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*8

頭を一つ力強くと縦に振り、横幅広げた唇の両端を持ち上げるナルトの破顔が朝陽よりも眩しい。

「うっし!、そんじゃ気合い入れて育てっか!?」

俺達の愛を……か?

「…ナル──‥っう」

名前を呼ぶ途中
ナルトの頬へと伸ばした指が離れ、後髪が床に散り、軽い痛みが走った。

立ち上がり遠くを眺めて握りしめる掌、精悍な顔付きで奮起し再び頷くナルトの側で半身を起こせば直ぐ、ナルトには俺の意思が疎通していなかったと知らされる。


「オレってば、実はサスケってスイカ好きじゃねーんかなって思ってたんだ。ホラ、お前さ甘いモンはキライだっつってたし。」
「──……。」
「この間もあんま食わなかったろ?」

確かに好物と言う訳じゃねーが、それはお前が思った以上に食っちまったからだろが。

「スイカ食ってから、何かグッタリして寝ちまったんも、キライなモン無理して食ったからかなって…」

あの日は日中暑かったからと前日の任務での疲労が溜まってたから……それもあるが、そうじゃねェ。
いくらスイカという餌があったとしても、お前を家に呼ぶのに何て言ったらいいか…、と冷却を強めた冷蔵庫に西瓜を入れ置いた早朝からずっと悩みに悩んでいたんだ。
そしてやっと連絡が出来たんだが……、お前が同じ屋根の下にやって来てからは緊張と胸が張り裂けそうな高揚とで一杯となっちまい、平然を装うのに気遣い……ーーだったからな。

お前の笑顔を見、持て成してやったという満足感からなる安堵より、それまでの心労みたいなもんが夕刻時の涼しい外気に露となってしまったのだろう。


「オレさ、いつも冷めてるお前になーんか意地んなっちまってスイカ育てるとかって毎日、お前の庭に来てたけど…スイカ一面の庭んなったらスイカキライのサスケにとっちゃあ、ちっと迷惑なんじゃ…とか思ったりしてな。サスケ、オレがスイカの種に水やりに来るよーになってから機嫌も体調も悪そーだし…」

それはナルト。
お前が西瓜ばかりに囚われ、俺の存在を無視するからだ。……──こんな事は決して口に出来ない俺の勝手たる期待と独断からくるストレスに過ぎない。
お前がやって来る度に高鳴ってしまっていた。この伝えたくても伝えられない想いに逡巡していた。連日の見舞われる暑さに気怠さを感じながら、混沌と熱気に揺らぐ土騰る水蒸気さながら気持ちや気分をも眩ませていた。
だがな、ナルト。
そんな中で俺も奮起したんだぜ。

「だからな、だから…芽も出ね―し、あんな風に言っちまった手前あって切り出せなかったんだけど…ーー、実はさ、もっいっかなって思い始めてたんだ。でも芽ェ出た今は、やっぱよかったって!」

出ていたんだよ。

お前は知らないし知られちゃ不味いが最初っからな。

「けど、芽出たの見てスイカだらけの庭を想像してサスケ具合悪くしたんかなってさっき思って、だから訊いてみたんだ。」

そうか。
……俺の事、心配し続けてくれてたんだな。しかし俺はそんな西瓜畑な妄想なんざ一度だってした事ねーんだぜ。

「まだ小せェけど芽も出たし、サスケもスイカキライじゃねーってわかったかんな!あとは張り切ってここをスイカの名産地にしてやるだけだってばよ!!」
「フッ……、せいぜい頑張れ。」

「ッしゃあァ――!!
このうずまきナルト様が、花ァ咲かせて実ィ真ん丸に膨らませてやっかんな!」


石段向こうのビニール被る西瓜の芽に向けた布告は必ず西瓜に伝わるだろうよ…。


ナルトの明るい笑顔に忘れていた暖かい気持ちが蘇る。
お前の一生懸命な姿はいつも俺を動かせる。

立ち上がり履物に足先を滑らせ並ぶと、小さく笑い、ナルトの肩に片腕を回しポンと一つ叩き。跳ね上がって宙に浮いた掌を侭に落としてナルトの肩を掴み、抱き寄せようとしたがグッと握り込んでポケットに納めた。

今ならはっきり見える。ナルト、お前をどれだけ好きか、必要なのか──‥。

俺もお前が西瓜を大事育てるように、お前への想い育てるとしよう。口に出さずとも伝わるように、実るように…とな。


「ぜってェうめーって唸らせてやっかんな!」

「フン、…どうだかな。」

「植物はなァ、素直だから思いが通じんだって、カカシ先生がウッキーくんくれた時に言ってたし、思いが通じたから芽が出たっつーのをお前も確認したばっかだろがァ!」

「だからと言って美味くなるとは限らない」

「だぁァアアアア―ッ!!少しはオメーもスイカを見習って素直になりやがれってばよ!…じゃなきゃ、伝わんねーかもじゃんか!!オレもサスケが好きっつーコトがよ!!…――って、あッ!」

「!!?」

しまったと言った具合で両手で塞がれた口元。みるみる内に真っ赤となる顔。金色の頭の天辺からは今にも蒸気が立ち昇りそうなくらい耳迄も紅く──。

言葉が喉に詰まり、身動きも出来ずに突っ掛けた履物で地べたを踏みしめる俺の頬も同じ彩りに染まってる感覚がする…



暫くしたら、今のお前の顔のように真っ赤に染った甘い西瓜が実るだろう。
品種を選び栽培用の西瓜の苗に植え変えたんだ、間違いない。

そうしたら、また縁側に並んで一緒に食べて種を蒔こうか。


今度は小賢しい真似をしなくたって、実る。例え姿形や味が悪くとも…だ。


信じていれば通じ合えると知った、二人が一から協力して育てるのだからな。






<おしまい>





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あきゅろす。
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