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無色ノ噺


海那は、かいがいしく世話を焼いてくれた。
喉が渇いたと思えば、スポーツドリンクを飲ませてくれ、何度も熱で温まったタオルを冷やして、再び額にのっけてくれた。



「お兄さん、お医者さん行ったぁ?」

「…ってねぇ…」

「行ってないかぁ…。じゃあ、オレの知り合い呼んでいい?」



さすがに、このまま医者に診せないのはきつい気がする。
だからといって、外に出る気力もない。

熱はこうしている間にも、どんどん上がってる気がする。
仕方なく頷くと、わかったぁ、と海那は言って、携帯を取り、部屋から出て行った。



「すぐ来るってさぁ。」



ニコッと笑う海那に、掠れた聞きづらい声で礼を言った。



「無理して喋んなくていいよぉ。お兄さ」

「……ゃ…」

「え?」

「…名前、」



くらくらする中、自分が何を口走っているのかもわからない。



「名前、呼んでいいのぉ?」

「……ダメ?」

「…悠志さん…」



名前を呼ばれ、嬉しくなって笑えば、海那が動揺した。
けど、すぐにいつもの…いや、それ以上の笑顔になった。



「悠志さん、可愛い…」



その後、呼ばれた医者が来て、診察すると処方箋を海那に渡して、帰っていった。
その時は、もう熱で声もはっきりと聞こえなかった。



「…………、………………。」



聞こえねぇよ。

さらりと、頬を撫でる手が、オレから離れていく。



「……、………………。」



嗚呼、いってしまう。
独りになりたくない。

鉛のように重い手を動かし、必死に海那を捕まえる。
そしたら、海那が戻って来て…



チュ…



額にキスされた。

まるで、不安を包み込み、安心させるかのように…。

再び離れていく海那を、今度は止めなかった。



「帰ってきたら、治るまでどこにも行かないよぉ…」



―――だから、早く良くなって。



オレは小さく頷き、海那が出かけるのを見送ってから、もう一睡した。



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あきゅろす。
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