小説
和解へのロードマップ(実写)
※「逆らえないの」「愛しきものよ」の続き。
TF3小説エンド。
話題としての妊娠ネタあり。
サバンナでディセプティコンが育てていた雛を、ネストの基地に連れてきてはどうかというオプティマス・プライムの提案は、当然のようにオートボット一同から非難と疑問の声を浴びせかけられた。
軍医から偵察兵からことごとく反対された。
そのことをメガトロンに報告すると、当然だといわれ、オプティマスはますます落ち込んだ。
「………こんなに可愛いのに」
しょげている。
お前のほうが可愛い、とはさすがに言えず、メガトロンはぐるるる、とのどを鳴らすにとどめた。
もう一度見たいというオプティマスの希望で、再びサバンナで、雛たちを周りに遊ばせている。
「今まで通りでいいではないか」
自分の肩にまで這い上ってきた雛を落とさないよう手を添えながら、メガトロンが排気する。
膝の上でくるくるとのどを鳴らしてなつく別な個体の頭を撫でてやりながら、オプティマスが真面目な様子で口を開く。
「いや、オートボットの仲間たちにも、ぜひ見てもらいたい。というか、こんな可愛いものをディセプティコンだけで独占しているのはあまりにも横暴だ!」
「なっ……人聞きの悪いことをいうな! 貴様らオートボットが拒んだのだろうが!」
「私は拒んではいない!」
「だいたい雛たちをこれまで世話してきたのは我々ディセプティコンだ!」
「存在すら知らされていなかったんだぞ!」
「知らせる必要がどこにあった!」
口喧嘩はやがてつかみ合いの肉弾戦に発展するかと思われたが。
「…………やはり、ずるい」
ぽつりと呟かれたオプティマスの言葉に、メガトロンのいらいらは急激に収束する。
「………………貴様に生めるなら、生ませるのだが」
頭にまで上ってきた雛の背を撫でて、慰めるために、半ば冗談のように呟いた。
はっとオプティマスが顔を上げた。
「それだメガトロン!」
「食いつくな」
「私とお前の子なら、みんなもわかってくれる! きっと可愛がってくれるぞ!」
「その前に俺とお前で子ができるはずがなかろう」
「いいや、人間をはじめ多くの有機生命体は雌雄で新しい生命を成すのだ、我々セイバートロニアンとても同じ生命体、生めないはずがない!」
理論の飛躍があることに気づかずまくし立てる。
「待て、プライム、さきほどのはただの言葉の綾で……」
「いいや、もともとセイバートロニアンはオールスパークとマトリクスを用いて新たな生命を生み出したと聞く。マトリクスは私が持っているし、お前のスパークにはオールスパークのエネルギーがある。きっとできるはずだ!」
「おいプライム…!」
膝の上の雛を草の上に置き、メガトロンに向き直る。
オプティマスの青いセンサーが爛々とした光を放っている。
これはまずい、とメガトロンは雛を下ろして少し距離をとろうとした。
「逃げるのか、メガトロン」
「逃げるわけではない。俺にはまだあのプログラムが入っているのだぞ」
反逆防止プログラム。
オートボットによって、ディセプティコンに埋め込まれたプログラムは、オートボットや人間に対する攻撃意志に反応して痛みをもたらす。
メガトロンに埋め込まれたそれはさらに、オプティマスに対する接続意志さえも攻撃意志と見なす。
メガトロンからすれば触れたくても、機体全体に走る痛みによって邪魔されてばかりだ。
「大丈夫だ、私から触れるなら平気なのは実証済みではないか。さぁなにも考えず、私にすべてを委ねるんだ。最後に私の中に注ぐときにオールスパークのエネルギーを性オイルに乗せれば…」
「待て、待てプライム、とにかく落ち着け…!」
覆い被さってこようとするオプティマスの肩を押す。
「だいたい仮に貴様と俺の子ができるとして、それをお前の仲間が認めるわけないだろうが!」
「……大丈夫だ、できてしまえばこっちのものだ!」
「既成事実作ろうとするんじゃないわ! …っ!」
オプティマスを殴ろうとして拳を固めたところで、メガトロンは低く呻いた。
「…メガトロン?」
「……まったく、貴様に触れようとしても、殴ろうとしても作動しおって…」
「………メガトロン、私との子を成すのは、それほど嫌か?」
メガトロンの膝に手をかけ、下から顔を覗き込む。
意図しているわけではない媚態に、メガトロンは目眩を覚える。
「嫌なわけがないだろう、………オプティマス」
なるべく劣情を抑えてオプティマスの頬に触れる。
ちり、と一瞬痛みが走ったが、攻撃意志とは見なされなかったらしい。
「だが本当に我らの子を成したいなら、それなりの下準備も必要になるだろう? ディセプティコンは俺が言えば従うが、お前たちはそうはなるまい?」
「…私は、ディセプティコンとオートボットを、真の意味で和解させたいのだ」
オプティマスが寂しげに呟いた。
講和が成ってそろそろ1年になる。
小競り合いは減ってきているほうだろうが、それでも根本的なしこりはまだ消えない。
「ならばなおさら、強行手段をとるべきではない。それくらい、お前ならわかっているだろう?」
細心の注意を払ってオプティマスの頭を撫でる。
メガトロンからの接触に、オプティマスは心地よさそうに目を閉じた。
「………そう、そうなのだが…」
「もし仮に、お前が俺との子を宿したとして、それが生まれでる前に歓迎されなかったり、ましてや無理矢理命を絶たれたりするような事態になったらどうする」
「!」
驚いて顔を上げるオプティマスの目を覗き込む。
「焦るな、オプティマス。我らにはまだ時間はある」
「……そうだな、メガトロン。お前の言うとおりだ」
メガトロンの胸にもたれ、オプティマスは肩の力を抜く。
がっしりとした腕に支えられ、全身でメガトロンのスパークの波動を感じる。
この心地よさを一時のものにしないためにも、なんとかしなければ。
オプティマスは微睡みながらブレインの隅で思った。
そんなやりとりがなされてから数日後。
サム・ウィトウィッキーは不思議な光景を見つけた。
格納庫の隅に積んであるコンテナに向かってオプティマスが座り、何かをじっと見ている。
が、下から見上げても、オートボットの司令官が一体なにを凝視しているのかわからない。
「…オプティマス?」
「“今朝から”“ずっと”」
「今朝から?」
自分を乗せてきたバンブルビーがラジオの音声で答える。
「オプティマスはなにをしてるんだ?」
バンブルビーを見上げても、彼も知らないようで肩をすくめるジェスチャーをして見せた。
「やぁ、サム」
そんな会話をしていると、オプティマスが気づいてサムの方に顔を向けた。
「やぁオプティマス。さっきから熱心に何か見てるみたいだけどどうしたの?」
「本を読んでいた」
「本? 本って、紙の?」
「ああそうだ」
「…どんな本を読んでるの?」
まさかオプティマスに限って、ベッドの下に隠しておくような種類の本を見ているわけはないだろうとは思うが、高度に発達した機械生命体の彼がそれほど熱心に読む本はどんなものか気になった。
「『ドイツ・フランス共通歴史教科書』だ」
「教科書!? なんだってそんなものをいまさら読んでるの?」
オプティマスたちオートボットは、地球に来た際に、WWWを通じて地球上の言語や主な知識を得ているはずだ。
その中にはもちろん人類の歴史についても含まれているはずだ。
「人類の歴史は、対立の歴史だった。今でもいくつもの対立は続き、地球上で悲劇を引き起こしている。しかしながら、同時に人類の一部は、和解することでより素晴らしい成果を享受する道も得た。特にそれが顕著なのがドイツとフランスだという」
「………うん?」
「先の戦争で両国はそれぞれの陣営の中心として争った。しかし戦後、互いのわだかまりを解消しようとさまざまなプロジェクトが立ち上げられた。その一つが、この共通歴史教科書だ。戦後から現代までの両国と、そして世界史的な視野から見た歴史が綴られている」
「……それで、どうして今になってそんなのを読む気になったの?」
「オートボットとディセプティコンの和解にも、なにかヒントが得られないかと思って読んでいる」
「君たちの?」
「ああそうだ」
オプティマスがきっぱりと頷いた。
「ここ数日、私は人類の和解の経験について学んだ。多くの試行錯誤があり、大変参考になった。両者から見た歴史についての共通認識を探るというこの試みは、その中でも特に優れていると思われる」
大真面目に、けれど熱を入れて語られ、サムは苦笑した。
「僕にも見せてよ」
「ああ。………すまないが、ここへ来てもらえるか? 私では本を傷つけてしまう」
「え、じゃぁどうやって読んでるの?」
差し伸べられたオプティマスの手のひらの上に乗ってコンテナの上に降り立ったサムは、当然の疑問を浮かべた。
オプティマスは無言で指先を差し出した。
コンテナの上には何冊かの本が積まれ、うち一冊が開かれている。
オプティマスは指先を変形させてごくごく細い金属の棒のようなものを形作った。
それで、慎重にページをめくる。
「図書館の本だから、傷つけてはいけないのだ」
真剣な様子でゆっくりとページをめくりながらオプティマスが解説する。
「図書館の本って………君が借りてきたの?」
「レノックス大佐の名義を借りた。図書館に頼めばここへ届けてもらえる」
「…名義を借りた? レノックスに頼んだんじゃなくて?」
「彼はカードをなくしている。学生時代に作った記録がデータベースに残っていたので、WWW経由でそれを使った」
「ハッキングしたのか!」
「サム、我々にとって人間のセキュリティは意味をなさない」
「それにしたって!」
「それに我々では本を借りることはできない」
「……それは、そうだけど。WWWに接続できるならそっちでやればいいじゃないか」
「データベース上にある情報はすべてアクセスした。あとは電子化されていない情報はこうして紙から得るしかない」
「……それで、そんな真剣に読んでるの」
データベースの中の情報を読みとるのは簡単にできるくせに、実際の紙媒体だと赤ん坊のように苦労している。
そう考えるとなんだか楽しくなってきた。
「オプティマス、手伝おうか?」
「いいのか、サム?」
「いいよ、ページをめくるのは、僕の方が得意そうだからね」
オプティマスの前にどっかりと座り、サムは本を取り上げた。
「では1秒に1ページのペースで頼む」
オプティマスに言われ、サムは膝で支えた本のページをめくっていった。
あとがき。
このシリーズで一番書きたかったとこが書けた…!
とはいえ、まだまだ続きます、これ。
さきにばらしとくと、メガオプ妊娠ネタにつながります。
メガオプの子供が大きくなるころには、ボッツとディセップの間にもわだかまりがなくなって、本当の意味で平和になっているといいな。
にしても、前半のメガオプのギャグっぷりはどうしたらいいんだろう…
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