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無色ノ噺

〜Side 海那〜



珍しく、悠志さんがお昼頃に帰ってきた。
不思議に思って、インターホンを押すけど、出てくる気配はない。

いつもなら、すぐに出てくるのに…。

心配になって、試しに玄関を開けた。
無用心にも鍵がかけられていなかったので、お邪魔しま〜す、と言いながら入ると、乱雑に置かれた仕事用のバックと、微妙に開いた寝室のドアが目に入った。

どうしたんだろう?



「お兄さん?」



静かに寝室に入ると、脱ぎ捨てたままのスーツが散らばり、荒い呼吸を繰り返して眠る悠志さんがいた。



「!」



まさか、と思い額に手を当てると、とても熱かった。



「…なんでオレ気づかなかったんだろ。」



こんな高い熱出して…。
なのにオレは気づかなかった。

大好きな人の体調不良にも気づかないなんて…。



「マジ、つかえねぇ…。」



こんなんじゃ、また好きな人を失ってしまう。
二度と…、もう、二度と繰り返したくないから悠志さんからの言葉を待っているのに…。

ネガティブ思考の頭を振り、オレは悠志さんの看病をすることにした。



「オレって、いつからこんな弱い奴になったんだ…。」



自嘲気味に笑って、看病に専念する。

額のタオルはすぐに熱で温まり、何度も氷水に浸けては、絞って、乗っけての繰り返し。

汗で張り付いた髪をどけ、自分の手で悠志さんの熱を吸収してみた。

オレに熱が移ればいいのに…。

その時、悠志さんの瞼がぴくりと動き、目を覚ました。



「あ、おはよぉ、お兄さん。」



びっくりしたように、オレを見てくる。



「ごめんねぇ…。朝、気づけてたら休ませたのに。」

「…ぁ……」



嗄れた声が痛々しくて、本当に申し訳なくなる。

とりあえず、水分を摂取しないと沢山汗をかいたから、脱水症状を起こしてしまうので、悠志さんが寝ている間に買ってきたスポーツドリンクを渡した。

億劫そうな動きに、これは医者に見せなきゃやばいな、と思った。



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