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無色ノ噺
三話

おらとシノ様が、お付き合いを始めてから八ヶ月。
季節は冬になっていた。

この季節はシノ様が大好きな季節であり、危険な季節だ。
でも、今年は何故かいつもより元気なので、かなり暖かい格好をしたうえで、雪見などをした。



「綺麗だね。」

「はい。あ、お餅焼けましただよ。」



暖かいおしるこに、お餅を落として食べるのが好きだと、シノ様はいう。



「庭の隅に寒椿が咲いてるのがまた良いんだ。」

「たしかあれは、シノ様が植えられた椿ですだよね?」

「そう。私のお気に入りだ。」

「………。」



なんか面白くない。

ぐるぐると気持ちが不快に渦巻く。
それが顔に出ていたんだろうか。
クスクスと笑うと、シノ様はおらを抱きしめてきた。



「でも、一番はタツだよ。タツに比べたら、他はいらないくらいだ。」

「…シノ様、なんかごめんなさい。おら、別に…」

「私は嬉しいよ。タツが椿にまで嫉妬してくれて…。」

「し、っと?」

「あぁ、無自覚だったかな?心がもやもやしただろう?それで少し不快な感じ…。それが『嫉妬』だよ。」



…そうなんだ…。

すっきりしたと同時に恥ずかしくなった。
椿にすら嫉妬してしまった自分の小ささに。



「私も嫉妬するよ。」

「え?」

「片時でも、タツがいないと全てに嫉妬する。タツを私から遠ざけるもの全部に…。」



洗濯物にもね、と言った時には笑ってしまった。

その夜だった。



「…タツ、」

「はい?」

「タツ、タツ、タツ…」

「シノ様?」



どうも様子がおかしい。
だから、おらの部屋(シノ様の部屋と襖を隔てた隣の部屋)の襖を開けた。

そしたら、おらに覆いかぶさるように押し倒された。



「し、し、シノ様ぁ!?」

「タツ、タツ…怖い。怖いんだよ。死神の足音が日に日に近づいてくる…。」



―――日に日にタツから遠ざかる。



震える体を、おらは抱きしめた。
それぐらいしか、おらには出来ないから。



「シノ様、大丈夫ですだ。大丈夫。おらは何があろうと、シノ様のお側にいますだ。」

「死が二人を分かつとも?」

「はい。お側にいます。」



なら…、とおらを押し倒したまま体を少し離すと、シノ様は言った。



「契りを交わそう。」

「!」

「死が二人を分かつとも、共にいてくれるのだろう?」

「…はい。おらはシノ様のお側に…ん、んむ…」



初めて本当のくちづけを交わした。
シノ様の唾液がおらの喉を通って、身体に染み込んでいく。

その夜、シノ様におらはハジメテも、なにもかもを捧げた。



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あきゅろす。
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