#3
「雨ん…――坊?」
逸早くと横流した瞳孔に映ったのは濃度は違うが、同じ青。
呼びかけに反応して向けられたのも、雨ん坊と同じく切れ長い漆黒。
双方の似て非なる目付きと視線を交わせば、何処か優しくも憂いた何も云わずな黒が、ずっと探し続けていたものに見え。ナルトは幻術とも云える魔法がかった空間に意識を溶かした。
(……きっと、
オレの心を読み取った雨ん坊が、サスケを呼び寄せ、連れてきたんだ、空に帰る前に――…。)
異世界に近い不思議な空間で見せたいと思っていた事を、一件で叶ったのだ…と、前向きで都合良い方向の思考でそれを疑いもせず……
そう完璧に決めつけたナルトは、湿った雨空へと微笑み「…ありがと」と呟いて、隣で身を浮かせて同じ空間に漂い浮かぶ愛おしい人と手を繋いだ。
湖面を渡る風が薄れ行く霧を吹き晴らし、空を覆う灰色の雲を千切る。ぴちょん‥とナルトの頬に一滴の雫を落とした形崩す雨雲が、雨ん坊の行方を知らせてくれた気がした。
「こうしてっと染まっちまうみてーだな…‥」
「…何にだよ?」
「雨の色、だってばよ。」
「…‥‥―――。」
橙色と濃青色を並べて浮遊したまま、雨上がりの空を眺め、溶けゆく――…
ぷかり、ぷかり。
ふわり、ふわり。
時間を忘れたように水面に漂う。
海月のように
色彩を透かせて…‥
やがて目映い陽を招き入れ、青い絵の具を広げる空が七色のパレットを造り出すと、縁重なる二つの波紋にまでも反映し、二人を静かに染めた。
「雨ん坊、空に帰っちまったんだな。あのキレイな虹…渡ってさ。」
これには何とも返答出来ずと唇を噛み締めたサスケではあったが、発想の幼さをフッと鼻でせせら笑い。後に繋いだ手を強くと握ってナルトを己へと強引に寄せつけた。
「うあっ!」
バランスを崩したナルト身を立て直すように抱擁し、縦並んだ密着を片手で護る。見詰める碧に溶かされそうな漆黒なる眼差しを照らしつつ、頬へと伸ばした掌を固定させて親指で濡れた目許を撫ぜ…
「‥…そうかも知れない…」
先の返答を小声で預け微かに笑み、それを象る唇をナルトの唇へと深く重ねた。
「――ん……ふ‥」
唇を塞いだまま背倒し湖水へと誘い込めば、逆形を招かれたナルトもサスケの腰に両腕を回して互いの呼気を織り交ぜる。
そうして水面に映った七色を崩す輪冠に色素を揺がせ、ゆらり、ゆらりと沈み落ち行く‥……――
陽光が射す透明に近い水色へと直下し混ぜ合う、寒色と暖色。二人の吐息を爆ぜた小さな泡沫が唇の隙間から漏れ、水面に浮上しては虹色へと滲む。
一人佇み飛び入りた、あの日の湖は酷く冷たかったが今は暖かく、鬱陶しいと嫌悪する普段の雨も今日は楽しく。
見下しつつも駆られた僅かな興味と気紛れにより共有した時間が、水彩の温度を変えた。
戯れる
二人の色を
溶かして
浸透させて…―――
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