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#1



普段よりも遅い朝食を居間に運び終えたナルトが、次に爽やかな朝の空気と陽を居間へと招くため縁側に向かう。

寝室のカーテンを開けて朝陽を取り組んでから、ある程度の時間は経っていたにしろ早々に崩れはしないと決めつけてガラス戸を先に軽々と開け、順にと木枠を持ち。ガタガタと鳴る雨戸を掴み引く手に、踏みしめる足裏にと、力を籠める。

敷居と引き戸の木擦れた音が止むと、今度はポツリと軒先を弾く水声がナルトの耳に響いた。


「…雨、降って来たんか?」


招く疑問に見上げた空は朝陽をどんよりとした灰色の雲に隠して、落とす雫玉を瞬く間に線状へと変え、次第に庭木の葉や庭石の色を濃くと染め行く…――


起きて一番に見た朝空とは違う色彩が、これからサスケを起こしに行く事も、朝食を採る事も忘れさせてナルトの行動を停滞させた。(珍しくもない雨模様だというのに…)漸くしてナルトが向かった先は、どちらでもない湿った土壌だった。


サンダルを穿く事もなく裸足のままで、ひたひたと数歩進んでは出来立ての水溜まりへと足裏を飛び込ませ、愉快だとニィと笑み。また別の新たなる水溜まりへと移動しては、泥水が衣服に跳ねてもお構いなしと、勢いよく水玉を弾かせる。

パシャリ、パシャリ……と連続的に。



「もっとデッケェ水溜まり出来ねーかなぁ…、例えばこーんくれェのッ!」

水溜まりに足を浸けたまま、両手を一杯一杯に広げて雨空を声を張り上げた、その時だった。





『作ろうか?』





「へ?」


不思議な音声が雨音に混ざり、ナルトは声の主を探してキョロキョロと盛んに金糸を振り周囲を見渡した。
しかし幾ら見回しても視界にそれらしき者の姿は入らず。
もしや…と、今度は二階を見上げる。
毎夜、寝床を共にする彼が起きたのかもーー、との予測を基に。

けれど影すら見あたらず。
検討違いだったと一頻り濡れた顔を下向せる。
そうした刹那、捲り上げたズボンの裾がツンと突っ張った。

その感覚を受け取りそこへと目向けば、雫型に棒糸状の手足を生やした薄青色の見た事もない物が瞳に宿る。

ナルトのズボン裾を掴み見上げている、何処からやってきたのかも解らないこの物体は何かに属する生き物なのだろうか?
興味津々と腰を屈め両手を揃えてその形態を掬い、ゆっくりと持ち上げて見つめる距離を縮めた。


「アメンボ…とかじゃねーよな?」

「……ーーー。」

何処かで見た瞳形と色。ぶっきらぼうな顔つきをした生体を更に凝視する。

「オタマジャクシでもなさそうだな?」

口寄せの術を知らず知らずに発動させた覚えもなく。またこんな水で膨らませた風船を縦長くとしたような生物の存在は知らない。
うーん唸り首を傾げ考え倦むが答えは一向に浮かばず。

「オレってば、お前みてーな生きもんを知んねーし、見たこともねんだ。なあなあ、お前って何?そんで一体どっからやってきたんだ?」


浴びせられる碧瞳に幾たびか瞬き、への字型に口を下げ、狭めた黒目を横流しツンとするが、あたかも照れたみたいに、もごもごと口を動かしだす小さな生物にナルトは注視し続けた。

「ーーー…雲の下で楽しそうにしてるオマエを見てたら…‥その‥‥、なんだ、‥…少しだけ一緒に、やってみたくなっちまって‥雨雲から落ちてきたんだ。」

重ねた掌に乗るこの生物は人の言語を理解し喋る事以外、正体は明白にならずであったが、単純な思考はそれ以上を問う事はなくとして安易に納得をしてしまえば、その顔色がパッと華やぐ。

「へェー、お前も水溜まりバシャバシャすんの好きなんか!」

「したことないからしてみたくなったんだ。」

「ふーん。確かに水溜まりなんて雲の上じゃ、出来そうもねーもんな…」

「雨になって落ちるだけだからな。」

「そっだな。…んじゃっ、一緒にやってみっか!」

「…あ、…ああ。」

惑う雨ん坊に遊びを急かすナルトがニッコリと笑う。


「オレはナルト。一応、ココんちのもんだ。ヨロシクな!」

「俺は‥……雨ん坊、だ。」

「ところでお前、ちっこいクセに、なーんか態度デカイし、目つきわりィのな。」

「………ーー。」


呟きを聴いて口籠り瞳を狭めた雨ん坊を、そっと庭土へと差し向けると掌上から飛び出した棒線なる足裏がパチャッと小さな小さな雨溜まりに潜り、細かな飛沫を放った。

「どうだ?、なかなか面白ェだろ?」

「ーー…まあな。」
「へへッ、そんじゃ今度はアッチの一緒にバシャバシャしよーぜ!」

指差した方位に早速と駆け出したナルトを追って、ひた走る華細い足。まだ誰も踏んではない水溜まりの前で佇み待っていたナルトが、雨ん坊の到着を期に音頭を取る。

「せェーのッ!」

同時に二人でバシャッと飛び込み泥水を撒き散らす。
足や衣服が汚れようとも一切、気にする事なく、庭に出来た雨溜まりを探しては順々にと揃い踏みで飛び込んで行った。勿論、小さな雨ん坊を配慮して。


パシャパチャと大小に分かれた水冠つくる跳音が雨の音符に混じり愉しげな和音を奏でる。その楽曲がナルトの笑い声と共に弾み、庭中に響き渡った。

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