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迷いと感情




「なまえ、ちょっといいかな?」

数日後のこと。談話室でリリーと共に魔法薬学の課題と睨めっこしていたなまえに、リーマスが声を掛けた。なまえは羊皮紙をくるっと丸めて、リーマスの後に続き談話室を出る。
廊下に出ると人通りはなく、まるで二人だけの世界のようだった。

『あそこでは言えないこと?』
「言えなくもないけど、雰囲気が欲しいからね」

ふんわりと微笑んだリーマスが、突然なまえの頬を撫でる。

『な、何?』
「ダンスパーティーのパートナーはもう決まった?」
『ま、まだだけど……』
「よかった」

再びふんわりと微笑んだリーマスは頬から手を離し、真っ直ぐになまえを見つめる。

「僕のパートナーになってくれないか?」
『え?』
「駄目、かな?」
『駄目じゃないけど……』

躊躇う理由は一つ、なまえはリーマスが何度かレイブンクローの女子生徒に誘われるところを目にしていた。

『でも、あなた他の子に誘われていなかった?』
「断ったさ。たかがダンスパーティーかも知れないけど、僕は好意の無い相手と組むつもりはないからね」
『だからってあたしじゃなくてもいいんじゃない?』
「君じゃなきゃ駄目だよ。言っただろ?好意の無い相手とは組まない、って」
『それって……』
「もちろんそのままの意味だよ。僕は君に好意を抱いている、ってことさ」

それを言ったリーマスはなまえの頬に優しく口づけて、「答えはまた聞くよ」という言葉を残し去っていった。残されたなまえは、嵐が過ぎ去ったように静かになった廊下で一人、頬を赤く染めたままリーマスの口づけた箇所が熱くなるのを感じるのだった。
しかし、誰もいないと思っていた廊下に突然足音が聞こえて、なまえはハッと振り向く。

「やるなぁ、リーマスの奴」
『盗み見なんて悪趣味ね』
「俺は“偶々”居合わせただけだぜ?」
『……嘘つき』

そこにいたのは壁に背を預け腕を組み、横目でなまえを見るシリウスだった。

「どうするんだ?」

どうやら一部始終を見ていたようで、悪戯っぽい笑みを浮かべている。

『どうするって』
「お前はリーマスのことが好きなのか?」

先程とは打って変わり、吸い込まれそうなくらい真っ直ぐになまえを見つめる灰色の瞳。

『……どうしてそんなことをあなたに言う必要がある?』
「それもそうだな」
『……でも、彼は本当に魅力的だと思う』

なまえがそう言えば、シリウスは眉間に皺を寄せてなまえの元に歩み寄った。

「それじゃあ」

シリウスが、なまえの立つ後ろの壁に手をつく。その手に挟まれたなまえは、次第に近くなるシリウスの顔を真っ直ぐに見つめた。

「それじゃあ俺はどうだ?」

すでにシリウスとの距離が5cm程しかない。灰色の瞳がなまえを捉えた。

『シ、リウス』

なまえは灰色から視線を逸らし、片手でシリウスの腕を退ける。

『やめて、あたしは他の女の子たちと違うわ!!甘い言葉とか、そういうのは通用しない…』

シリウスの腕から逃れれば、シリウスは寂しげな笑みを浮かべた。

「そのようだな……お前は他の女と違う」

なまえに背を向けたシリウスはそう言い残していった。シリウスの甘い香水の匂いが鼻に残る。









「どうしたんだい?思ったより早いじゃないか」

なまえはその足で図書室へと赴いた。もちろん、リーマスを探して。
リーマスは分厚い魔法史の本をバタンと閉じて、なまえににこりと微笑みを向けた。

「答えは出たのかい?」
『リーマス、あたし』
「ちょっと待って。なまえ、ここに座って?」

リーマスに促され、なまえはリーマスの隣の椅子に腰を降ろす。

『リーマス、あたしはまだあなたの好意には応えられない』
「うん、そう言われると思ってたよ。で、ダンスパーティーの方は?」
『え、あ、えぇ……あたしで良ければ』
「そうか。それなら良かった」

リーマスはなまえの耳元に口を近づけると、「今はそれだけで十分さ」と言って本を片付けに本棚の奥へと消えていった。戻ってきたリーマスと共に談話室へ帰ると、なまえはリリーにパートナーのことを説明する。リリーはリーマスなら安心ね、と笑った。


あきゅろす。
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