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*2

足元にはだらしなく仰向けたアイツの顔。俺に気がつくと緊張を失った碧だけが色を宿し。

「オーダァアアアー!オカワリのスイカ入りましたァー!」

今の気温と格好からしてのテンションじゃねーだろよ。
縁側へ下ろした庭土につかずな足はバタバタと落ち着きを知らず行儀悪くと暴れている。

「オラ、ちゃんと体起こして食え。」

「あ〜、ハイハイ」

むくりと上半身を起こして、盆に手を伸ばす。また聴こえる、しゃくしゃくと水を育む音。
そして口含んだ種がプッと勢いよく庭へと飛ぶ。


「なァなァ、こっからスイカ生えたりしねーかな」

「アホか」

「サスケは現実的過ぎなんだ!夢がねーってばよ」

「お前が夢見がち過ぎんだよ」


頭を軽く小突くとムキになってうるさくなったが暫くしてふと少しいじけたみたいに背中を丸め俯いた。

「サスケ、お前ってば昔っからそーだよな…」

「何がだよ…?」

「お前さ、目に見えるものしか信じてねーだろ?」


…心外だった。

お前に出会ってから、俺はその目に見えないものに散々振り回されてんだよ。
まァ、そんな事は口にも態度にもしないがな。今だって、暑さに厭わずと装いを崩しちゃあいない。そんな事すら伝えなくともお前なら…と都合良くな思考に支配されて眉は顰み、鼻腔から漏れた溜め息。

ビシッと指差しズバリそうだろうと指摘した得意げな面は、そうやり落とした俺の面持ちを不思議だと捉えたかはたまた、空色の瞳に憂いめいた濁りをつけた。
しかし刹那、早くと重圧な夏雲を追い払った太陽の陽を思わす細やかな金糸の線が上下に重なり合いて弧を描き、唇から白を大きく浮かびあわせ、昼下がりの空を匂わせる表情に変わった。
逆に此方が何事かとなりパチクリと瞬きをすれば、スイカを片手に勢い良くと立ち上がり。

「よーしィ!決めたってばよ!!」

「何が」と問う以前を許さず庭へ足裏をつけ、勢い良く駆けて行った背中を目で追う。ピタリと止まり一人何かに納得して一つ頷いくと日当たりの良い場所で背中を丸めて、しゃがみ込む。そうした間も無く、スイカを摺らし行く沈んだ頭。石並ぶ段差向こうへと一体何をしてるのだろうか…と目を凝らして大凡を読み取りスイカに手を伸ばす。
いそいそとがっつき食っては頭を縦横に揺らすアイツとは全く反して口に付ける都度、現れた種を指先で取り除き緩っくりと水分しかない冷えた果肉を喉に流して涼をとる。

空いた片手は植木が並ぶ土壌をそれらしくと掘り起こして土均でもしてるのだろう。

事が済んだと立ち上がり、くるりと踵を翻せば此方へ前のめりでドタバタと縁側に舞い戻った途端、挑発的な笑みを浮かべて俺を見やる。

半ば小馬鹿にしたかにケッと吊り上がった片顔、ガッと乱雑にスイカを持ち掴んだ両手から訊かずとも続く所作に予測がついた。

互い会話もなくとして縁側を去ったナルトは塀沿いの元位置から左寄りへ一歩二歩と蟹渡ったのち、庭石を跨いで日当たる土壌へと伸ばしつけた片足の先をせかせかと動かした。

闇雲に土弄った足を退き、脚間を開いてしゃがみ込めば脇をしめスイカに制圧された右手と左手へと顔を落とす。右往左往と規則的に動く頭は距離感ある縁側からでも分かる慌ただしさは、視てるだけで騒々しく。不快あがる熱射と煩わしくと懸念される蝉の鳴声に酌量を与えた。

「よっしゃあ!任務完了ーーッ!」

蝉時雨を破るデカい声と共に立ち上がった背中、汗散る金鵄の糸。一切れのスイカを食し終えたばかりの唇を拳で拭う俺へ白身しか見えないスイカの皮を見せつけ溌剌に、してやったりと笑い。至近真っ正面へとそのままの面を飛び込ませ薄い縦縞を二つ盆にトンと置く。

「お前んちの庭、スイカの名産地にしてやったってばよ!」

「………ーー。」

幼稚な発想を行動し張りだした笑顔に言葉を失った。到底、己と同じ歳とは思えないと。
だが、それすらも可愛いいなんて和みつけるとは…、本当に重傷だ。


「オレが毎日、水やりに来てやっかんな! 」

「…ああ」

植物を育てるのは得意だと胸をバンと叩き、自分が施した場所を縁側から眺めては高揚感を隠せずと笑う無垢な瞳と唇。
どうせ直ぐ飽きるだろうと思うも毎日ナルトが家を訪れる事の方が嬉しく、反感を買う言の葉を噤んだ。

「…ったく」

一角から俺へと移った澄んだ瞳と期待に満ち溢れた顔へ、わざと溜め息を吐き一句を漏らしたのは俺の本意を知られないが為。愕然と伏せ落とした髪の内に宿る微かな笑みを見られちゃならない為だった。


「風呂入れ」

「オゥッ!わりィな、汗べたべたでさ。」

頬骨の横でぱたぱたと風送る掌が直射でへとへとだと喚きつけ風呂場へ向かい立つのを常を保ち見送り、奴の背中と気配が去ったのを切欠として突然、訪れた倦怠感に盆を片す気力もなく。また数歩の距離へ足伸ばせば届く涼しな畳へと向かう事もなくと、ナルトへと敷いた座布団を二つ折りにし、そいつを枕と床へ寝転んでしまった。

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