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*1

飴色の床が汗ばんだ足の裏にくっつき、剥がれてはぺたぺたとした音をたてるほど、この長い渡り廊下に照りつけた陽光。素足にまで纏う不快は庭の緑さえ揺らいだ景色をつくりだしていた。

そろそろ…との頃合いを見計らって用意した盆を縁側に置けば、器上で冷気を放ち涼を醸す赤色の果実をも未だにない人影を心待ちにしているように思え、僅かな影を作る樹木に止まり鳴く蝉の声すら、茹だる暑さを直接的に感じてるだろうアイツの嘆声聴こえる。
どちらも喧しいが存在しなければ寂しいものだとの彷彿に自然と唇は持ち上がり細くとなる視線、アイツの顔が頭に浮かべば縁側に背を倒してそれを閉じやり暫く。

頬に立ちのぼる冷気で緩慢に目蓋を開くも陽射しで眇まった双瞳。そこに辛うじで宿ったのは働きかけを失って仕事を休んむ淡水入りの鉢型を逆さへとした曇り硝子。朱と黒の金魚が一匹ずつ寄り添うようにして水面に並んだ柄が遮熱に歪んでまるで泳いでるかに。


「サスケの家は殺風景で淋しいから」
と勝手に此処に吊し
「オレとお前に少し似てんだろ?だからさ買ったんだ、コレ!」
そう言って揃った前歯を見せ笑っては伸ばした指で紙代を小突き、鈴を鳴らしていたか。
無意識からなる愛らしさを思い起こして鈍く瞬く。



チリ リン



仕事を始めた風鈴へと眼幅を広げれば、不意打ちさながら突出した上機嫌な面構え。


「うぉおおっ!スイカじゃん!スイカァ!」

「うるさい、ドベ」
挨拶すら忘れ、俺に呼び掛ける事もなく、塩分溶けて赤を増した果実名を叫ぶコイツに若干苛立ち押しのけて身を起こし、ぶっきらぼうに待ちわびてた果実を食えと促す。

俺の気を無視して一心に向いたスイカを取る手、太陽よりも眩しい笑顔。

「へへっ、そんじゃ遠慮なく…」

縁側にべたっと腰掛け、更に振り過ぎじゃねーかと思うぐらい塩を足し振り。

「いっただっきまーす!」

挨拶を終えた同時にデカい口を縦あけ、しゃくしゃくと三角に切った角を減らしていく。
次々とスイカを食す奴の隣で膝上に片肘を落とし、やれやれ…と微笑ましくも、そのあまりのスピードに傾けた顔は呆れ気味となり、終いにはナルトの鮮やかな食いっぷりに逆に見惚れ動作さえ止まってしまっていた。

「冷えててうめーぞ!オラ、ぼけっとしてねーでサスケも早く食えってばよ。」
「ーー…ああ。」

手渡されたスイカとナルトの破顔に我へとかえったかな一拍遅れた返事をして、赤色の鋭角に口を付ける。

しゃくり…と歯刻んだ実の水分が乾いた口内に潤いを広げる。


先刻、カカシから貰ったスイカをよく冷やしておいたが…と電話し呼び出したのは隣に嬉色を添えたかったから。

単純馬鹿なコイツは恐らくスイカに釣られ炎天下の最中をニコニコとしつつ走って来たのだろう、との察しが容易につく。汗が顳(こめかみ)に一筋通る、この角度からは丁度、金色の髪と夏の太陽とが融けて見える。夏色が似合いだと思わずそちらへ伸びた手指の間にするすると擦り抜けていく金糸にも湿り気が帯びている。俺の指先の行方など然して気にするでもなく、ナルトは未だスイカに夢中だ。スイカの魅力はそれ程までかと、実はさっきから妬いていた。餌をまいたのは俺なのに…

肌に貼りついた半袖の黒いシャツは熱を吸い、目眩を起こしても可笑しくはない暑さはスイカだけじゃ癒やされず。

「水風呂入れるか?」

「んー、でもスイカのオカワリが先…かな?」

この曖昧な返事が肯定の返事だと心得、立ち上がった俺はナルトが逸早く片付けた皮だけのスイカを盆に戻して台所へ下げ、浴槽に栓をして、蛇口を捻り水を張り人肌より少し高い程度のぬるい温度をと用意し、再び台所に戻り冷蔵庫から残りのスイカを取り出しほぼ同一の厚さを保ち切って空となっていた盆にそれを盛り、また縁側へ向った。



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あきゅろす。
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