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夢の中の貴方



「なまえ……お前はいつか誰よりも優れた魔女になる」
『ほんと?おとうさま!!』
「あぁ、勿論だ」
『おとうさま、あたしがんばるわ!!』


幼い頃の夢を見た。夢の中で、なまえは父親と言葉を交わしていたようだ。
しかし、この夢は捏造に過ぎない。
何故なら、なまえには両親の記憶が無いのだから。顔も、声も、何一つ覚えていない。夢の中の父親だって顔が見えない。ただ、夢の中の父親は、なまえに向けて笑みを浮かべている、それだけは確かだと感じ取れた。
何故だかこの父親に懐かしさを感じているような気がする。
そして父親の手がなまえに伸びたところで目が覚めた。










「どうしたの?なまえ」
『え、あぁっ!!』

リリーの問いで我に返ったなまえは、危うく手に持っていたミートパイを落とすところだった。いつのまに大広間へ移動したのだろうか、今朝の夢が頭から離れない。
空いていた手でキャッチしたミートパイを皿に乗せ、ふぅと息を整えて顔を上げれば、目の前に座るシリウスがくつくつと笑っている。なまえの視線に気づいたシリウスは「悪い悪い」と言って悪戯な笑みを見せた。
この人は、昨日自分の言ったことを忘れたのだろうか?
まるで何事も無かったかのように、それどころか以前よりも普通に接するシリウスに、なまえは小さくため息を吐いた。けれど、ギクシャクしてしまうよりはましだ、そう思いお皿に乗せたミートパイを手に取り、もう一度口に運ぶ。
すると、隣に座っていたリーマスが笑みを浮かべながら言った。

「それ、一口くれない?」

いつの間にかテーブルのメニューはデザートに変わっている。
「駄目かな?」と眉を垂らすリーマスがなんだか子供みたいで、なまえはクスリと笑いながらミートパイをリーマスの口元に運んだ。

「ありがとう、美味しいね」
『どう致しまして』

嬉しそうなリーマスに釣られてなまえも微笑んだ。
再びミートパイを食べようと顔を上げ前を見れば、シリウスがあーんと口を開けている。なまえは負けず嫌いなシリウスに呆れ半分可笑しさ半分で小さく笑うと、ミートパイを皿に乗せて差し出した。

「そっちまでは手が届かないわよ?」

シリウスは一瞬呆けた顔を見せたが納得したのか自嘲気味に笑いながら一口かじりつく。なまえは返された残りのパイを二口で食べ終えた。










朝食を終え、一同はグリフィンドール寮へ戻るために大広間を出た。
寮に続く廊下の途中、シリウスはリーマスを呼び止める。リーマスは訝しげな表情を見せたが、すぐにいつもの人好きする笑みに変わっていた。他の者が先に行くのを見届け、シリウスは口を開く。

「俺がお前に言うことは一つだ」

向かい合った二人の周りを静寂が包んでいる。

「それは僕にとってプラスなこと?」
「さぁな。ある意味プラスなんじゃないか?」
「どうせなまえのことだろ?君が僕に話だなんてそれくらいしか思いつかないさ」
「お前は話が早くて助かるな……ああ、そうだ。俺はもう迷ったりしない。遠慮もしない」
「元々遠慮なんてしてないだろ?」

リーマスはふふ、と笑いながら歩み寄りシリウスの肩に手を置いてぽつりと呟く。

「僕だってそう簡単に好きな子を諦める性格してないよ」

そして寮とは反対の方向へと歩き出した。どこへ行くのかと問えば、気分転換に図書館へ行くと言ってまた背を向ける。
リーマスの姿が見えなくなると、シリウスは暫くその場で宙をぼんやりと見上げていた。


あきゅろす。
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