異世界の住人 ホグワーツ魔法魔術学校。あたしは今日から、そこの六年生。一年生じゃなくて六年生。 何故って?自分でもさっぱり。だってあたしには記憶がない。 なまえ・みょうじ、それがあたしの名前。16歳、それがあたしの年齢。日本、それがあたしの生まれた場所。 あたしには、それくらいの記憶しか残ってないの。 そして驚きなことに、あたしはこの世界の人間じゃない…って言われたの。 つまりあたしは、異世界からやって来たってこと。 目を開けて最初に飛び込んできたのは、真っ白な天井だった。体を起こしてみると、ベッドに寝ていたようで、ぎしっとベッドの軋む音が聞こえる。 その音を聞きつけて、年配の女性が駆け寄ってきた。 「あら、目を覚ましたのね?今すぐに校長をお呼びするわ!!」 女性がいなくなったその部屋を見回すと、どうやらどこかの医務室のようだ。ふと近くにある全身鏡を覗いた。なまえは頭が真っ白になる。 『……あたし、誰?』 暫くして、先程の女性と共に長い白髭の老人が現れた。 「やっと目覚めたのう。気分はどうじゃ?」 『気分とかのことより、あのー……あたしは一体誰なんでしょうか?』 「なんと…記憶が無くなってしもうたのか」 半月型眼鏡の奥で、キラキラ光っていた目が曇った。 『あのー……ここは?』 「ホグワーツ魔法魔術学校じゃよ」 バチバチ、と一瞬脳に電気が走ったような、そんな不思議な感覚に襲われた。 あれ、なんだろうこの感覚…… 『あなたは……アルバス、ダンブルドア?』 ぽつりと呟いたなまえの言葉に、一瞬驚いた顔色を見せた老人だが、すぐにふんわりと微笑んだ。 「ほぅ。君の言うとおり、如何にも儂はアルバス・ダンブルドアじゃ。彼女はマダム・ポンフリー」 『、?なんで、あたし……』 「君には何か特別な力が備わっているようじゃの?」 『へ?』 「ところで、君は自分のことをどこまで覚えておるのかのう?」 『……いえ、全く』 むぅ、と小さく唸るダンブルドアを横目に見ながら、罪悪感に苛まれる。なまえは無意識に、右手を胸の辺りへと運んだ。こつんと胸元の何かに右手が当たる。 『ん?』 掴んだそれを見てみると、5cm程の小さな鍵だった。先程と同じ衝撃がなまえを襲う。それと同時に失われた記憶のほんの一部が思い出された。 『あたしの名前、なまえです。なまえ・みょうじ、16歳』 「ふむ」 ダンブルドアは嬉しそうに髭を撫でる。そして空いた手をなまえの頭に乗せ優しくぽんっと叩いた。 「よし。明日からなまえ、君はホグワーツの生徒じゃ」 あたしには、まだ完全な記憶が戻っていない。そして、この記憶に隠された秘密を、あたしはまだ知らない。 本当に、あたしは異世界の人間なの? |