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#2


初めての体験に夢中になった雨ん坊は、ナルトより先に真新しい水溜まりを求めて走り捲った。
そうする内に何故か対抗心までも沸きだし、逸早くと焦った雨ん坊は、いつの間にやらナルトを先導して水溜まりを踏んでいた。
そして庭内だけでは飽き足らずとした様子で敷地の外へと走り出してしまう。


「あッ!! オイ、待て、待てってば! コラッ!!」


危惧したナルトの声も余所に疾走する雨ん坊。

それを追い掛けるナルトの瞳は、先行く小さな背中のみに集中されて当然と辺りの景色を流していた。

だからか現在
何処をどう辿って追走を続けているのか等、一切を全くと把握しておらず…ーーまた認識すらも出来ず。頻繁に降る大玉の雨に全体の動作を鈍らせつつ、ただただ楕円形の小さな生き物を“見失ったら、いけない“と目を凝らし、散り敷かれた濃霧に暈ける外観を無視して雨ん坊だけを追い続けていた。







一体、何処に連れてかれるのだろう?





距離をも測れず走る最中に脳裏をよぎった、ふとした疑問は漸く走る事をやめた雨ん坊には届かなかったが、終着点となった木板連なる足場に佇んだナルトの目前にその解答が宿った。
碧眼を支配する
雨翳る靄立ちに浮かぶ瑠璃霞む淡水……ーー。
そこへと静聴を注ぐ、錦糸のような五月雨の繊細なる玉露模様が育み行く景観の幽玄に、そこはかとなく記憶は危ぶみ。
元より存在していた場所が不明瞭なものと化し行く。


ーーそうだ、
この貯水はたった今、雨の精霊と思わしき雨ん坊により作り出されたに違いない…。

そんな倒錯的な錯覚に見舞われてしまい、先ほどの言葉も紡げずと吐息を潜め。瞠る瞳に繁栄した圧巻に脱力した腰を落として、桟橋に座り込むと、意識ない声が漏れる。

「こんなにデッケェ水溜まりは初めてだってばよ…」

この時
本当にナルトはそう思っていた。


これは、雨ん坊が大量の雨を集めて造ったデッカイ水溜まりだ…――――と。


根拠はある。

雨ん坊最初に素通りさせた『作ろうか』の一言が、それだ。

そしてサスケにも、この風情ある景観を見せたいと心中に彼の顔を思い浮かべた。


「雨ん坊、お前ってすげーのな!」


綴じた睫毛の端を釣り上げニィと満悦に笑んだナルトは、言いながらに受けた感銘から、思わず加減を忘れて雨ん坊の背中をバシンと叩いてしまい。それによって、バランスを崩した雫型の身が水下へと沈んでしまう。

「あ!、わりィ…」

四つ這う体勢で水面を覗く。……しかし、なかなか浮き上がってこない雨ん坊が酷く心配で堪らない。

「オーイ、雨ん坊ォォーー‥」


そぼ降りに変わった雨音と己の声が木霊する空間に呼応を求む小さな姿はなく。嫌な予感が脳裏に蔓延る前にナルトも、この巨大な水溜まりに身を沈めた。



薄暗い蒼域に
こぽこぽ…と昇る細かい気泡を撒いて、懸命に湖底へと向かう。沈めば沈むほど瑠璃に眩んで行く世界で瞳を凝らし、うろうろと宛なく同色に近い小さな姿の行方を捜す。

声も出せず
息も出来ずな領域を掻き分けて…‥




どのくらいの時間を要しただろう。
…ーーーいくら鍛錬しているとはいえ、数十分も素潜りを続けられない。

息苦しさから限界近くを感じる。

それでもナルトは蒼絣る水深くをよろめき泳ぐ事を止めなかった。己の現況よりも未だに見付けられない雨ん坊の身を案じて、そちらを優先させたから。

しかし
ついには息切れてゴボッと水を飲んでしまい、深い皺を眉間に刻んで目をギュッと奥瞑りてジタバタともがき、酸素を求めて慌てて浮上する。


「ぷはぁッ!」

脱力して酸素を欲する身。それを湖面に仰向かせて浮き上がったまま、ハッハッと単発な呼吸を繰り返していた矢先、雨空を虚ろに眺める瞳より先に水面に浮かぶ片手が何かに触れ、その存在を知る。
はたと瞳が見開けば走る期待に澱みを払い、鮮明なる色が戻る。





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あきゅろす。
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