無色ノ噺
2
しまった…。
IDカード忘れた。
「すみません、」
「はい。あ…、昨日の。」
美人な受付嬢は、頬を赤く染めている。
たしか、昨日の合コンの席にいたな。
「どうも。二日酔いにはなってませんか?」
「は、はい!風間さんが、先輩たちを止めてくれたので…」
「いえいえ。」
わかるかもしれないが、オレは猫を被っている。
あの口調の悪さじゃ、社会では生きていけない。
その道の人なら別だがな。
「あぁ、そうだ。今日ID忘れちゃって…。」
「あら、風間君。」
振り返ると美人なお姉様が、IDを見せていた。
「おはようございます。」
「おはよ。どうしたの?」
「IDカード忘れてしまったようです。」
「珍しいこともあるのね。」
「まぁ、人間ですから。」
結局、受付嬢の子が、出勤登録を直にしてくれて、なんとかなった。
「よかったわね。」
「はい。」
「たしかあの子、あなた狙いの子よ。」
「へぇ…。」
「反応薄いのね。私もその一人なんだけど?」
「嬉しいです。でも、僕なんかには勿体ないですよ。」
「……好きな子でもいるのかしら?」
脳裏に浮かぶ、海那の姿。
「…まぁ。片思いですが。」
「あらあら。意外とピュアボーイなのね。どんな子?」
「…秘密ですよ。」
オレは苦笑した。
だって言えるわけない。
相手が男で、ホストで…誰よりも好きなんだって。
それでオレがどう見られようが構わないが、あいつは駄目だ。
職業柄というのもあるし…。
「気になるわねぇ…。」
「駄目ですよ。それに知ってますよ。先輩、今度婚約するんでしょう?」
「耳が早いのね。それとも、あの人が言ったの?」
「いえ、二人の雰囲気と同僚の女の子たちの噂ですよ。でも、部長、あんなに先輩見て、ニコニコしてるんですから、バレて当たり前ですよ。」
「もう!」
幸せそうな先輩を見て、オレは微笑んだ。
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