無色ノ噺
2
海那は、かいがいしく世話を焼いてくれた。
喉が渇いたと思えば、スポーツドリンクを飲ませてくれ、何度も熱で温まったタオルを冷やして、再び額にのっけてくれた。
「お兄さん、お医者さん行ったぁ?」
「…ってねぇ…」
「行ってないかぁ…。じゃあ、オレの知り合い呼んでいい?」
さすがに、このまま医者に診せないのはきつい気がする。
だからといって、外に出る気力もない。
熱はこうしている間にも、どんどん上がってる気がする。
仕方なく頷くと、わかったぁ、と海那は言って、携帯を取り、部屋から出て行った。
「すぐ来るってさぁ。」
ニコッと笑う海那に、掠れた聞きづらい声で礼を言った。
「無理して喋んなくていいよぉ。お兄さ」
「……ゃ…」
「え?」
「…名前、」
くらくらする中、自分が何を口走っているのかもわからない。
「名前、呼んでいいのぉ?」
「……ダメ?」
「…悠志さん…」
名前を呼ばれ、嬉しくなって笑えば、海那が動揺した。
けど、すぐにいつもの…いや、それ以上の笑顔になった。
「悠志さん、可愛い…」
その後、呼ばれた医者が来て、診察すると処方箋を海那に渡して、帰っていった。
その時は、もう熱で声もはっきりと聞こえなかった。
「…………、………………。」
聞こえねぇよ。
さらりと、頬を撫でる手が、オレから離れていく。
「……、………………。」
嗚呼、いってしまう。
独りになりたくない。
鉛のように重い手を動かし、必死に海那を捕まえる。
そしたら、海那が戻って来て…
チュ…
額にキスされた。
まるで、不安を包み込み、安心させるかのように…。
再び離れていく海那を、今度は止めなかった。
「帰ってきたら、治るまでどこにも行かないよぉ…」
―――だから、早く良くなって。
オレは小さく頷き、海那が出かけるのを見送ってから、もう一睡した。
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