無色ノ噺
勤務中
いつものように、デスクワークをしていると、呼出しをくらった。
何だろうと思い、会社のロビーまで出ると…
「ヤッホー、お兄さん。」
「…なんでここに?」
「ほら、忘れ物ぉ。」
渡されたIDカードに、礼を言えば、海那は手をひらりと振って帰ろうとしたが、体のバランスを崩してしまった。
「海那!」
「ゴメ…ふぁ〜最近、忙しくて眠い…」
「うちの仮眠室で寝ていけ。」
「いや、悪いよぉ。」
「構わねぇよ。第一、そんなんじゃ車に轢かれんぞ。」
オレは海那を仮眠室に連れていき、焙じ茶をいれた。
「…店でなんかあったのか?」
「ん〜…。オレNo.1ホストだったんだけどぉ…」
「越されでもしたのか?」
「いや、寧ろ昇進?」
「は?」
「今週からオーナーになっちゃったんだぁ。」
………マジか。
「それで、引継とかぁ…新しいイベントとかぁ…まぁ、いろいろやってんだけど、さ。」
「そりゃ大変だな。とにかく、今は休め。持つもんも、持たねぇぞ。」
「うん。…ありがとぉ。」
「………。」
そう言って、海那は目を閉じた。
化粧もしてねぇのに、やたらと綺麗な顔は、たしかに疲れているが、それさえも美貌をいっそう引き立てるものになっている。
それでも、その影が気に入らない。
優しいコイツのことだ。
オーナーになって、一ホストだった頃と違って、全ての行動に責任があり、苦しくても一人で堪えてんだろう。
「…馬鹿が。けど、営業マンじゃ、何の手助けも出来ねぇしな。」
さらりと海那の柔らかな栗色の髪を撫でた。
ホント、馬鹿だ。
そんなお前だからオレは…
チュ…―
「……何してんだ、オレ。」
愛しさが込み上げてきて、思わずキスをしてしまった。
恥ずかしくなる前に、自分に呆れた。
思わず、でキスするほど、オレはコイツに惚れてんのか…?
「ハァ…仕事しよ。」
オレは、海那へ置き手紙を書いた後、自分の仕事に戻った。
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