を切り、部屋に戻ると不安そうな目を寄越された。
不謹慎にも、可愛いなぁ、なんて思ってしまう。
だって、悠志さんの頼りなげな姿なんて滅多に見れないからね。



「すぐ来るってさぁ。」



ニコッと笑うと、掠れた声で礼を言われた。



「無理して喋んなくていいよぉ。お兄さ」

「……ゃ…」

「え?」

「…名前、」



何を言われたのか、数秒間理解できなかった。
ハッとして、いつもの口調で尋ねる。
…本能と必死に戦いながら。



「名前、呼んでいいのぉ?」

「……ダメ?」



ダメな訳がない。
嬉しくて、こそばゆくて、でもずっと呼びたかったんだ。
あなたの名前…。



「…悠志さん…」



名前を呼べば、嬉しそうに笑う悠志さんに、オレは動揺した。

理性が揺らぐのがわかったが、何とか、嬉しさに昇華させて堪えることが出来た。



「悠志さん、可愛い…」



その後、卓さんが来て、診察すると処方箋を渡して、帰っていった。



「悠志さん、薬買ってくるね。」



頭がぼーっとしているのか、反応がない。
ただ縋るような目で、何かを訴えられる。

さらりと、頬を撫で、安心させようと試みた。



「じゃ、行ってくるね。」



そう言った瞬間、袖を掴まれた。
必死にオレを捕まえる悠志さんに、その心がわかった。



チュ…



額にキスをした。

不安を拭い去り、安心させたくて…。

悠志さんから離れ、約束の言葉を言う。



「帰ってきたら、治るまでどこにも行かないよぉ…」



―――だから、早く良くなって。



悠志さんは小さく頷いたのに微笑んで、オレは薬をもらいに行った。


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あきゅろす。
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