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心、再び

卵型の中心が淡い有機色の発光を瞬き始めると、天井から地から無数に其れへと伸び纏っている生糸が揺らぎ、微かな亀裂が走った。


厚くと閉ざされた流形の表面に罅が広がり、光の波紋が洞窟内を照らし出す。


その光満ちた景観に圧倒されつつ息を飲み、眼を背けずに瞠る一方、高まりに鼓動が跳ね上がる。


罅が崩れ甲殻の欠片が細かくと一部を崩せば眩ゆい光の乱射に、それを避けるか反射的に防御をとりと腕の肘曲がり、身は竦みて片貌が歪み双眼が眇まった。


奥行き深い光に金糸が煌めき、目蓋を伏せた侭の相貌がサイの瞳に宿ると感嘆なる呼気を震わせる。


「…ナル…ト…」


悪寒に似たような戦慄がのぼる。
夢幻とも思える情景は此の空間を殊更、現実味のないものとさせていた。

呼び名に反応したのか、ナルトが酷く緩っくりに目蓋を開き、碧く澄んだ瞳をサイへと差し向け微笑んでいる。


「…ナルト、戻って来たんだね…」


全容は現れずな段階の羽化から垣間見えた柔らかい微笑みにサイは安堵し、それだけで生命に対する過ちとも思えた己の行動に間違えはなかったと満ち足りてしまう。

己の想いが彼と疎通せずとも“ナルトが世に存在するだけ良い”と感激に見舞われた雫で頬を濡らして破顔を招いた。


「…‥…‥ーー」

笑み弛んだ唇が小さく一句を刻む。
サイへと呼応して…

強い発光で良くは見えぬがナルトの清美とした微笑みと包まれた空祠の内で浮游する姿を黙視し、佇み。直に嬉色を濃くとしたナルトが前のめりになりて両腕を広げ此方へ向かおうと眩さを増した時、サイも受け止めたくと両手を広げた。


「……‥…ーー」


「…ナルト、…ボクもキミが好きだよ。」

ナルトを抱き止めた刹那に生前とは異なる体姿だと判別はついてはいたが、そんな事など如何でも良かった。

まさかと思う現実。望みはしなかったナルトの詞。
聞き逃しはしない。

切れ端しかない下肢のみを包む破れた衣服はナルトの暖かな体温をサイへと伝え。僅か離れて視線を交わせば、ガラス玉みたいな碧眼に己が映り、微笑み合う。
ナルトの笑みに憂いは一切ない。
望んだ以上に幸せそうだ。
ナルトの唇へと顔を寄せるとはにかみ笑い、ナルトも瞳を閉じて唇を近付けた。

思い余って深くと重ねるサイに嫌がるどころか自らも顔の角度を付けて揺らす。


「……っ…ん…」


「…っナルト、…愛してる…、ずっとキミが好きだったんだ。」


「…‥…き、…‥」


離した唇を求めてナルトがサイに口付ける。

「…――っ…んん…‥っ…」

舌を絡ませ強く結びつけるかに吸い付いたと同時、背後で蠢いていた九つの尾が伸びサイの背中に回った瞬間、鋭く尖りた尾の先がサイの皮膚に突き刺さった。


「…!!?ーー…っ…」

九つの太い尾がサイの身深くと沈み、内蔵を喰い破る様子で徘徊し鮮血が垂れる。それでもナルトは口付けを止めず舌を伸ばして己の口腔でサイの舌を吸引していた。

こんな状況を招いてもサイはナルトを抱き締めていた。

自分を求め、好きだと意志を示したナルトが愛おしく。震撼する傷みは既に麻痺して意識失せ行きても尚、
離さずに
離れずに…


ナルトの背を支える腕がだらりと滑り落ちた頃、触手のような九つの尾はサイから離れ、光溢るる洞内に鮮やかな紅色を振り撒いた。


「…‥ナ、…っ…ル…ーー」


「…好…き…ーー‥‥あ…い…し…てる…、…サ…ーー‥」


明るい笑顔を照らす黒き瞳孔がずるずるとナルトを伝いて地に落ちる寸前に気が付いた。ナルトの片手には紺色の布地が握られていた事に。

枯れた泉の干潟は紅梅の色を取り入れ湿った地罅を修復して行く。

「…スケ…‥ー」

ナルトの途切れた詞をサイが耳入れたどうか、それは当人でさえ知る由はなく。


燦然とする眩い光を背負い、艶やかな紅に彩色されたナルトが唯、穏やかに微笑んでいた。


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あきゅろす。
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