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無色ノ噺


しまった…。
IDカード忘れた。



「すみません、」

「はい。あ…、昨日の。」



美人な受付嬢は、頬を赤く染めている。

たしか、昨日の合コンの席にいたな。



「どうも。二日酔いにはなってませんか?」

「は、はい!風間さんが、先輩たちを止めてくれたので…」

「いえいえ。」



わかるかもしれないが、オレは猫を被っている。
あの口調の悪さじゃ、社会では生きていけない。
その道の人なら別だがな。



「あぁ、そうだ。今日ID忘れちゃって…。」

「あら、風間君。」



振り返ると美人なお姉様が、IDを見せていた。



「おはようございます。」

「おはよ。どうしたの?」

「IDカード忘れてしまったようです。」

「珍しいこともあるのね。」

「まぁ、人間ですから。」



結局、受付嬢の子が、出勤登録を直にしてくれて、なんとかなった。



「よかったわね。」

「はい。」

「たしかあの子、あなた狙いの子よ。」

「へぇ…。」

「反応薄いのね。私もその一人なんだけど?」

「嬉しいです。でも、僕なんかには勿体ないですよ。」

「……好きな子でもいるのかしら?」



脳裏に浮かぶ、海那の姿。



「…まぁ。片思いですが。」

「あらあら。意外とピュアボーイなのね。どんな子?」

「…秘密ですよ。」



オレは苦笑した。
だって言えるわけない。
相手が男で、ホストで…誰よりも好きなんだって。

それでオレがどう見られようが構わないが、あいつは駄目だ。
職業柄というのもあるし…。



「気になるわねぇ…。」

「駄目ですよ。それに知ってますよ。先輩、今度婚約するんでしょう?」

「耳が早いのね。それとも、あの人が言ったの?」

「いえ、二人の雰囲気と同僚の女の子たちの噂ですよ。でも、部長、あんなに先輩見て、ニコニコしてるんですから、バレて当たり前ですよ。」

「もう!」



幸せそうな先輩を見て、オレは微笑んだ。



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