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*3


…それにしても暑い。ナルトと一緒に水に浸れば熱気からのだるさもとれるだろうに、そうしなかったのが不思議だ。

こんな意識までも溶けていきそうな陽射しが黒髪や肌をチリチリと焦がす。

仰向けへ寝そべり直し右手の甲を瞼に乗せ瞼を閉ざしただけでは遮断出来ない照りつけを防ぎ、ただ時折リン…と鳴る風鈴へ鼓膜を預けて有機質が繊弱温さを奪い朧気のみ快適とさせた風に心頭を傾けていた。

澄んだ硝子に弾く音色がナルトの声音に似ている…

赤く焦げ付くの世界を淡い寒色へと変える白波の波紋が広がっていくような感覚が薄い皮膚で蓋された網膜の裏側へ宿る。浮かんだ清涼でいて透明な空白へ転がり弾むビードロの玉…

これはきっと、ナルトの瞳の色だ。


微睡みへと導かれた意識が創りあげた光景は清浄で心地好く。アイツの色素の抜けた髪や瞳やらの淡い配色のみで出来上がった映像を脳内へ拡大させてゆきながらいつの間にやら深い眠りの縁へ堕ちてしまう……








どれほどの時が経ったか、わからない…




背中に何かがくっついた感触に覚醒した。


重苦しい瞼を持ち上げ見えた空は大分陽が傾いて全域をオレンジ色へと染め移していた。


「…ナルト」

瞳孔に映った空へ名を刻むと乾き切らない雫が一つ頬へと落下した。
そして俺から見て逆さま顔の唇が額の上でふわりと開いた。

「こんなとこで寝ちゃあ、ダメだってばよ。」

ホラと後髪に差し入った主との顔が遠退けば、こんなだらしない姿を見られた事に対しての気恥ずかしさと気まずさが渦巻き。何とも言いようのない困惑に唇を噛み締め、床板と肩甲骨の隙間に差し入った腕を必要ないと機敏に半身を立ちあげた。

「どこで寝ようが何をしようが俺の勝手だ…」

寝起きで虚ろとなってた眼差しに強気を呼びつけて振り返り、持て余す結果となった腕をグイと引っ張って引力のままと胸元へ誘ったナルトの肩を抱き。

「ここは俺の領域…だからな。」

クッと薄く笑った突発的な支配に、耳や頬に帯びた赤い色が不自然だと感じるほど、懐へ取り入れた乾き切らない金糸や肌理やかな皮膚が冷んやりとして寝汗の不快感を一寸で忘却させた。

石鹸とナルトの甘い香りが鼻孔に混ざると夕刻の静寂した空気が清らかに感じ、呼吸を深く一度。蜩(ひぐらし)の鳴き色愉しむかに瞼を閉ざして、確定出来ない関係を生産してしまう一言を喉元に詰まらせ、力籠もる片手の五指をナルト肩に埋め、声を殺した唇だけを虚ろに刻ませていた。

「…お前も風呂入って汗流してこいよ。すんげー、べったべただぞ。」


お前みたいな夕焼けだと空色に相乗をつけ惚けてはいたが、藪から棒に突き放された不器用な優しさに、呼び戻しされ「そうする」と立ち上がって背を向け浴場へ。




汗を流してさっぱりとはしたが、怠感は抜けず。麦茶でも飲もうと台所続きの居間へ赴くとナルトの姿はなく。代わりに水切った笊に入ったままで受皿すらない延びきった素麺と、結露貼る褐色透かす硝子の器が卓袱台でその存在を主張していた。


礼のつもりの配慮だろうが、たかが素麺を茹でただけでどうしたらこんなに台所が散らかる?

何かないのかと漁った痕跡もそのままかよ。


そんな事を追及する相手も気もなく。ただ心付けを有り難くと食す事にし席に着いて箸を取り、麺を摘まんで薬味のない漬汁に麺を浸して口に含む。




明日、ナルトに会ったら必ず伝えなきゃならねェ。




麺汁は醤油を水で薄めただけじゃダメなんだってな…。





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あきゅろす。
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