お互い様だろう?(ナルミツ) 「暑いな…」 思わず呟く。 口にすることで体感温度が上がってしまう気がするので、なるべく気温云々で愚痴を溢さないようにしているのだが、今日はダメだった。 何故なら、今日は記録的な猛暑。 空を見上げれば、音がしそうなほどギンギンと、凶悪な太陽が照りつけていた。 コンクリートの地面は、まるで鉄板のようだ。 吸い込む空気も熱されていて、身体の内部も焼けるようだった。 検事局の、クーラーで冷えた執務室に帰りたい。 が、そうもいかない。 「一緒に近くの喫茶で、昼食を摂ろう」と、恋人に誘われたからだ。 指定の時間まであと少ししかない。 早足で歩いていると、たちまち汗がポタポタと垂れてきた。 ハンカチでそれを拭う。 こんな日、恋人である彼なら、だらしなくシャツをはだけて「暑い暑い暑い」と連呼していることだろう。 暑い、と言葉にしても、現状は何も変わらないというのに。 そう言うと、「暑いから暑いって言って何がいけないんだよ!」と異議を唱えられたことを思い出す。 熱く異議を語りすぎて、最後には倒れ、氷嚢のお世話になっていた。 あのときは、暑さにやられた彼が哀れに思えてしょうがなかった。 …まあ、そんな彼を愛しく思う自分もいる訳だが。 暑さに耐えきれず赤のスーツを脱ぐが、それでも足りず、シャツの袖を大きく捲った。 ついでにフリルタイを外そうと首に手をかけて…やめた。 フリルタイの下には、赤い痕。 脳裏に映るのは昨日の夜のこと。 お互いに求めあった記憶が、鮮明に流れる。 彼のことだけ覚えていればいいというのに、脳は自らの痴態をも思い出す。 急速に顔が赤くなるのがわかる。湯気が出そうだ 気温と相まって、今なら顔の熱で目玉焼きが焼けるかもしれない。 ガスも電気も要らない。彼と私の自家発電。 …こんな変なことを考えるのは、やはり暑さのせいか。 「いや、貴様のせいだ、成歩堂…っ!」 タコのように真っ赤な顔で、苦々しく呟く。 仕方なくフリルタイはそのままに、軽く頭を振って恥ずかしい記憶を追い出し、私は脳内で彼に有罪判決を言い渡した。 職業病なのか、頭が煮えたのか、恋人への罪状と刑罰をきっちり考えながら、喫茶店へと急いだ。 クーラーの効きが悪い店内で、彼はぴっちりとネクタイを着けていた。 ―お互い様だろう?― 成歩堂にもがっつり痕残しちゃってる御剣。 二人が仲睦まじいと、私も嬉しい← みっちゃんのフリルタイネタでした。 ←→ |