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自覚する恋心




『っはぁ…はぁ…』

なまえは自室に戻ってきていた。ドレスのままベッドに寝転び、顔を枕に埋める。
シリウスと、キスをした。
思い出したなまえは、また全身に熱を帯びる。首を振って頭の中に浮かぶ先程のことを追い払おうとするが、唇の感触がそれをさせてくれない。
唇の端が仄かに鉄の味。








「なまえ、起きて!!」
『……ん、ふぁ〜』

欠伸をしながら起き上がると、窓の外に光が垣間見える。
ハッと辺りを見回せば、リリーが呆れ顔で立っていた。どうやらそのまま寝てしまったらしい。

「ほらなまえ!!顔を洗ってきなさい?」
『……ふぁーい』

まるで母親のような物言いに、なまえは笑いそうになったが、これ以上リリーの機嫌を損ねないようにと大人しく洗面所へと向かった。
着替えも済ませ談話室へ行く。昨日のダンスパーティーのこともあり、起きている生徒は少ない。
談話室の中心部でジェームズが、待ってましたとばかりに仁王立ちをしていた。

「おはようリリー!!今日も朝から綺麗だね!!」

ボサボサ頭のジェームズに、リリーは顔をしかめると手鏡を渡した。

「それ、早く直しなさい?」
「え、どこだい?」
「ここよ。ここ」

いつものようなきつい言い方ではなく、どこか優しさを帯びたそれに、なまえは微笑んだ。
しかし、次に視界に入った人物を見てビクッと肩を震わす。

「……おはよう」
「やぁシリウスおはよう!!」

シリウスが髪を掻き上げながら、階段を降りてきたのだ。なまえは咄嗟にリリーの半歩後ろに移動した。
ドンッ。
誰かにぶつかり振り向けば、そけにいたのはリーマス。

『あ、ごめんなさい!!おはようリーマス』
「おはよう、なまえ。昨日はどうしたの?急にいなくなったから心配したよ」

リーマスの言葉に昨日のことを思い出す。シリウスのことばかり考えていたせいでリーマスのことを忘れていたのだ。

『ご、ごめんなさい!!急に具合が悪くなっちゃって』

笑ってそう誤魔化すと、リーマスは「大丈夫?」と心配そうになまえを見た。リーマスを騙しているという罪悪感で、口元が轢きつる。

「あれ?シリウス、唇が切れてるよ?」

ジェームズが突然そう声を上げた。自然となまえの視線がシリウスにいく。運悪くシリウスもなまえを見ていた為に、二人の視線が交わる。しかしすぐにシリウスがふいっと逸らした。

「……なんでもない」
「冷やさなくていいのかい?」
「あぁ、大丈夫だ」

ぶっきらぼうに言ったシリウスは先に談話室を出て行った。なまえはシリウスの背中を見つめながら眉根を寄せる。








「シリウス。君、一体どうしたんだい?」

ミートパイをぼろぼろこぼしながら、ジェームズがシリウスに尋ねた。
大広間にはやはり人数が少なく、なまえたちの周りはガラリと空いている。
なまえはリリーの隣に座り、リリーの目の前にジェームズ、なまえの前にリーマス、そしてその左にシリウスが並んでいる。

「なんでもねぇよ」
「なんでもなさそうじゃないから聞いてるんじゃないか」

明らかに不機嫌なシリウスに、ジェームズがため息を吐いていた。

「俺、先に戻ってるから……」

そう言ってシリウスは席を立つ。去り際に一度、シリウスはなまえを一瞥するが、なまえは気づいていない。
シリウスが去った後、ジェームズとリリーがシリウスの態度の原因について討論を始めていた。

「あれはきっと、チェルシーと何かあったんだよ」

ジェームズがクスクスと笑いながらさりげなくリリーの隣に移動しようとするが、結局それはリリーによって征される。

「どうしたんだろうね」

リーマスがため息混じりに呟いた。
なまえは目の前にあったカボチャジュースを手に取るとそれを勢い良く喉に流し込み、小さくため息を吐いたのだった。








「…くそっ!!」

自室のドアを乱暴に閉めると、シリウスはベッドに倒れ込んだ。仰向きになって右手を頭の後ろに組む。
ぼんやりと宙を見つめながら、空いている左手で唇をなぞると、切れている部分が微かに腫れていた。

「……何故だ」

何故俺はなまえにキスをした?
シリウスにとって、なまえとのキスは初めてのキスというわけでもなく、ましてやあんなフレンチキスは特に恥ずかしがることもないくらい慣れたものだ。なのになまえとのキスは、今までのどんな女の人としたキスよりもドキドキして、後悔と羞恥の気持ちが膨れ上がるようなものだった。
リーマスに嫉妬して、リーマスに敵対心を抱いて。

「まるで、なまえが好きみたいじゃねぇか」

ぽつりと呟かれた自分の言葉に、シリウスはもう一度唇をなぞっていた手を止める。

「俺が、なまえを?」

……好、き?


あきゅろす。
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