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朽縄

明くる朝

心頭滅却を試みたナルトはサスケと最後の決戦をした地へと赴く。

野鳥の囀りに混じる激しく落ちる滝の轟音を聴覚で捉え
朝露に湿る樹々立ち並ぶ景色の先にある飛沫上げる水面眺め、唇を固結ぶ。


脳裏に浮かぶは
サスケの姿と結んだ指の感触、そして彼の切なさ溢れた表情。

緩い瞬きをすれば、今度は大蛇丸の隠家で彼の姿を目にした時の事が浮かび上がった。


感情宿らずな鉛色の褪せた瞳は、まるで己を軽視するかに殺伐としていて以前の彼とは違っていた。

それでも
己は彼を想い、執拗に同じ場所に居たいと願う。

それは世界が破滅しても…ーーと。



願ってはいけないと頭を横振り払拭させ、常備している彼の残した傷刻む額当てを掴み握る。


その時


「やあ、ナルトくん…」


聞き覚えのある声が背後より。
顔を上げ振り変えりて見れば思い寄らずな人物が立っていた。


「…カブト、お前まだ!」


鋭く睨む碧の眼孔を嘲笑うかに眼鏡の眉間縁を指先で持ち上げ、唇に弧を描き一拍の間をとり。戦闘体勢を作りてザッと砂利踏む間隔を物とせずに口開く。


「ボクは君と似たようなものさ。“尾”じゃなく“頭”だけどね。」


「だから何だってんだ!」


カブトの体内に潜む者はサスケの手で退治された筈ながら、余力をカブトの身に宿らせた事など知らないナルトの前でカブトの顔面が鱗のような皮膚へと変えていった。


「別に君と争う気はないよ、そんな無駄な事は大蛇丸様も望んじゃいない。君だって無益な殺戮は避けるべきじゃないかな?」

「じゃあ…何でっ!」

「ん?…ああ、口で言うよりボクの体内に宿るものが何なのかを姿にしてみた方がキミにはわかり易いだろうと思ってさ。戦うなら、こんな機密を簡単に明かさないよ。」

確かに…と問い詰める口を塞ぐが気は赦さず殺気立てた侭、カブトの動向を見据える。


「君に情報を教えてあげようと思ってね。サスケくんの事、気になるだろ?」


今更になって何故とは思うも、彼の情報は欲しく。臨戦態勢を幾分か解き、握った額当てを懐へと仕舞った。

「サスケが、あいつがどうしたんだってばよ。」


「サスケが暁側について木ノ葉を襲撃する予定を立てるまでの経緯はキミも知ってるだろうから割愛して…。サスケくんがキミをどう思っているか、サスケくんにキミの想いを伝えたボクとしては責任を果たさないとと思ってね。」

「ど、…どういう事だ…?」


「わかりやすいんだよ、ナルトくん。キミはサスケくんに友情以上の想いを馳せてるなんて、見抜く奴は見抜くさ。目は口ほどに物を言うって諺もあるしね。だからボクがサスケくんに教えてあげたんだ、サスケくんが何故キミが自分に執着するのかって顔してたからね。」


ナルトの顔が青醒める。
隠してきたつもりの気持ちをいとも簡単に他人に暴かれ、そして一番知られたくない人物に己の本意を証されてしまうとは…。

「サスケくんは何も言わなかったけど、驚いた顔をして直ぐボクに出てけと殺気立て、その後大蛇丸様を裏切り…」


カブトの声などナルトの耳には届かず。
何も見えず
聞かずとなって膝を落とし、地に四つに這い愕然と伏せていた。



『サスケに知られた。サスケに嫌われた。サスケに軽蔑された。きっと、あの時よりもっともっと冷たい眼でオレを見るんだ…。気持ち悪ィって面をして…ーー、要らないって言われちまう…』


「ナルトくん?」


ナルトの異変に声を掛けるが返事などある訳がなく。喪失に見舞われた姿に近寄り懐から小瓶を取り出しては地に其れを転がしてナルトの目先へと示した。

「ボクの声が聞こえてるかどうかは別として、暁から仕入れた情報を教えておくよ。九尾であるキミが暗黒なる世界を望み覚醒した時、救世主である写輪眼…ーー、つまりはサスケくんがキミを救いに現れる。キミはサスケくんを復讐の念から放ちたくと今まで彼を追い、共に平穏を望んできただろうけど、本当は逆だったんだよ。サスケくんはキミを糧に君臨する存在となってキミを天に葬り平和を築くべき使者。暁の長マダラと一緒に最後に笑うのはサスケくんだけ。キミは利用されるだけの化けモノ…、だから暁はキミを狙う。キミを匿う木ノ葉を狙う。いち早く戦乱を防ぐ為に。なのに木ノ葉は自分たちを正義としてうちは一族に世を委ねようとはしないから埒が開かない。こんな正義は要らないだろ?キミが信じてきた正義なんて所詮は千手が築いた体裁と制度を繕うだけの下らないものだったんだ。」


「…サスケにだけは会いたかねー…」


「兎に角、ボクの話はこれでお終い。
そうそう、どうするかは別として…ーー
この薬を飲めば楽になれるよ。散々辛い目にあって最後まで利用されるだけの可哀想な“器”へ、ボクからのプレゼント。」

肩を一つ叩きカブトがナルトの前から姿を消し去る。



ニヤリと片唇の端を引き攣らせて…


跡形もなく
何処かへ消えた。


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あきゅろす。
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